第26話 圧倒的なステータス差

 俺はまだ勝利を疑ってはいなかった。


 国王と俺を裏切った重臣どもを全員抹殺する。そして、新国王として即位を宣言する。王城の兵士が従えばそれでよし。よしんば反応が悪くても、エリンドン派の王城兵や従僕に手引きされて、悠々と城を脱け出せばいい。


 さらにかねてからの計画通り門兵を殺し王都オンドンも脱出。エリンドン家の領地に戻り挙兵する。トバチランド占領軍にもブタイッシュに帰還して王都の騒乱を鎮圧するよう命令する。こいつらは国王直轄軍と諸侯の兵士の混成軍だが、少なからぬ数の兵士が俺の命令に従うだろう。


 一方で、近衛隊を含む王都の守備兵たちは上層部を一瞬で失い麻痺まひ状態だ。おそらく反乱軍が王都に迫っても、ろくな抵抗もできずに降伏するに違いない。


 俺は自信満々で剣を振りかざした。


「貴様ら全員めった斬りにして、亡骸なきがらを広場にさらしてやるよ。カラスと野犬の餌となるんだな。まずはてめえだ……コニウェル、死ねやっ!」


 俺は助走をつけて、この場で武芸レベルの最も高い男――近衛隊長ジョールズ・コニウェル子爵に斬りかかった。


 信じられないことが起きた。俺の剣は軽々と受け止められた。さらに数度剣を交えたが完全に圧倒された。まるで大人と子供の闘いだ。全く歯が立たない。ついには俺の剣は弾き飛ばされ、床に落ちた。さらに俺はコニウェルのけりを食らって、数メートル吹っ飛び倒れ込んだ。お話にならないほど弱かった。


 俺は半身を起こし、呆然とした。


「そうそう。汝のステータスだがつい先ほど最低にしておいてもらったぞ。女神さまに頼んでな」


 国王が楽しそうに言った。


「はぁあっ?」


 意味が分からない。俺はステータスを見た。



 体力:Lv01  (HP:0005  / MAX1000)

 魔力:Lv01  (MP:0001  / MAX1000)

 武芸:Lv01

 容姿:Lv01

 知力:Lv01

 クズ:Lv99




「なんっじゃ、こりゃあっっ!?」


 俺は思わず叫んだ。自分の目が信じられなかった。全身から力が抜けた。地の底にちていくような感覚があった。


 たぶん今の俺の容姿はレベル1に相応ふさわしいブサイクなものとなっているだろう。鏡がないので予想だが、絶望と驚愕で顔面崩壊しているに違いない。もし俺がマンガやアニメの世界の住人だったら、顔芸キャラとしてネットのおもちゃにされていただろう。


 しかし、ここで戦意を失ったら、処刑されるのみだ。なんとか踏ん張った。萎えそうになる気力を奮い起こし、唾を飛ばしながら国王に抗議した。


「国王だから他人のステータスを自由に操作できるというのか!そんなの冗談じゃない、絶対おかしいだろ、チートじゃねえかっ!!!」


 国王は鼻で笑った。


「ふん……まあそういうものだから仕方がないじゃろ。お前をこっちの世界に連れてきた女神さまは、もともとブタイッシュ王家の守護神なんだからのう。それにステータスも自由に操作できるわけではない。異世界から連れてくるときに、その人間にステータスを自由に付与できる。そして一度だけそのステータスを剥奪はくだつできる。ただそれだけじゃ。誰もかれものステータスを自由自在に操作できるなら、朕もこんな周りくどいことはしない。自分のステータスを最大値にしておるわ」 


 もちろん、こんな王の話に納得できるわけがない。だが、俺が納得しようがしまいがステータスが失われたのは事実だろう。


 俺は転生するときのことを思い出した。あの時、女神はあわれみの目で俺を見て、俺のことを「可哀想なあなた」と呼んでいた。当時はてっきり、現代日本での俺の能力や境遇に対し同情し、かつさげすんでそう言ったのだろうと思った。


 無論、それもあったのだろうが、それだけではない。あの表情と言葉はの俺ではなく、の俺に対するものだったのだ。


 あの女神は知っていやがった。俺が転生先で自分の能力に溺れたうえに、肝心な時にその能力を取り上げられて破滅する運命だということを。

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