戦闘チュートリアル
〔主人公視点〕
景色が一変し、宇宙のような空間から緑が地平線まで広がる大草原のような空間に変わった。私の目の前にはその緑を裂くかのように道が真っ直ぐ伸びている。
「木佐 有華様あらため、アリア様にはこの道を真っ直ぐ行ったところにある、転移の魔法陣がある場所まで歩いていただきます。道中には多数のモンスターを配置しておりますので、それをアリア様の知恵と工夫で切り抜けて魔法陣まで到達してください。時間制限は設けておりませんが、なるべく早い方がよろしいかと」
「武器はアリア様の持ち物に「初心者の弓矢セット」入れておきました。弓という武器は装弾数に限りがありますが、初心者シリーズは全ての耐久値が無限となっていますので何回でも使い回せます。これはチュートリアルに限らずゲーム内でもですので心配せずお使いください」
「最後に、デフォルトでモンスターを倒した時に死体が残るようになっていますが、法律の都合上、流血表現はデフォルメされて白い液体となっています。死体が残るのはこの場所限定で、ゲーム内では死体は残らずアイテムが残ります。説明は以上となりますが、何かご質問があればどうぞ」
なるほど…単純そうに見えてなかなか奥深いとこがあるチュートリアルのようだ。
ただ戦闘に慣れるためのチュートリアルならこんなことはしなくていい。でもこれは「目的地に着くために危険の多い道を1人でどう切り抜けるか」という力が試される。ただ戦闘能力でゴリ押そうとすると痛い目をみる、かもしれない。
……行く前にいくつか質問してみようかな。
「イアさん、ここでモンスターに倒されたらどうなりますか?ここで生き返る?」
「はい。私が今いるところで生き返ります」
「目的地の魔法陣までの距離は?」
「直線距離で約2キロです」
……妙なチュートリアルだ。普通チュートリアルで死ぬことなどないけれど、それを示唆するような言葉が多い気がする。私は警戒度を最大にする。未知の山に入る時と同じように。
まず、地形の把握だ。ここは草原なので障害物は少ないが、無くはない。道に逸れたとこに岩があったりするし、草の高さも伏せれば完全に体を隠せるぐらいはある。ならば……
私は20分ほどルートを考えた後、やっと動いた。イアさんは何も言わずとなりでフワフワと浮いている。
私はまず道に向かって歩き出した。左手に弓を持ち、右手で矢を持って番えておく。矢のストックは20本と結構な量があるので多少無駄使いしても問題ないだろう。
そのことを考えながら「目利き」と「影が薄い」を使用して普通の速度で歩いていく。
すると5分と経たずに白い兎に角を生やしたようなモンスターが5メートルほど前に飛び出してきた。恐らくホーンラビットとかそんな名前のやつだ。
私はすぐに頭を狙って矢を引き絞り、射った。
矢は狙ったとこに真っ直ぐ飛んでいき、モンスターの命を奪った。「弓技」さまさまである。私はそれを確認するとそのまま歩き…出さず、道を逸れて近くの岩場に伏せて身を潜めながら兎の死体をじっと見つめた。
すると1分程で先程と同じく角を生やした兎が3匹現れた。
「……予想通り、か」
私はイアさんの違和感のある話し方とヒントを出すような説明から、ただモンスターを排除しながら前に進めば罠にかかるのでは?と思った。
そして罠とは何かと考えた時、死体についての説明と武器が永遠に使えるという説明から、「モンスターの死体が罠」という結論に至った。
ここまで来ればどんな罠かも予想がつく。「その死体に他のモンスターが引き寄せられる」というのが罠の内容だ。
これを考えたやつは非常に性格が悪いに違いない。「ただモンスターを倒して魔法陣までたどり着くだけ」と考えたプレイヤーの多くが大量のモンスターに襲われて死に戻るだろう。私のような接近戦に弱い武器を持ったプレイヤーは確実に死に戻る。危なかった、気づいて本当に良かった。
私はそのまま道から離れてほぼ匍匐前進のような体勢で魔法陣まで向かった。スキルのおかげか1度もモンスターと出会うこと無く魔法陣まで辿り着いた。予想以上に疲れた……
「アリア様、初見クリアおめでとうございます。貴方が初めての初見クリア者です」
すぐ横にイアさんがいた。この人(?)気配無さすぎ…
「ああ、うん。ありがとう。」
「はい、ではこれでチュートリアルは終了です。あとはこの魔法陣の上に立って頂ければ最初の街「ファストシティ」の転移広場に到着致しますが、初の初見クリアということで、ここで称号システムの解放と称号を授与させて頂きたいと思います」
称号システム?っと、設定に何か……ああ、なるほど。
「勲章みたいなものですか?」
「説明する前にお読みいただいたようですね。その通り、これは勲章のようなものですが、ただの自慢ではなく微小ながら特定の行動にアシストがつくようになるものもあります。今回のはそれです」
ふーん。あって損はないのかな?
「それなら貰っておきます」
「ご了承頂いただきありがとうございます。今回贈らせて頂くのは「思慮深き者」というものです。罠発見や危険察知に微小のアシストが着きます。デフォルトだと頭の上に名前と一緒に出ていますが、設定で他プレイヤーに見せるか変更できますのでご確認ください」
私は頭の上に視線を向ける……青空しか見えない。……ステータス画面を開いてみると、名前の下にちゃんと表示されていた。
公表するか迷ったが、オンラインのゲームで目立ちたい訳じゃないので非表示にしておき、魔法陣の上にたった。
「出来ました。イアさん、色々ありがとうございます」
「設定できたようですね。では、これでチュートリアルは完全に終了です。お疲れ様でした、Oll Life Onlineをどうぞお楽しみください」
その言葉と同時に魔法陣が光出し、目が開けられなくなるほど光ったかと思うと次に目を開けた時には街の広場らしき場所に立っていた。
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