第7話 公爵を誹謗する

 俺はゴブリン駆除を完了させた。トルニー公爵領内にある公爵邸で俺の謝恩会が行われた。豪華な食事と名酒が並んでいる。トルニー公は高齢で病気がちのため、別邸で療養中だ。


 代わりにトルニー家の執事が俺をもてなしている。執事は俺に感謝を伝えた。


「大公閣下のおかげさまで当家領内のゴブリンも絶滅しました。本当にありがとうございます。さすがは国王陛下がいま最も頼りとされる若き俊英。目を見張るような果断で的確な処置でした。私どもトルニー家一同、心より閣下のご活躍を称え感謝しております」


「当家の領地とトルニー公の領地は隣同士。ブタイッシュの貴族として当然のことを行ったまでです」


「いや、まだお若いのに広大な大公領をしっかりと治め、その上で王都での仕事もこなしておられる。それに比べて私どもといたしましたら…」


「何か気がかりなことでも?」


「正直に申しまして、国王陛下の心証が気がかりです。当家の領土内でこれほどのゴブリンを発生させたとなると、どれほどのおとがめがございますことか…。小まめに兵士を派遣して魔物討伐を行っていたはずですが、なぜこのようなことになったのでしょう。本当に困惑しております」


「そういうことでしたら大丈夫ですよ」


 俺は若者らしいさわやかな笑顔を作って言った。


「ゴブリン大量発生はいわば自然災害ですし、それにトルニー公は長く国王陛下に尽くしてきた忠臣です。国王陛下も公爵が病身であることを斟酌しんしゃくして厳しい処置は取られないでしょう。私からも公爵に対し寛大な措置が取られるように国王陛下にとりなしておきます」


「本当に何から何まで助かります」


 執事は俺の両手を握り喜びの涙を流した。


 俺は王城に戻ると、国王にゴブリン討伐の完了を報告した。


「トルニー公爵領内に出没したゴブリンは約2000匹。15の村々が被害に遭い、死者310人、重軽傷約1000人、損壊した家屋は約500棟となっております」


 国王が俺をねぎらう。


「ゴブリン討伐ご苦労じゃった。汝の迅速な処置により被害がまずまずの所に抑えられたといえよう」


 俺は答える。


「とはいえ、少なからぬ民の死者が出てしまったことも事実。私の力不足が招いた結果です」


「いや、それは汝の責任とは言えない。ゴブリン大量発生を許したのはトルニー公爵の責任じゃ。それにしてもなぜこのように突然ゴブリンが発生したのかが腑に落ちない。汝の見解を申してみよ」


「病身の公爵への誹謗とも取られかねませんので、口に出すのをためらいますが…」


「構わない。申してみよ」


「トルニー公爵はゴブリンの小規模な発生を前々から隠ぺいしていたのではないでしょうか?国王軍特別情報官としての私の調査に対しても以前から非協力的でしたし、今思えば執事の態度も妙におどおどして不自然でした」


「うーむ、公爵は高齢で以前から病気がち。それで領地の管理がおろそかになりゴブリンが出没するようになったが報告を怠った。ありそうな話じゃ」


「とはいえ、いくら公爵が高齢でもここで甘い処分を下しては他の貴族に示しがつかないと存じます。僭越せんえつながら、わたくし大公をはじめ公爵や侯爵といった大貴族が自分の領地を管理していかなければブタイッシュ王国全体の発展もあり得ないと愚考しております」


「汝の言う通りじゃ。厳しい処分を下さなければならない。公爵の領地を半分没収し王家直轄領としよう。公爵が王城に来ることも禁止する」


 俺はエリンドン大公家の邸宅に戻り、邪悪に笑った。今回のゴブリン事件の真相、それは俺のマッチポンプだ。


 俺はレベル99の操作魔法でゴブリンを操り、大公領でひそかにゴブリンを繁殖させた。そしてエリンドン家の奴隷に運ばせて隣のトルニー公爵領に解き放った。もちろん奴隷は口封じのために始末した。変わりはいくらでもいる。


 このマッチポンプで俺は国王の信頼を勝ち取り、王宮内での評判を高めた。国王軍特別情報官としての俺の意見は国政でもさらに尊重されることになるだろう。さらに将来的に俺の野望の邪魔になりそうな公爵を排除することに成功した。


 この陰謀のせいで民の死者が何人出ようと、俺の知ったことでない。






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