第11話 嫌味とパワハラは貴族のたしなみ
戦闘に勝利した俺たちは勝利の宴を行っていた。俺は気持ちよく酔っていたが、キルゲーン子爵の仏頂面をみるとこいつへの不満が爆発した。
「ちょっとこちらに来たまえ、キルゲーン君」
俺は一回り年上のキルゲーン子爵を君づけで呼んだ。
「キルゲーン子爵、貴官は何か私に対して含むところがお有りのようですなあ」
「含むところなどは……ただ戦死した兵士たちのことを考えると浮かれる気にならなかったものですから……」
「これはおかしなことをおっしゃる。戦争に犠牲はつきものじゃないですかねえ。それとも、私の作戦のせいで多くの兵士を無駄死にさせたとでもおっしゃるのですかね?」
「正直に申しまして、あのように高威力の攻撃魔法をお持ちなら、味方の損失を抑える作戦がいくらでも立てられたのではないかと思います」
俺はキレた。
「君は私の作戦が拙劣だったと言ってるわけかっ!大体事前にろくな作戦を立案しなかったのは貴官も同じじゃないか!いいですか、敵は右手の丘陵地帯の向こう側に騎兵を隠していた。いくら私でも直接見えない敵を攻撃魔法で攻撃するのは難しい。しかも相手は騎兵。機動力を生かして散らばられて逃げられては大きな損害を与えられなかったはずだ」
怒りを吐き出したおかげで、俺は少し冷静さを取り戻した。まだ20代の若造である俺は、年上のキルゲーンに対し中年オヤジのようにネチネチと言った。
「ご貴殿は私への敬意を忘れているようですねえ。いいですかね、私はブタイッシュで最高位の貴族であり、国王陛下の
俺はキルゲーンをいたぶるように言った。
「私が国王陛下にいいつければ、君を例えばヘンキロン島の守備隊長あたりに左遷するなんていうのはわけないことなんですよ。まああの孤島で魚釣りでもしながらのんびり暮らすのも悪くないと思いますけどねえ。最近はやりのスローライフというやつだ」
ヘンキロン島は辺境の沖合に浮かぶ孤島だ。こんなところの守備隊長になるのは明白な左遷人事でありキャリアの終焉を意味する。
俺はニヤニヤしながら楽しそうに言った。
「しかし、ご自慢の夫人はあんな
「大公閣下といえどもそれ以上言いますと……」
キルゲーンの目に怒りの色が浮かんでいる。剣に手を伸ばす気配が見えた。
さすがの俺もビビった。よく考えればたとえ決闘になっても最強剣士であるこの俺が負けるはずはないのだが。
「まあ冗談ですよ。そんな風に真に受けないでくれたまえ、ははは。我々のような上級貴族の間ではこれくらい軽く受け流せないとやっていけないものですよ、貴殿のような下級貴族ならいざ知らずね」
俺は捨て台詞を吐いてその場を去った。
あくる日――
「総司令官閣下、捕虜たちの扱いをどういたしますか?」
下級幹部の一人が俺に聞いてくる。
「捕虜?そんなものは適当に処……いや……ちょっと待て。検討する」
俺はキルゲーン子爵を呼び寄せた。
「捕虜の扱いを貴官に一任したいと思います。ただし条件は我々の行軍速度を落とさず兵糧にも影響を与えないようにすることです」
「身代金と引き換えに解放せよということでしょうか?」
「それは絶対に許可できませんな。この戦争が終わるまでトバチランド人との交渉は一切禁止とします。万が一トバチランド人と交渉した場合は裏切りと判断しますぞ。身代金無しで無条件で解放するのはもっての外。いたずらに反乱要員や後方攪乱要員を増やすようなものですからなあ。もちろんどこかの屋敷なり牢屋なりに押し込んで見張りの兵士をつけておくというのも不許可だ。今は一人の兵士でも貴重ですからねえ」
「ではどうせよとおっしゃるのですか?」
「それを私に言わせないでほしいですねえ。まあ私の心の内を推し量り、忖度することですな。いいですか、私は貴官がトバチランドに同情的ではないかと疑っているのですぞ。適切に処置してブタイッシュへの忠誠心を示してくれたまえ。それができないようなら貴官はいつまでも子爵あたりで
沈黙するキルゲーン子爵を見ながら俺は心の中で毒づいた。
(キルゲーン、お前は捕虜を処刑しようがしまいが、いずれにせよヘンキロン島守備隊長に左遷だ。俺に不敬を働いた大馬鹿者め)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます