第10話 味方ごと敵を葬る

 討伐軍本隊3万人を率いて俺はトバチランドとの国境近くの村に向かった。地元の領主が言った。


「軍幹部の方々のために当地の名物や酒を用意致しております。当家で少しの間おくつろぎになられてはいかがでしょうか?」


 俺は言った。


「これは嬉しいね。長い行軍でくたびれたことだし、お呼ばれすることにしようじゃないか」


 最初はキャンプのようで楽しかった行軍も今は苦痛でしかない。戦闘糧食にも飽きた。今日は久々に美味いものを喰って、ふかふかのベッドで寝ることができそうだ。


 キルゲーン子爵が言った。


「せっかく用意してくれたご馳走ですが、常に一般兵士とともに野営し一般兵士と同じものを食べるのがブタイッシュ王国軍将校の習わしです。我らのみが歓待を受けるわけには参りません」


 くそっ。格好つけやがって。恥をかかせやがって。これでは俺の食い意地が張っているみたいじゃないか。大体こういう格好つけは俺の専売特許のはずだ。俺はこの時以来、キルゲーンのことが嫌いになった。最初からこいつとは馬が合わないとは思っていたが。


 討伐軍はトバチランド領内に侵入し主要都市のトリミーを目指して進軍した。トリミーまでは両側を丘陵地帯に挟まれた一本道を通る。


 この先で敵が迎撃してくることは間違いない。しかも騎兵が駆け下り突撃することも可能ななだらかな箇所もある。討伐軍はほとんど歩兵であり馬に乗っているのは将校クラスだけだ。一方、トバチランドは騎兵隊を持っている。


 幹部の一人が報告した。


「斥候兵より報告がありました。前方に敵軍約6000人。騎兵隊もいるようです」


 投入された兵力から見て、トバチランドがこの一戦にかけているのは明らかだ。決戦を前に俺の心も高ぶった。


 俺は討伐軍を先鋒隊せんぽうたい8000人と後方本隊22000人に分割した。もちろん俺は後方本隊側だ。別に深い戦略があったわけではない。もし先鋒隊が敗北するようなことがあったら、俺は先鋒隊を見殺しにして撤退するつもりだったのである。


 俺は先鋒隊に攻撃命令を出す。敵も前進する。敵の兵力は歩兵4000人くらいか。双方の弓兵が矢を放った後、本格的な戦闘となった。


「どうなってんだ。数ではこっちが上のはずだろう。なんでブタイッシュ軍が押されている!」


 俺は思わずわめいた。8000対4000のはずなのにブタイッシュ軍はじりじり押されついに敗色が見え始めた。


 それもそのはず。ブタイッシュとトバチランドにはこれまで何の対立もなかったのだから、ブタイッシュ兵たちの士気が上がるわけがない。一方トバチランド兵は祖国防衛のための戦意に燃えていた。


 こういう時、指揮官の態度が兵士にも伝染する。俺はというと……。自分の武術や魔術のレベルが99であることも忘れて恐慌状態に陥っていた。


「やべえ、負けるぞ!どうしよう……。このままでは先鋒隊の敗走に巻き込まれる。くそっこうなったら……」


 俺は火炎魔法を発動した。


「非情なる炎の結界、インセンディアル・バリケード!」


 先鋒隊と後方本隊の間に炎の壁が出現した。これで先鋒隊がこちらに敗走してきても炎の壁で足止めされる。後方本隊まで巻き込まれて敗走することはなくなった。


 俺は近くにいた軍幹部の胸ぐらをつかんで喚く。


「このままでは先鋒隊は壊滅し、我々はすごすごとブタイッシュに撤退を余儀なくされる。何か策を考えろ!」


「と申されましても……」


「いいか、貴様。貴様は今まで兵隊と一緒に歩いて飯食って寝てただけじゃないか!それで国王陛下への義務が果たせるとおもってんのか!将校としての気概を持てや!」


 キルゲーン子爵が割って入り、真面目くさった顔で言った。


「エリンドン大公、戦場で味方同士言い争いをしている場合ではありません。お見苦しいですぞ」


 どこか軽蔑しているようにも聞こえた。そういえばこいつ、『大公閣下』とも『総司令官閣下』とも呼んでいない。俺のことを尊敬していないからに違いない。くそ。


 俺は幾分冷静さを取り戻すと弓兵隊と魔法兵隊に命じた。


「いいか、こちらに向かってくる者には容赦なく矢を射かけろ。味方でも構うな。むしろ味方の背中にも矢を浴びせろ!魔法兵隊も同じだ、氷でも炎でもいいからとにかく攻撃魔法を味方に向かって撃て!」


 俺はインセンディアル・バリケードを解除して弓兵隊と魔法兵隊を後方本隊の前面に出した。


 命令は実行され、先鋒隊は味方に殺されてはたまらないと、再び前進して持ちこたえた。何とか敗走は免れたが、まだまだ予断は許さない。


「ドッドッドッ……」


 地響きがする。


「うおおおおおおおっ!」


 騎兵たちが雄叫びを上げる。


 案の定、右手側からトバチランドの騎兵2000騎がブタイッシュ軍先鋒隊の側面を突くべく斜面を駆け下りてきた。大乱戦となり、トバチランド軍優勢となる。よし今だ。


連撃炎星爆裂弾れんげきえんせいばくれつだん!」


 俺は叫ぶとレベル99の攻撃魔法を発動した。いくつかの火球が流星のように弧を描くと、トバチランド兵とブタイッシュ兵が入り乱れて闘っている戦場に着弾し大爆発を起こす。轟音ごうおんが地を揺らし兵士は悲鳴を上げる。


「ズッドーン!」


「うっぎゃあ!」


「ドゴーン!」


「ぎわああ!」


「バッガーン!」


「ひやあああ!」


 一つの火球で一気に数十人が吹っ飛び、兵士の手足がバラバラになり焼けこげた遺体が転がり落ちる。俺はこの攻撃魔法を乱発しつるべ打ちにした。圧巻だった。俺の攻撃魔法がさく裂し爆炎とともに敵味方関係なく葬っていく。


 俺は叫んだ。


「はーはっははっ!俺は最強だ!どうだ見たか、このレベル99の威力を!」


 俺の活躍によって、ブタイッシュ軍の8千人の先鋒隊には甚大な損害が発生したものの、敵軍を一人残らず壊滅させた。俺は先鋒隊を餌に敵軍の殲滅せんめつに成功した。

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