第6話 被災者に付け込む
2週間後、俺は夜中にこっそりと例の母子の家を訪れた。
村の建物は最低限の補修がしてある。例の母子の家は多少、他の村人の家よりも立派だ。村ではそれなりに裕福な立場だったに違いない。
「あなたは、この前の…。一体こんな夜分にどうしてこちらに?」
未亡人となった若い母親は驚いた口調で尋ねた。少年は隣の部屋で寝息を立てている。俺は宝石の入った箱を取り出し、中を開いて言った。
「こちらをお渡ししたかったのです。」
「なぜこんな高価そうなものを私に?」
女がいぶかしげに尋ねた。
「これから貴女は女手一つでこの子を育てていかなければいけない。国王陛下からの食糧援助も数か月で終了するでしょう。こちらを売っていただければ、生活費の足しになる。」
さらに俺は微笑んで言った。
「他の村人には内緒でお願いしますよ」
女は尋ねた。
「なぜ私にだけこのようなお心遣いを下さるのですか?」
「貴女に恋したからです」
「えっ?」
「悲しみに打ちひしがれる貴女を見た時から、私はどうしようもなく貴女に
そう言って俺は未亡人を見つめた。女も驚いた表情で俺を見つめ返す。この瞬間に俺は魅了魔法をかける。落ちないはずがない。
「私はこちらをお渡ししたかっただけです。それでは、これでお暇するとしましょう」
俺が帰るそぶりを見せると、未亡人は意外そうに尋ねた。
「てっきり、代償に身体をお求めになるのかと…」
「私は貴族です。被災者の方に付け入って性を求めるような人倫にもとる行為はできません」
女は俺の服を軽くつかんで言った。
「子を成した私には魅力がありませんか?」
「そんなはずはありません。しかし貴女は夫を亡くしたばかり。貴女を余計に苦しませたくはない」
そうだ、魅力がないはずがない。ゴブリン駆除のあの日、一児の母とは思えないこの女の肉感的で豊満な身体を見たとき、俺はこの女を必ず抱くと決めたのだ。
「いいんです…お求めになって…。村がゴブリンに襲撃されて以来、この村の、この家の至る所にあの日の悲しみと恐怖が染みついています。あの日以来、私はほとんど眠れていません。ほんの一瞬でもいい、あなたのそのたくましい肉体であの日のことを忘れさせていただきたいのです」
「女性にそこまで言わせて、なおそれを拒んだとなればそれこそ人倫にもとる行為だと言える。いいでしょう、私の体を一晩お貸しします。私の愛であのおぞましい惨劇を貴女の心から追い出してみせましょう」
俺は眠っている少年の横で、この未亡人と一夜限りの男女の営みを行った。
未亡人に渡した宝石には、俺の魅了魔法を徐々に解除する魔力を込めておいた。国王からの食糧援助が続くこの数か月間は宝石を手放さないだろう。
すぐに魅了魔法が解けたのでは、騙されただのなんのと騒がれかねない。しかし愛情が深まりすぎて、エリンドン大公家の邸宅に乗り込まれでもすれば迷惑だ。ノーラの時の二の舞は避けたい。コブつきの女を養っていくほど俺はお人好しではない。
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