第3話 転生前もクズ

 元の世界での俺は底辺だった。


 ド平民の貧乏ニート、江藤実直えとうさねなおが転生前の俺だ。実直な性格になるようにと親が付けてくれた名前だが、実際は正反対に育った。


 Fラン大学を2年で中退した。親には大学に入り直すために勉強していると嘘をついた。奨学金と親からの仕送りはパチスロにつぎ込んだ。そして高校時代の彼女、津郷夜衣つごうやいの下宿先に転がり込みヒモ生活。


 その日も俺たちは昼間から始めようとしていた。服の上からスキンシップを取って、俺の聖剣に徐々にエネルギーを充填じゅうてんしているとこだった。バタンという大きな音ともに扉が開いて土屋伊緒つちやいおの泣きはらした顔を見たとき、俺の聖剣は即座に力を失い錆びた釘になった。


 土屋伊緒はいわゆるメンヘラ地雷女だ。SNSでヤリ目で知り合った。適当に遊んでヤり逃げするはずだった。家バレしたのは一生の不覚だ。その後はキンキン声と物が飛び交う修羅場だった。


 散々俺のことを罵った後、いくらか落ち着きを取り戻した津郷が言った。


「今すぐここでこの女と二度と会わないって誓って!そうしたら一時の気の迷いだったって許してあげるから」


 上から目線の言い方にむっとしたが、津郷に振られるわけにはいかない。俺の住む場所が無くなる。俺は土屋を説得にかかる。


「なあ、伊緒ちゃん。こんな状況じゃまとまる話もまとまらない。とにかくここは一旦帰って、1か月くらい間をおいて冷静になってからゆっくり話そうよ、ねえ?」


 1か月後にどうするかは考えていないがとにかくこの場をやり過ごそうと俺は必死だった。最悪バックレよう。前のバイト先の馬場先輩のもとに転がり込もう。馬場先輩とはもう2回も寝ているし、向こうも俺のことを悪くは扱わないはずだ。


「それじゃ話が違うじゃない!今ここでもう二度と会わないって言って!」


 津郷が怒りを露わにして言った。くそっ、後先考えず感情で話をしやがる。俺の計画をぶち壊しやがった。


 土屋も言う。


「もう会わないなんて絶対に嫌。あなたもこの女も殺して私も死ぬっ!」


 こいつはこいつで、こんな時でも自分に酔っていやがる。俺は逆切れした。


「できるもんならやってみろよ。お前のメンヘラはファッションだろ?お前が持ち歩いてる精神薬もどきも本当はビタミン剤だって知っているんだよ。ほら早く」


 土屋がナイフを取り出す。どうせ手首に当てる真似だけだ……と思ったが、土屋のナイフは真っすぐ俺の体に向かってきた。


「うっっぎゃあっ!がほっ」


 俺は倒れこんだ。薄れる意識の中で思った。こんなエロゲの主人公のバッドエンドのような死に方、格好悪くて嫌だ…。


 暖かい空間に包まれた。俺は死んだのか。光の塊が前からゆっくりと近づいてくる。女神が現れた。女神はあわれみに満ちた目で俺を見つめた。


「可哀そうなあなたに別の世界で別の人生を歩む機会を与えましょう。どういう人生をお望みですか?」


 よしきた。


「俺を異世界の大貴族にしてください。何をしても許される特権階級で、しかも能力値はすべてMAX!もちろん、悪役だから後で勇者に成敗されるとかそういうのは無しでお願いします」


 こうして俺はこの世界にきて、今の貴族生活を堪能たんのうしているわけだ。





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