第3話 雨の音
六時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。今日は火曜日。掃除の時間は火曜日と木曜日はない為、気持ち程度だが早く帰宅する事が出来る曜日だ。
窓の外を眺めると小雨ではあるが雨が降り始めていた。
そそくさと帰る準備をし、昨日と同じくお気に入りの場所へ向かう準備をする。
僕が住んでいるマンションには、自身の部屋もあり心休める場所ではあるのだけれど、お気に入りの場所にはあって僕の部屋には足りてない物があった。
それは……
雨。
池。
ベンチ。
この三つが折り重なった時、僕からすると特別な癒しの空間になるのだ。
ベンチに腰掛け池を眺めつつ雨の音を楽しむ。その事を頭の中で想像するだけでも気持ちが落ち着く気がする程である。
とりわけ僕はある理由で音に敏感というか苦手なところがある。けれど雨の音は違った。嫌な音、不快な音、危険な音など、そういった音達を雨は上から塗り潰してくれている気がして雨の音は大好きだった。
いつものようにコンビニでペットボトルジュースを買い、晴々した気分で公園へと向かった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
公園に入りヘッドホンを耳から首に回し歩いていると、響き渡る声が聞こえる。
「やめて!!!」
男女が揉めているではないか。カップルだろうか?男性は平均的な身長で髪は金髪ショートの耳にはピアス。いかにもチャラそうな出で立ちの他校の学生だ。出で立ちを見る限りだと正直あまり関わりたいとは思わない。女性は小柄の黒髪ロングで同じ高校の制服……
そこまで理解すると心臓がドクドクと早く脈打ち始めた気がした。
もしかしてあれは……
水元さん?
彼氏さんかな?
痴話喧嘩中……てこと?
色々と脳裏を回転させていると水元さんらしき女性と目が合った。
彼女は困惑しているような目つきで僕に視線を送った。
そこでやっと男性が彼氏ではない誰かだという事に気がついた。金髪男性のような好戦的な出で立ちではないけれど、黒髪ミディアムヘアのひょろっとした出で立ちだけれども、唯一好戦的になれるポイントがあった。
心がおどおどしているのを隠すかのように意識的に胸を張り水元さんの所へ向かった。
「少しだけだって、付き合ってよ〜」
「イヤだ!!!」
「彼女に何か用ですか?」
その瞬間金髪男性の鋭い目つきが僕の方へと向けられた。しかしここで怯むわけにはいかないと唯一好戦的になれる百八十センチの長身をふんだんに駆使し金髪男性を威圧してみせた。
彼は僕の事を見上げると「男いたのかよ」と捨て台詞を吐いて足早に去って行った。
「橘くん、怖かったよ〜!!!」
水元さんは目元に少し潤いを溜めながら、傘を握っている僕の学ランの袖口を彼女は右手で握り締めた。
「大丈夫だよ、僕が側にいるから」
その一言と共に僕の右手は無意識に彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でていた。
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