第21話 夫人を快楽廃人にする

 宰相は陥落した。残る重臣は近衛隊長ジョールズ・コニウェル子爵だけだ。


 こいつは脳筋バカだけに純粋で国王への忠誠心が高い。そして俺の謀略の成功のためには、何が何でもこの男を手中に収める必要がある。なぜなら、彼を手に入れることは、王城を守るすべての近衛兵を指揮下に置くのと同じことだからである。


 俺は王都オンドン内の中心からは少し外れた所に、とある小さな邸宅を購入した。もともとは富裕な商人か貴族が別邸として保有していたのだろう。小ぶりながらも造りはしっかりしていている。


 小さめの邸宅のわりに敷地は広く、長年手入れがされてないためか草木が生い茂り、ちょっとした林のようになっている。人目を避けるにはもってこいだ。


 ここで俺と子爵夫人フリシア・キルゲーンは何度も密会を重ねた。会を重ねるごとにフリシアは俺におぼれていった。なにしろ俺はチート体力と超絶技巧の持ち主だ。夫人を満足させて肉体と精神を快楽でとろかすことなど容易たやすかった。


 さらにこの女との情事の時に魔法香を焚いてやった。興奮魔法草と多幸魔法草を調合して作った俺のお手製スペシャルブレンドだ。


 魔法香は理性を破壊し感情を増幅させる効能を持つ。チート魔力と体力の持ち主である俺は耐性がある。魔法香などに思考を狂わせられることはない。しかし子爵夫人に対しての効果は絶大だ。彼女は俺と一つになる度に、肉体を構成する原子が宇宙のかなたに弾け飛ぶほどの爆発的悦楽を何度も味わったことだろう。


 そして目論見もくろみ通り、キルゲーン子爵夫人は快楽の奴隷、人格が破壊された性の廃人と化した。もうここまでくれば大丈夫だろう。


 俺はいつものように子爵夫人と寝た。終わった後、とろんとした表情のこの女を言葉巧みに誘導して2通の手紙を出させた。1枚は王太子に宛てて、もう1枚は近衛隊長に宛てて。


 手紙の文面はほぼ同じだ。



◆ ◆ ◆


 王太子殿下へ


 突然の手紙で失礼いたします。あなたに魅了され、あなたのことを思い描き心が揺れ動く毎日です。お会いしたいと思っても、状況上お声をおかけすることすらできず、もどかしく思っておりました。しかし、たとえ世間から受け入れられないとしても、どうしてもあなたにお会いしたくて手紙を書かせていただきました。


 もしあなたの都合がよろしければ、今夜22:00、この手紙に同封されている地図の屋敷の部屋までお越しいただけますでしょうか。わたくしはそこでお待ちしております。夜道にはお気をつけください。


 あなたと会えることを、心より楽しみにしております。



◆ ◆ ◆



 近衛隊長に宛てた手紙も文面はほぼ同じだ。違いは宛先が変わっているのと、時間が22:30に変わっていることだけだ。


 そして封筒には詳細な地図が同封されている。



 約束の日時に先立って、俺はいつものようにフリシアと寝た。今日は魔法草の他に眠り草も混ぜてある。いつものように彼女とのが一通り終わった後、俺はベッドのわきにある小さい机に短剣を置いて退出した。夫人は眠り草の効果でうつらうつらと眠っている。


 俺は屋敷の玄関と夫人が寝ている部屋に撮影用の魔法道具を設置し、奥にある別の部屋に引っ込んだ。そして音声付き映像化魔法で様子を映し出し、ワインを飲みながら待った。


 22:00になると王太子が間抜けな面をしてやってきた。さすがに人目をはばかって軽く変装している。富裕な商人のような身なりにして、髪型も変えている。ぱっと見では王太子殿下とはわからないだろう。


 王太子は屋敷の中に踏み入れた。彼についてきていた侍従と御者の二人は玄関の前の小道にある馬車の中で待機している。こいつらは茂みに潜んでいるエリンドン家の兵士が後で殺す手筈になっている。


 俺は悪意に満ちた調子でつぶやいた。


「間抜けな王太子よ、せいぜい最後の女遊びを楽しむんだな」

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