第3話 知識を背負って

 フラちゃんが右手の親指と中指をくっ付けて、パチン!とキレイな音を鳴らした。それと同時に教室で毎日顔を合わせる黒板が現れて、宙にチョークが数本浮かびながらフラちゃんの方へと飛んできた。ルーサーさんとウーナさんは顔を見合わせながら薬の調合とかをしているみたいだった。

「では!始めよう!そもそも我ら上位者は十二柱いた」

「それは学びましたー」

「なら良し!これより話すのは何故半数は死に、残りが今もなお生きているかだ!なお名前は省くぞ!覚えるの我でも面倒だからな」

 えぇ…まぁ名前を教えてもらう機会がくる度に言われた方が私的にもすっごく助かる

 確かに、六柱は死んだけど力だけは残穢のように残っているって話をよく聞かされていた。だけどなんで死んだのかは分かってない。

「一柱ごとに話していくか…まずはこの世界に一番最初に降臨た一柱目は人間同士の争いを止め、我らが世界に降り立つ基盤を築いた後に…力を使い果たし、尽きた。その力は今なお残ってるぞ!」

「ふむふむ」

 黒板に書いてる字、意外と達筆なんだ。私は偶然持ち合わせていたメモに軽く書き留めていく。

「その次の二柱目と三柱目はこの世界に魔力を広めた。この二人は生存しているぞ!」

 フラちゃんが棒人間みたいなマークを描いて、赤いチョークでハートの形で棒人間を囲っていく。

「そしてここからがちと面倒!上位者同士の殺し合いが起こってなぁ…」

「そんなことあったんだ…」

 そんなこと今の今まで知らなかった。大昔に人類が大戦争を起こしたのはみんなの共通認識だったけど、上位者同士で争いあったのは初耳だった。

「その結果!四、五、八、九、十が死んだ!この時点で半数死んだな!一と四、五に八に九、そして十が力だけをこの世に残して死んだ!」

「えーと…一、四、五…」

 私は黒板に列挙された数字を流れるように記入していく。十秒もかからない内にその数字を一部埋まった紙に書き残した。

「残ってるのは二、三、六、七、十一、十二だな!さて…今から上位者を封殺する!と言っても確実に返り打ち、運良く生き残れても四肢は無くなるだろう…」

「……」

 想像してしまう。両手、両足が無くなった自分の姿を、達磨になった私の姿を。考えるだけで鳥肌が立ってくる。どことなく吐き気も催してきたような気もする。

「それでだ、まずは九柱目の力を奪いに行こう!ホントなら十柱目の方がいいんだが…ここから遠すぎなんだなぁ…」

「……九柱目の力ってどこに…?」

「ここから北東に行くと寂れた村がある。そこの奥地に力はある。変な奴が上位者の力を欲しがらなければアクシデントなぞ起こらずにスムーーーズに終わる!」

 私がそれに答えようとすると横からルーサーさんの声が心地よく響いてきた。

「目的地決まったみたいだね。ニニさん、準備ももうじき終わる。通ってる学校に欠席連絡とかしておいで、親御さんにも」

「は、はいっ!してきますー…」

 私はそこから逃げ去るように部屋から出て行った。螺旋階段の前で私は右手のひらに魔法陣を開く。

伝達魔法トランス…理由何にしよう…遠出するとかでいっか」

 魔力導線マナルートっていう見えない魔力の経路を伝って、学校に私の欠席を伝える。了承された時は向こう側から魔力が伝わってくる。これ、楽なんだけど不便なんだよね…。魔力を中途半端に使うのがなんかヤダ。

「………返ってきた」

 了承しましたっていう魔力が私の中に流れる。頭の中でそのメッセージが数回流れて、スッと記憶から消えるみたいに流れなくなった。それと…家に連絡…。

「したところで…誰もいないじゃん…」

 私の両親はもういない。私が小さな頃に突然いなくなった。その後は親戚中をたらい回しにされた。忌み子やら悪魔の子とか言われ続けられたけど、対して気にしてなかった。今の学校に入学したタイミングで私は独り立ちした。一人が嫌だったら友達とかとつるんでるし、親がいないからって…孤独を感じているわけじゃない。

「戻ろ…」

 私は再びその部屋に入った。ルーサーさんは荷物を袋に入れて、使い終わった道具達を仕舞い込んだりしていた。フラちゃんはウーナさんと何か喋っていた。まるで夫婦のように見えてしまった。人間と上位者なんだしあり得ないけどね。

「連絡してきましたー」

「お疲れ様、服装そのまんまでも大丈夫そうかい?」

 ルーサーさんが首を少し傾げて私の服を下から上へと視線を移動させて聞いてくる。

「この服魔力を使えばイメチェンできちゃうんで平気ですっ」

「分かった。出発はもう出来るかい?」

「………出来ますっ!!」

 私はお腹の底から大きい声でそれに応える。それを聞いて、ルーサーさんは軽く微笑んで、リュックサックを一つ私に手渡した。私はあまり重くないそれを背負って、ルーサーさんと共に地下室から出て行く。その背後でウーナさんとフラちゃんが手を振っていたのに気づくのに時間はかからなかった。

「頑張ってくれ…無事を祈る」

「何かあったらそこのルーサーでも盾にせい!」

 私はそんな二人を見て意気揚々と手を振り返しながらその空間に響く大きな声でこの言葉を言う。

「行ってきます!」

 ここで得た知識とルーサーさん達が準備してくれた荷物を背負って、経験したことがない程の大きな旅がくるって考えると愉快な気分だった。ルーサーさんも心なしか足音が弾んで聴こえた。心震わせて地上へと続く階段を一段ずつ踏みしめながら昇る。まだ見ぬ世界に期待を込めながら。

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