第5話 ゴブリンとの戦闘

 ブタイッシュ王国内での魔物の動向の調査も、国王軍特別情報官である俺の重要な仕事だ。王宮内で仕事をしている俺のもとに、トルニー公爵領でゴブリンが大量発生したとの報告が上がってきた。トルニー公爵領は俺の領有するエリンドン大公領に隣接している。


 国王へ報告すると、直ちにゴブリン駆除の王命が下る。俺は臨時ゴブリン駆除隊長に任命された。


 俺は部下たち30人を率いてトルニー公爵領のとある村に入った。村はゴブリンによって悲惨に荒らされていた。村の家屋のそこかしこが破壊され、あるいは焼けこげて崩れ落ちている。村人と思わしき遺体もそこら中に散らばっている。


うわさには聞いていたが、これはひどいですね」


 駆除隊員の一人が言った。


「油断するな、まだゴブリンはいるぞ」


 俺は部下に注意をうながす。

 

 案の定、少し村の奥に進むとたちまち数十匹のゴブリンに囲まれた。


「お前たちは下がってろ、この程度俺一人で十分だ」


「はいっ!」


 部下は信頼に満ちた声で答える。


「ぎぃいいい!」


 ゴブリンが不快な叫び声を上げた。ゴブリンは刃物のような鋭く長い爪と牙をき出しにして、俺ののどき切ろうと迫ってくる。俺は冷静に剣を構える。


「ズバッ!」


 最初に飛びかかってきたゴブリンを、俺は一撃で斬り伏せた。ゴブリンが真っ二つに割れ、緑の血しぶきが飛ぶ。俺は血しぶきを華麗に避ける。さらに俺は振り向きざまに、後ろから忍び寄ってきたゴブリンも切り裂く。


 次々と襲い掛かってくるゴブリンを、俺はいとも容易たやすく返り討ちにしていく。俺の剣はゴブリンの肉や骨や皮を容赦なく切り裂いた。奴らの断末魔が村に響く。


 瞬く間にゴブリンは全滅した。俺の美技に部下たちは感嘆かんたんのため息をついた。


 さらに奥に進むと、積み上げられた薪の陰で母子がゴブリンに襲われようとしているのを見つけた。母親は20代後半、少年は4~5歳程度か。


 母親は必死に子供を守ろうとしている。傍らでは少年の父親と思わしき男が斧を持ったまま絶命していた。ゴブリンに襲われたのだろう。


 ゴブリンは2匹。100メートル以上離れている。俺は弓を取り出した。俺の武芸レベルは99だ。この距離なら、狙いを外すことはない。


 俺は弓に矢をつがえ引き絞る。放つ。


「シューン!」


 矢は風を切る音を立てて飛んだ。


「バスン!」

 

 矢はゴブリンの頭に命中した。


「ぎぃわあああ!」


 ゴブリンは絶叫し倒れた。


 俺はもう一本の矢を射る。今度も正確にゴブリンの頭を貫く。ゴブリンは即死だ。

部下たちは俺の技に見とれている。


 俺は母親のもとに駆け寄ると言った。


「奥さん、もう大丈夫です。御主人は気の毒なことに…。お悔やみ申し上げます」


 女は嗚咽おえつを漏らしながら、かろうじて答えた。


「助けていただきありがとうございます。でも、私たちどうしたらいいのでしょう…。夫も殺され、家も失ってしまいました…」


「お慰めの言葉もありません。ただ、慈悲深き国王陛下は被災者に臨時の食糧支援と建物の緊急補修を行うと聞き及んでおります。どうかお気を強く持ってください」


 俺は腰をかがめて、泣きはらした少年の目を見つめると言った。


「坊や、これからは君がしっかりとお母さんを守っていくんだよ」


 少年はこくりと頷いた。俺は部下たちに向き直ると声を張り上げた。


「これでB地区とC地区のゴブリンは全滅させた。今日中にD地区も終わらせるぞ!ゴブリン駆除は時間との戦いだ、急げ!」


「はいっ!」


 部下たちは勢いよく答えた。有能な指揮官の下で働けて誇らしげだ。少年も俺のことを憧れの目で見ているだろう。


 そうだ、憧れろ。将来の国王であるこの俺に。





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