街の外1

〔主人公視点〕

さて、これからどうしようか。

時間帯は既に夕方。初めは広場を埋め尽くす程のプレイヤーが居たが、今は私を含めて数人ほどしか居ない。皆、都市の外に行くかログアウトしてしまったのだろう。

私もこのままログアウトという選択肢もあるが、初日が街散策だけというのは味気ない。

ならば答えは1つだろう。


「……夜狩よがり、行くかぁ」


そう呟いて西門に向かって意気揚々と歩き出しーーー




「なんでこんな人多いんじゃァァァ!!」


人の波に呑まれた。

昼見た時の倍はいる。住人も、プレイヤーもだ。若干プレイヤーの方が多いだろうか?


ーーーおい!踏むな!

ーーー早く進めよ!

ーーーまて!進むな潰れるぞ!


踏んだり、踏まれたり。潰したり、潰されたりと、9年前の非常事態宣言並の酷さだ。


こういうのを阿鼻叫喚とッつう……!


「貴様らぁぁ!!!これ以上騒ぐなら突き殺しってやらぁ!!!」


突如、前方から老人の怒声が響く。

あれだけ騒がしく混沌としていた大通りは水を打ったように静まり、全員の目線が老人に向けられる。

70は越しているだろう彼は金属製の兜と鎧を纏い自身の身長よりも長い槍を片手で持っており、老人とは思えない気迫を放っている。

そしてその後ろには同じような装備のもの達が何人も並んでいる。


「神の恩寵を受けたと言えど、これ以上街を乱すことは衛兵長の儂が許さん!衛兵!」


ーーー広場に向かうやつはここを通れ!

ーーーその邪魔な武器をしまえ!牢屋にぶち込まれたいか!

ーーー指示に従え!斬り殺してやろうか!ああん?


彼が声をかけると、後ろに並んで居た人達が前に出て歩行者誘導を始める。

どうやら彼らは衛兵で、老人は衛兵長らしい。さすがにあの混沌具合は目に余る様子だったのだろう。


彼らの仕事により15分ほどで渋滞は解消され、スムーズに通行できるようになり私も西門の前まで辿りつくことができた。


この街唯一の出入口なだけあって幅は10m以上あり、一気に何十人もの通行が可能だ。現にプレイヤーだろう人が何十人も入ってきている。

私はその人の流れに逆らい、横を通って門を抜ける。


「待てそこのお前、こんな時間に外に何しに行く」


門を抜けた直後、横から声をかけられる。見ると、50代ぐらいの衛兵が鋭い目線を向けていた。

……気のせいでも勘違いでもなくなんか視線キツくない?


「……そこらの魔物を狩ろうかな、と」


若干緊張しながら答えると、中年衛兵は謎のため息を吐いて説得するように話し始める。


「いいか嬢ちゃん、魔物ってのは基本的に夜の方が強いんだ。奴らは夜目が効くし、一部の奴ら、ここらのだとウルフ系統のやつらだ。こいつらは鼻がいい。

しかも魔物は夜の方が強い。昼の時より興奮しだすし、頭も良くなる。種族の違う他の魔物と連携しだしたりもする。

……だからやめておけ、とは言わん。見たところ嬢ちゃんは【異界人】だろう?噂じゃ死んでも蘇るらしいからな、ここで魔物に殺されても本当に死ぬわけでもないのだろう。

だが、死んだという記憶は残るぞ。嬢ちゃんはその覚悟があるのか?」


中年衛兵は真剣な表情で私の目を見つめる。


私は彼の問に答えることが出来ない。たとえ答えられたとしても、それは真実では無いだろう。

だって死んだことがないのだから。

23年しか生きていない私でもはある。保護課で仕事をしていれば1回や2回はあるものなのだ。

事故で、事件で、病気で、理由は様々だが人は多かれ少なかれ1回以上は死にかけることはあるだろう。


しかし、死んだ経験がある人は居ない。


「……いや、悪かった。俺の半分も生きてないような娘に聞くような事じゃないな。行くなら行け、だが死ぬんじゃ無いぞ」


答えを聞く前に話を打ち切った中年衛兵は、ため息を吐きながら視線を外した。


「……ありがとう」


気遣ってくれたことにか、答えの見つからない問を打ち切ってくれたことのどちらか自分でも分からないまま、呟くようなお礼を言って歩き出した。

出発前の興奮は消えていた。





西門を出てすぐは闇に包まれた平原があり、4km先には朧気に森が見える。


インベントリからチュートリアルの時に貰った「初心者の弓矢」を取り出し、矢筒を腰につけ弓に矢を番えておき、薄ら見える街道を歩き出す。コンタクトの暗視機能がないからめっちゃ暗いなぁ……


目を暗闇に慣れされるために辺りを見回すと、街道から離れて何人かのプレイヤーが戦っている。

私と同じように夜狩りに来た人達だろう。違うのは1人ではなくパーティを組んでいる点だろうか。


暗くてよく見えないが、なにか小さい魔物と戦っているようだ。

私は周りを囲む草に目を向ける。長さはだいたい腰に届かないくらいだが密度が高く、街道から出れば足元の状況は全く分からないだろう。この暗闇なら尚更だ。


なら答えは1つ、目に頼らずに行動すればいい。目を閉じて、聞こえる音に全神経を集中させる。


ーーー〜〜〜!

人の話し声。


ーーーーーーブォン、ザッ。

武器を振り回す音。



ーーーーーーーーーサーー……ザッ、ザッ

風が草を揺らす音……と、草むらの中を掻き分けて進む音。


私は目を開けて、音の方向に顔を向ける。その方角には人影は見当たらず、一面に草原が広がっている。そう、誰も居ないのに音がした。


「みつけた」


街道を外れて音の方へ歩き出す。弓を前方に構え、引き絞りながら。

私は足音を気にせず魔物がいるであろう場所に向けて歩く。

約10mまで近づくと相手も私のことに気づいたのだろう、今まで微かに聞こえていた音が消えた。

5mまで近づいても反応はない。

4m、反応はない。

3m、微かに地面が擦れた音がした。

2m、地面を蹴る音が聞こえ、目の前につのが突き出され、


その体を、矢が貫いた。


「ギュウ?!」


空中で撃ち抜かれた魔物は私の横を通り過ぎて地面に激突し、そのまま動かなくなった。

矢は首から胴体を貫いているので、恐らく、死んだだろう。


「……ふぅ」


矢筒からに伸ばした手を引っ込めながら、私はいつの間にか止めていた息を吐いた。




ーーーーーーーーーーーー

3日遅刻した奴がいるってさ(白目)

本当に申し訳ございません……

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