街散策とゲームシステム2
〔主人公視点〕
「……それは、SF系の古本にある人間のようなNPCってこと?」
ニーシャは驚いたような顔をする。ありがちな設定だと思ったけど、まさか合ってる感じかなぁ?
「う、うん。だいたいそんな感じかな。他のゲームのNPCに搭載されてるAIとは全然違うの。表情豊かで、感情を持っているような感じがするの」
目を瞑り、微笑を浮かべながらなにかを思い出しているニーシャ。
「だから、彼らを人として見てほしい。幾らでも生み出せるようなプログラムだとは思わないでほしいの……」
ぐふっ!ジト目の上目遣いだと!可愛すぎるぅぅ…!
アールトも凸熊もニールも毎日こんなご褒美を貰っているのか?!くっっそ羨まけしからん奴らじゃ!仕事なんぞせずにステーションで一緒に暮らせばよかったぁぁ!うわぁぁあ!!
「……お、お姉ちゃん?」
……ハッ!正気を失っていた…危ない、これが発狂というものか……
多分SとAとNの値が10くらい削れたなこれは
「あ、ああ…大丈夫。彼らのことは人と同じように接するよ。じゃあ、街散策と行こう?ね?」
「あ、うん。じゃあこっちから行こう」
よし!
因みにさっきの妹の攻撃にアールトさんは体を後ろに向け、ニールは嬉しそうな顔をし、凸熊さんは微笑ましいものを見る目をしていた。
解せる
「ここが、この街で1番賑やかな商業区だよ!」
来たのは道中に通った商店街のような場所。
目に映るは大勢の人間、屋台の煙、煌びやかで重厚そうな金属製装備や艶のある革製装備の数々。
耳鼻に届くは商魂逞しい商人達の掛け声、人々の喧騒、肉が焼ける音と匂い。
現代では見られないほどの人の多さに熱気すら感じる程である。
「驚きですか?私も最初は驚きました。今の世界ではなかなか見られない光景ですから」
「はい……この大部分がこの世界の住人なんですね」
私は呆然としたように口を開く。そう、驚いたことにこの商業区を埋め尽くす人々のほとんどがNPC、ニーシャ達が言うにはこの世界の「住人」なのだ。
プレイヤーはいるにはいるし、なんならとても目立つ。明らかに服装が違うからだ。私のような初心者は全員同じ服装だし、ニーシャ達のようなテスターは高そうな装備をしている。
「…名前の通り、ここはファストの商業の中心です。武具から雑貨まで、一般的なものなら揃っていると言っていいでしょう。それにここには「冒険者ギルド」もありますから、今後お世話になることが多いでしょう。後はーーー」
歩きながらこの街について色々と教えてもらった。
この街は第1都市ファストといい、「結晶山脈」を背にして半円型の高い城壁に囲まれた都市らしい。
この街は
西区には街の外に出る唯一の門の西門と宿屋、娯楽施設などが揃った歓楽街。
北区には飲食店から武器屋、雑貨屋など多種多様な物品が揃っている商業区。
南区には街に住む人々の住居といくつかの飲食店がある住宅区。
そして中央区には行政を執り行う城とリスポーンポイントである「バリアツリー広場」がある。
そしてギルドというのは職業を変更することのできる建物のことで、一部の特殊なもので無い限り「○○ギルド」という建物で対応した職業に転職ができるらしい。私はまだ無職のニート……
現状見つかっているギルドは20以上。その中で1番人気は「冒険者ギルド」で、転職条件が緩く、得られるバフが戦闘に関するもので、ギルドからの依頼を達成した時の報酬が上がる、というのが主な理由のようだ。
ギルドの大まかな機能は加入しなくとも利用できるらしいので、アールトさんの言う通りこれからもお世話になる機会は多そうだ。
「ここから西区、歓楽街になるわ〜♪ここは美味しいスイーツとかがたくさんあるのよ!やっぱりリアルの方で味覚情報を買うより、こっちで食べる方が断然いいのよねー!ほらあれとかーーー」
西区の歓楽街はまさに楽園のようであった……。
このゲームは相当高度な味覚再現が行われているようで、スイーツの甘みと香ばしい匂いは本当に現実でスイーツを食べているかのようで、とても幸せな気持ちになる。
お金が溜まったら私も「6種の果物の特大生クリームパフェ」を食べるんだ……
また、意外にも重要だった建物が宿屋だった。どうやらログアウト中は宿屋の部屋でログアウトしない限り、ゲーム内で体がそのまま放置されてしまうらしく、そのままだと身ぐるみ剥がされるらしい。これは凸熊さんが青い顔しながら教えてくれた。尊い犠牲に合掌。
また、宿屋の部屋に滞在していると体力と魔力の自然回復が早くなり、軽度の状態以上(例えば毒・少や麻痺・少など)を回復してくれるらしい。
「ここからは南区だ。住宅区と言うが、ここは商業区で売られてる刀剣を作ってる職人も住んでてな。彼らに会って、運が良ければオーダーメイド品を作ってくれることもある。俺もよく世話になってる」
住宅区のところどころ黒煙が立ち上り、近づくとカーンカーンという音が鳴っている。
そのまま自宅に帰って行く人々だろうか、人通りの多い大通りから路地に抜ける。
路地では青年からまだ教育シュミレーションに通っている年齢のような子が金属塊や防具などを抱えて走っていた。ここで建物奥にいる職人にオーダーメイド品を作ってもらうのだとか。
また少数ながらプレイヤーの職人もいるらしい。
「とりあえず、これでこの街の案内は終わりかな。いやー結構時間たっちゃった……」
バリアツリー広場で背伸びをするニーシャ。太陽は今まさに沈みこもうとしており、空はそんな夕陽に照らされて真っ赤に染まっている。視界隅に表示されている時刻は17時を示していた。もう4時間もたってたのか……
「ああああぁ!!!!!やっばぃ!!」
うわぁ?!??
グルンとすぐさま振り向くと、
「どどどど、どうしよう?!」
「はぁぁあ……落ち着け。今から全速力で向かえば間に合うだろう。たぶん。きっと。おそらく」
ニーシャとアールトさんが慌てた様子で何事か話していた。どこかに行く予定があった感じだろうか?
「……すみませんアリアさん、この後予定が入っておりまして、その、すぐに行かなくてはならないのです。誠に申し訳無いのですが、ここでお別れとさせて頂きたい」
深々て頭を下げるアールトさん。
「いえいえ、十分ですよ。これで見知らぬ広い街を地図も持たずに1人で歩くようなことにならずに済みましたから」
「そう言って頂けると有難いです……それでは、失礼させていただきます」
頭をあげたアールトさんは真っ白な枯れ木に向かう。他のみんなは既に枯れ木の近くに集まってこちらに手を振っている。
「おねーちゃーん!またねー!!」
「うん、またね」
両手をブンブン振るニーシャと軽く手を挙げて片手で手を振る凸熊さん。微笑みを浮かべるニールといまだ申し訳なさそうな顔をしているアールトさん。
この数時間で知り合いが一気に増えたなぁと思いながらこちらも手を振り返す。
「第2都市セカンへ」
アールトさんが呟くとニーシャ達の体が光のドームに包まれ、消えた。
……この木にそんな機能あるとか教えて貰ってないんだけど。
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