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 口にピアスを開けてから1年が過ぎ大学に入って2度目の秋が来た。


 赤のタータンチェック柄のボンテージパンツとボロボロの白のパラシュートシャツを着て大学へと向かう。


「今日は月曜日か…」と心の中で考えながら武蔵小金井の街並みを歩いた。


 駅のホームに向かうと中央線は止まっていた。

 乗る予定の一個前の8時1分発の電車に飛び込み自殺をした人がいたそうだ。


 あたりは騒然としていた。警察と駅員が取り囲んでいたが、電車とホームの間を通りすがりに覗こうとする人や電話をしている人、SNSに愚痴を書く人など様々な人がいた。


 午前中の講義のために大学に行くのが面倒臭くなった僕は家に帰って二度寝をした。


 13時アラームで目を覚ました。

 

 洗面台の鏡を見て口のピアスを外す。近くでまじまじと見ないとバレないとは思うが、その上からファンデーションとコンシーラーを重ねてピアスホールを隠した。


 髪を整えて白のワイシャツに黒のスラックスを履き、アルバイト先のカフェに向かう。


 僕はSiestaというカフェで働いている。住宅街の中にある隠れ家のようなお店で木目基調の内装にドライフラワーが飾られている。


 「あら、ヒカルくんじゃない!」 出勤をするとすぐに奥のテーブル席から声をかけられた。


 「これはどうも、お久しぶりです。 奥さん」  常連さんの奥さん達がお茶会をしていた。


 ここのお店はそこまで混むことはないのでお客さんとの距離が近いのが特徴だ。


 奥さん達と世間話をしていると「カランカラン」とドアベルが鳴り響いた。ヒカルは奥さん達に会釈をしてカウンターに戻った。

 


「こんにちは、お伺いします」


「お兄さんのおすすめ聞きたいです!」

 同い年くらいの女性が明るい声で尋ねてきた。


「僕、めちゃくちゃ甘党なんですけどお客さん甘いの大丈夫ですか?」


「私も甘いの好きなので大丈夫です!」


「よかったです。でしたらチャイティーラテに蜂蜜トッピングでミルクを豆乳にすると幸せになれますよ!」



「じゃあそれでお願いします!」



「ありがとうございます!」


 慣れた手つきで豆乳をスチームし、その間に計量しておいたチャイシロップをマグカップに入れ、味がバランス良く全体に行き渡らせるために少しお湯を入れる。そしてスチームミルクを注ぎ、最後にハチミツを3周して完成だ。



「お待たせいたしました。こちらチャイティーラテです」 いつもよりスチームが上手にできたことに内心喜びながら彼女のテーブル席にお持ちした。


「ありがとうございます!」 彼女は満面の笑みでヒカルに会釈をした。





 その後はあまり混むこともなく時間が過ぎていった。


 テーブルを拭きに行くとさっきのお客さんがまだ座っていた。僕は話しかけてみることにした。



「チャイティーラテの味いかがでした?」



「とても美味しかったです! すぐ飲み干しちゃいましたよー! 次からも同じの頼みます!



「喜んでもらえて嬉しいです。もう1時間くらいで閉まっちゃいますけど、ゆっくりしていってくださいね」


「あの、もしよかったらお兄さんのインスタ教えてくれませんか?」彼女は少し緊張気味な声でヒカルに言った。

 

僕は少し動揺していた。


「お気持ちは嬉しいです。今日が初対面なのでもう少し仲良くなってからでもよかったですか?こういうこと言われたの初めてでして」



「はい!もちろんです! いっぱい通います!」



 内心、自分に興味を持ってくれていることがとても嬉しかった。


 

 仕事が終わり、帰る頃には真っ暗になっていた。秋の肌寒さが体を包み込み、逃れようとする僕は颯爽と自宅へ向かう。やっぱり中途半端な人間なのかもしれない。

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