第9話 司令官に任命されメイドとやる

 開戦は決定した。王宮会議室で国王が重臣たちを眺め回して言う。


「問題は誰が討伐軍の司令官となるかだが…」


 重臣たちは一斉に目を伏せる。誰も好き好んで、快適な王都を離れて戦塵せんじんにまみれようとは思わない。無能で無気力なやつらだ。


 俺は自信と意欲に満ちた口調で言う。


「私に討伐軍総司令官の職をお授けください!必ずや勝利をおさめ王国軍の武威を示し正義と秩序をかの地に確立して参ります」


 重臣の一人が懸念を表した。


「確かに大公閣下は家格としては申し分ないが、いくら何でも若すぎるのでは?」


 王太子が言った。


「いや、今の廷臣たちの中で大公ほどの実力、人望、才覚を兼ね備えた人材はおりません。王国の若い人材を育成し、諸国にブタイッシュの若さと勢いを印象付けるためにも、エリンドン大公を総司令官とすべきです」


 いいぞ。王太子は俺の味方だ。なぜならこいつの遊ぶ金を俺があてがっているからだ。俺は女と金で王太子を篭絡ろうらくしたのだ。


 国王は宣言した。


「大公サイネル・エリンドンをトバチランド討伐軍総司令官に任命する。キルゲーン子爵を副官としてつけよう」


 キルゲーン子爵は30代で謹厳実直なブタイッシュ王国軍人のかがみだ。絶世の美人として有名な伯爵の令嬢を妻にしている。気に食わないやつだ。


 王は信頼と慈愛に満ちた口調で言った。


「エリンドン大公、君はやりたいようにやりなさい。その若き才能を遠慮することなく存分に発揮しなさい。朕は汝を信頼している。戦勝の吉報を楽しみに待っておるぞ」


 ああ、お望み通りやりたい放題やってやるよ。トバチランドを地獄に変えてやる。



 会議は終わり、俺はエリンドン大公家の邸宅に戻った。


 俺はメイドのノーラを呼んだ。俺はこいつを奴隷商人に転売するつもりだったが、意外にも有能だったのでエリンドン家のメイドとして雇用している。そしてこの女には魅了魔法をかけてある。


 俺は言った。


「私は討伐軍総司令官の職を拝命した。近日中に王都をたつ予定だ」


 ノーラが動揺した様子で答える。


「それは急なことですね……、でも私にもご主人様にとって最大の栄誉だということはわかります。おめでとうございます」


「私は司令官とはいえ、兵の士気を鼓舞こぶするために最前線で剣を振るうつもりだ」


 嘘だ。俺は矢も攻撃魔法も飛んでこない最後方で兵士をこき使うつもりだ。


 ノーラは少し震えを帯びた声で言った。


「勇敢なご主人様らしいお話です、……でも私はやっぱり心配で」


「私が不在となれば君もやりにくくなるのではないかい?」


「いえ、屋敷の方はみな親切にしてくださいます」


「それは君の働きぶりを皆が認めているからだ。私も当然認めているよ」


 それは本当だった。ノーラの勤勉さは群を抜いている。


「本当にうれしいです……、ご主人様にそう言っていただけるのが私の一番の幸せです」


「君の働きに報いたいと思う。何か欲しいものはあるかい?何でも遠慮なく言いたまえ」


 『金が欲しい』と言われたら適当な理由をつけて断るつもりだ。


「私はご主人様のもとで働けるだけで十分幸せです。でも……一番欲しいのはご主人様その人……」


 そんなものでよければお安い御用だ。俺はノーラを壁際に寄せるとささやいた。


「私は出征を控える司令官として多忙な身。いわば私の身体は国王陛下とブタイッシュ王国のものだ。それを欲しいという君はブタイッシュで一番強欲でわがままな娘ということになるね」


「私ったらご主人様に向かってなんてはしたないことを……私はメイド失格です」


「いや、エリンドン大公家ではそれが正解だ。君は最高のメイドだよ」


 ノーラが征服されるのを待つ女の顔になった。俺はトバチランド侵略に先立って、ノーラの唇の内側に侵攻を開始し、メイド服の中身を制圧下に置いた。

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