フレンドしたい!!
恐怖からか、腰を抜かし地面にへたり込んでいる女の子。そして、それに相対する、異形種に分類される獣人型の幽霊。
獣人幽霊が、その長い前足の爪を伸ばして、女の子に切り掛かる。それでもなお、小さく悲鳴を上げながら動くことのできていない女の子。
おそらく、このままいけばその女の子は、幽霊の爪によって残酷な死がもたらされるであろうその光景を。
「っふ!!ああ!ギリギリ間に合った!」
その爪に、剣を添わせてギリギリで防いだ中学生くらいの幽霊がいた。そう、ボクである。
だが、体勢も整えることのできないこの状態で攻撃を受けたからか、衝撃を殺しきれていない。
「っ!!」
うまく後ろに飛びながら衝撃を殺し、それと同時に、転がっていた女の子をボクの後ろへと投げやる。優しく投げたから怪我は無いだろうが、正直気にかける余裕はない。
「すごいな……」
すごい。何がすごいかって、相手の霊力の圧がハンパではない。たぶん、霊力だけでいえば、相手はボクよりも多いだろう。
「っ!あぶな!!」
そんなことを考えている最中、目の前に急に獣人幽霊が現れた。ギリギリでその攻撃をなんとか相殺し、反撃を試みる。だが。
「まあ、そううまくはいかないわな」
全ての部位が硬すぎる。どこを切っても、まるで石でも切っているかのような硬さである。せいぜいが表面に少しの傷をつけられるかどうか。そのくらいだ。
「そこの女の子!!そう、早く逃げて!!」
だが、それもそう長くは持たないはずだ。霊力によって身体を硬化させているということは、逆にいえばその霊力がきれれば、こちらの攻撃も通るということだ。
「問題は、ボクが耐えられるかどうかだがな」
おそらくだが、出し惜しみをして勝てるような、そんなやわな相手ではないだろう。だから、こちらも霊力を出し惜しみすることなく強化に回す。それと同時に、いつの間にか女の子はうまく逃げていたらしい。その姿は消えていた。
「生憎だが、知識に関してはボクのほうが上だ。その首、掻き切ってやるよ!」
右肩、首、腹。全てのその速い攻撃に対応していた、その時だった。
「っは?」
突如として、目の前の獣人幽霊の首が飛んだのだ。そしてそのまま、そいつは霊昌を残して消えた。
「急になんで……」
「こんばんは」
声がした。鈴が転がるような、それでいて、感情を含まない冷たい声。その声は、獣人幽霊の霊昌の背後から聞こえてきた。
絹のような、美しい白髪。血のように輝く、真っ赤な瞳。14歳くらいだろうか。未だ幼さの残るその顔は、なんの表情も浮かべていない無表情そのもので、見るものに冷酷さも与えるだろう。
「……神崎、玲子」
そしてその人物は、幽霊町に出てくる退霊団最強格の1人、
⭐︎⭐︎⭐︎
問;ボクは生き残れるか
答;無理
退霊団最強格。そんな人を相手に戦うことは愚か、逃げることすら叶わないだろう。
首を一撃。実際、あれだけボクが苦戦した相手に対して、それだけで倒してしまったのだ。より一層それを感じる。
「ふう……」
大きく息を吐き、覚悟を決める。逃げも戦うもどちらも成功率は低いが、今相手は相対しているボクに警戒心を抱いているはずだ。
「その警戒心を利用して逃げる……っ!!」
「どこへ行くの?」
「あべらばっ!!」
そんなことを考えて逃げ出した直後、やはりと言うかなんというか、一瞬で捕まった。目の前には神崎玲子の姿。
「こ、ここここ殺される……っ!?」
「殺すだなんて、そんな物騒なことしないわよ」
「じゃ、じゃあ拷問!?怖いよぉ。誰かぁ」
確かにゲーム内ではそう言った描写はなかったが、ここは現実なんだ。拷問とかもありえる。
「なんでそんなに怯えてるの? 私はただ、あなたとお友達になりたいだけなのだけれど」
「______What did you say?」
慌て過ぎて英語が出てしまった。友達? 友達とはなんだ? Let us be friend ってことか?
だがボクの頭にとある情報が思い浮かび、冷静さを取り戻す。
「(そういえば、ゲーム内での回想でこんなこと言ってたような……)」
「……そう。やっぱり、あなたもお友達にはなってくれないのね。残念だわ」
「どわぁぁ!!なります!友達なりますから!!」
頭に剣を突きつけられてNOと答えられる人間がいるだろうか? 少なくともボクには無理だった。そういうことだ。
神崎玲子。除霊の家として有名な神崎家に生まれた彼女は、幼少期から除霊だけを教えられて生きてきた。
友人や恋人などはもちろんおらず、家族愛すら受けずに成長した彼女は、親の教えに疑念を抱く。なぜ、除霊をしなければいけないのか。
その答えを探すため、ある時から彼女は幽霊に対して「友達になろう」と言い出すようになった。
だが彼女は幽霊の友達を見つけることが出来ずに、その命を「坂野道事件」で散らすこととなる。
「たしかこんなキャラ設定だったはず……」
あの後、「じゃあ、ついてきて」と彼女に言われて退霊団本部である神崎家に連れてかれたボクは、ある部屋で待機を命じられていた。
今はその部屋にあった紙を使って情報を書き出しているところである。ちなみに彼女はどっか行った。多分忙しいんだろう。
「何を書いているの?」
「あっきん!!なんも書いてないですぅ!!」
前言撤回。全然忙しくなかった。一瞬で紙を隠して、ぐしゃぐしゃに握りつぶす。
「? 変なの。まあいいわ。ついてきて」
「らじゃー」
嫉妬。殺意。疑念。他にも、いろいろな負の感情を混ぜた視線がボクに降り注ぐ。分かってはいたけれどやはり傷付く。
「大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
今ボクがいるのは大広間。おおよそ30人近くの退霊団員がいて、全員がボクを睨みつけている。友好的な視線は彼女だけだ。
こう考えると、出会った退霊団員が彼女で良かったのかもしれない。
「静かにしてください」
突如、凛とした美しい声が響いた。それは、隣にいる彼女の声だった。
「皆さんをここに集めた理由はただ一つ。この幽霊を傷つけないこと。それを伝えるためです。では以上」
言い終わった彼女はボクを連れて颯爽とその場を後にする。あまりにも早いボクたちの退場に、ポカーンとした顔をしていた団員たちが印象的だった。
その後大広間から凄まじいブーイングが聞こえてきたのは非常に怖かったが。
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