第2話 王位簒奪と幼い王女

 国王が王座からゆったりと立ち上がる。俺は拝礼する。ここは王城の「謁見えっけんの間」だ。王太子や重臣たち、宮廷の貴婦人たちの姿も見える。並みの学生や下級貴族なら気圧されるところだが、俺の態度は堂々としている。


「サイネル・エリンドン君、君はこのブタイッシュ王国始まって以来の天才だ。首席での卒業、おめでとう。今後王国のためにその才を遺憾いかんなく発揮してくれることを願っているよ」


 国王は人のよさそうな大きな顔に満面の笑みをたたえている。


「国王陛下、過分なお褒めのお言葉をいただき恐縮でございます。このエリンドン、王国と陛下のために身命をし、いかなる困難にも立ち向かうことをお誓い致します」


 俺は表彰状を押し戴きながら、笑いをみ締めるのに必死だった。国王はただのお人好しで、居並ぶ重臣たちは皆無能のボンクラだ。こんなやつらに忠誠を誓うなんて冗談じゃない。そんな気は1ミリもない。俺は国王を弑逆しいぎゃくし、王国を乗っ取るつもりだ。


 国王の末の娘、スザーナ王女が花束を持ってやってきた。まだ幼いが王族一の美少女と名高い。少し恥ずかし気に微笑みながら花束を渡してきた。俺はひざまずいて受け取る。


「サイネル、私は将来あなたのような方のお嫁さんになりたい……」


「これは王女様、たとえお世辞だとしても嬉しいものでございます。私が王女様にふさわしい男となったら、きっと私のほうから婚約を申し出ましょう。どうか5年、私がひとかどの立派な騎士となるまでお待ちください。王女様の守護者たるに値する忠臣であることを証明してみせましょう」


 そう言うと俺は優雅に一礼し王女の手の甲に口づけした。王女はうっとりとした表情になった。


 俺は決してロリコンの変態ではない。つぼみは今摘み取るのではなく数年後に花開いてから味わうとしよう。


 スザーナ王女の無邪気で可愛らしい顔。愛情をたっぷりかけて育てられ、何一つ苦労を知らないこの幼い顔。王家の男を全員抹殺して俺は王座に就く。そしてスザーナをめとり一夜を共にする。その時、彼女はこの顔にどんな表情を浮かべるのだろう。


 国王は宣言した。


「サイネル・エリンドンに対しエリンドン家の相続を認め、加えて大公の爵位を与えるものとする」


 ここまでは既定路線だ。


「そして、その類稀なる才を活かすため、国王軍特別情報官に任命する!」


 予想以上だ。宮廷の人事官に賄賂をばら撒いた甲斐があった。俺はほくそ笑んだ。帰りの馬車の中でも、俺の前途洋々たる未来を思うと笑いが止まらない。大公家の邸宅に帰った俺は、水晶玉に自分のステータスを表示する。


 体力:Lv99 (HP∞)

 魔力:Lv99 (MP∞)

 容姿:Lv99

 武芸:Lv99

 知力:Lv99


 何度見ても惚れ惚れする。


 最高位の爵位、チートステータス。人生イージーモードだ。家柄、金、能力、これだけ揃っていれば、俺は伝説の男になれる。元の世界ではこうはいかなかった。




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