第23話 緊急会議を要請する

 近衛隊長は俺のクーデターに協力せざるを得なくなった。これで俺は、王城を護衛する近衛兵すべてを手中にしたも同然だ。


 王の近辺を常に警護している特別衛兵も近衛隊の管轄かんかつだ。


 トバチランドでデンゼーリ神殿の管理を行っているのが近衛隊第二部隊。王城守備の任に当たっているのが第一部隊。第一部隊の中でも国王近辺を常に警護しているのが特別衛兵となっている。


 国王は王城の主として君臨しながら、実態は家臣すべてに裏切られて孤立しているのだ。哀れなものだ。


 王太子は俺の屋敷を訪れた際に急病になり療養中ということで国王に報告している。もちろん、いつまでもごまかし続けることはできない。機は熟した。決行の時だ。


 俺は王城の執務室でゲンゴリー・ブタイッシュ国王に対し、深刻な口調で言った。


「トバチランド軍残党およびデンゼーリ神殿の龍王に関する、極めて重大な報告がございます。国王軍特別情報官・会議参与として、私はすべての重臣が参加しての緊急会議を奏請します。場所は謁見えっけんの間を希望いたします」


「むむっ、汝の口ぶり、ただ事ではなさそうじゃのう……よかろう、明日午前10:00、謁見えっけんの間にて緊急会議を行う。すべての重臣に対し参加を命じよう」


「ありがとうございます」


「それにしてもオーターのやつ、こんな重要な時に急病とは困ったものじゃのう……」


 国王が心配そうな口調で言った。俺も心配そうな表情を作って答えた。


「王太子殿下の件ですが、医師の見立てでは流行の病におかされたものと。恐らく侍従からうつったのでありましょう。最低1週間は面会謝絶の上で絶対安静とのことです」


「そうか……あいつはなんといっても朕の後継者じゃ。万が一のことがあったら困るからのう」


王都オンドンでも一番の名医に治療させていますのでご安心を。医師によればすでに病の峠は越していて、命には別条はないだろうとのことです。2週間後には公務に復帰できるとの見込みです」


「それはよかった。早くあいつの元気な顔を見たいものじゃ」


 本当にバカな王様だ。オーターはすでにこの世にいないとも知らずに。そして明日、お前もあの世で王太子と顔を合わせることになるとは知らずに。


 俺は話を変えた。


「ところで明日の会議ですが、出席者全員の帯剣を許可していただきたくお願い申し上げます」


「それは構わないが、どうしてじゃ?」


「王都に潜伏中のトバチランド残党と王城にもぐりこんだトバチランド工作員が連動して、陛下の暗殺を企んでいるとの情報を得ています。なにしろ、明日報告予定のデンゼーリ神殿の新事実は、トバチランド残党にとっても起死回生の切り札となるもの。万が一の時に備えて、特別衛兵に頼るのではなく、重臣たちも陛下の御身おんみを守れるようにしておきたいのです」


「慎重な汝らしい配慮だな。よかろう、全重臣の帯剣を認めよう」


「ありがとうございます。厚かましいお願いながらもう一つ、スザーナ王女を含む全王族の臨席をたまわりたいと存じます」


「全王族が出席する?それは一体なぜじゃ?」 


 さすがに国王は怪訝けげんな顔をした。


「トバチランド王族はすべて滅亡しました。デンゼーリ神殿の管理は代わりにブタイッシュ王族の方々に行っていただかなくてはなりません。特に王族の女性たちの魔力は高いと伺っております。その中でもスザーナ王女は非凡な才能をお持ちとのご評判を伺っております。龍王の封印のためには高い魔力が必要不可欠。万が一の時のために話を聞いておいていただきたいのです」


「……うーむ。汝の言うことならば間違いはあるまい。そろそろあいつも国事に顔を出してもおかしくない年齢じゃ。よかろう。スザーナを含めて王族を全員参加させよう」


 拍子抜けするぐらいあっさりと、すべてが俺の思い通りに決まった。本当にこいつはチョロい。


 これで国王の命運は尽きた。明日の10:00には、新たな主が王座に君臨することになるだろう。


 ブタイッシュ王族の男は抹殺され、女はその場で俺に服従するか処刑されるかの選択を迫られることになる。王妃は殺しておこう。こいつにはゲンゴリー王体制の権威や国民の尊崇そんすうの念が付きまとう。俺の統治がやりにくくなる。


 邪魔な奴は女だろうが容赦なく消すのが俺のやり方だ。

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