幽霊子ちゃん!?

「う、うわぁぁあああ」


何も考えずに咄嗟に手を伸ばす。するとその手から青白い光が溢れ出し、さっきのよりも数倍大きい球となって男に向かって飛んでいった。僕の手は、青白く光り輝いていた。


「は!?な、なんだそれ!?なんで生まれたてが使えるんだよ!?」


ドタドタと忙しい様子でその霊弾をかわした男は、ひどく困惑した様子だった。


「……霊弾、霊力、再生。それに、幽霊と青白く光るボクの手……。もしかしてここは、幽霊町ゆうれいちょうの世界、なのか?」


幽霊町。このゲームは、主人公を動かし日本中に蔓延っている幽霊を倒していくというRPGゲームだ。しかも、幽霊を倒すだけでなく、その間には学校や恋愛などと言ったイベントもある。


「本当に、そんなことがあり得るのか?」


死んで転生した先がゲームの世界。そんなことが現実的にありえるのか?いや、疑ってはダメだ。信じるしか、この先、生きていく道はない。


「まずは、青白い光を放っているということは、ボクの体は今ゾーン状態に入っているはずだ。ならば……」


ゾーン状態。簡単に言えば、身体能力が格段にアップしている状態のことだ。それぞれの霊によって色は違うが、青白く光り輝く霊もいたはずだ。


「死ねぇぇぇええええ!!!」


ブンッ!! と男は大きく振りかぶった腕をボクにぶつけてこようとする。だが……


「……落ち着いて観察すれば、かわせなくもない攻撃だ」


振りが大きいせいか、かわしやすい。しかも、その後の攻撃のチャンスまで生まれてしまっている。


で、今ゾーン状態で身体能力が上がっているこの体ならば……


「……相手の男に回し蹴りを叩き込める!!」


ドンっ、と強い衝撃が走り、ボクの回し蹴りが相手の顔面に当たる。


会心の手応え。


「もう、痛いじゃないか。やめてくれよ」


それを感じるボクの足を、いつの間にか握りしめていた男の腕が破壊する。


「あ、がぁぁあああ!!」


今回の攻撃は霊力を纏っていたのだろう。先程とは違い、痛みも伴うし、何より自動的に再生されない。


痛い。痛い。そんな感情が心を支配する。だが……


「こんくらいの傷、ゲーム内の敵は簡単に治してたんだよな!!」


集めるは霊力。潰された右足に意識的に霊力を集める。


「そして、右足が治っていることをイメージ」


……できるのか?いや、違う。やるしかない。やらなければ殺されるのだから。


「な、そんな治癒能力まで!?嘘だろ?そんな力、今まで見たことも……」


次の瞬間、ボクの右足が一瞬強く光ったと思うと、潰される前と遜色のない綺麗な右足がそこにはあった。


「成功……した」


一か八かの賭けには成功したようだった。だが、まだ安堵はできない。なぜなら、目の前にはあの男がいるからだ。


「……?いない?」


しかし、そんなボクの考えとは裏腹に、目の前にはいつの間にか男の姿は消えていた。


周囲に隠れているという様子もない。あの巨体だし、隠れていたなら一発でわかるはずだ。


「あ、いた」


前方100メートル。暗闇でギリギリ見えるか見えないかのその距離に男はいた。しかし、男は戦闘の意思はないのか、ひたすらに背中をこちらに向けて走っていた。


「逃げている、のか?」


いや、そうとは限らない。もしこれが、何か切り札的なアレだったら、とてもではないが対処できるとは思えない。つまり、なんとしてでも今のうちに倒してしまうべきだ。


「右手に霊力。形状は矢。標的は100メートル先」


イメージをより具現化するべく、口にしながら霊力を練る。が、次の瞬間、パンっと練り上げた霊力がはじけた。


「っ?どういう……」


疑問を覚える暇もなく、体が不調を訴える。突如、体に力が入らなくなり、ふらりと傾いた。


「あ、そういえば。霊力の使いすぎは体調不良を引き起こすって……」


……wikiに書いてあったような。


バタリ、と地面に倒れたボクは、そのまま意識を失った。



⭐︎⭐︎⭐︎




転生して半年が経った。いわば、あのロリコン野郎との戦闘から半年が経ったということだ。


で、この半年間この世界を調べてみた結果。やはり、この世界は幽霊町と呼ばれたゲームの世界で間違いないようだ。


さすがに確認した時は軽い絶望感を覚えた。だが、そんな絶望を抱いている暇などなかった。


なぜなら、ボクは自分を鍛える必要があったからだ。他の幽霊に襲われることももちろん、退霊団への対策として考えると、必要なことだった。


退霊団。これは、ゲーム中に出てくるオリジナルワードだが、主に除霊を目的として作られた巨大組織のことを指す。


除霊の才あるものたちが集められ作られたその組織は、母数をおよそ200万とし、ゲーム中でも幽霊に恐れられていた。


そのため、ボクはあの日以降、出会った幽霊に片っ端から勝負を挑んだのだ。おかげで、ゲーム中盤のキャラにも負けないような、そんな強さには持って行けたとは思っている。


「お、早速幽霊発見」


確かに、最初は恐怖でいっぱいであった。いくら原作知識があれど、怖いものは怖かった。しかし、幽霊というのは罪なき人間を襲う。


なので、倒さなければ、その分人間の犠牲者が増える。そして何より、自分が強くなっていく感覚がすぐに実感できる。


そんな環境に身を置いたボクは、いつの間にか恐怖なんて無くなっていた。


「……あ!!半年!半年!!うまれたてぇぇえええ!!!」


先程視界に入った幽霊。その幽霊は、180センチくらいはあるだろう長身で、150キロはあるだろう贅肉を持った、顔を肉で膨らませた中年太りの男であった。


「なるほど、半年ぶりの再戦、というわけだ」


それは奇しくも、半年前のあの幽霊であった。相も変わらず、大きく振りかぶった腕をこちらに叩きつけてくる。


「っふ!」


意識的にゾーン状態に入ったボクは、それを、右に一歩避けることによって回避。そのまま、軽いステップワークに合わせた体の動きで男の背後を取る。


「両手剣、顕現」


その状態のまま、霊力によって剣を出したボクは、その剣で、首を挟むように切った。


音もなく吹き飛ぶ男の首、その表情は先程と変わらない顔で、どうやら倒されたことにも気づかないらしい。


直後、男の体が消え、代わりに、幽霊を倒した証である、霊昌がゴトリと音を立てて現れた。


「お、今回は大きいな。サッカーボールくらいだから……5万円って言ったところか?」


この霊昌、大きさによっては高額で政府に買い取ってもらえる。なので、ゲーム中でもしっかり金策に使っていた覚えがある。


ボクは、その霊昌に対して剣を叩きつける。


ガキン。音を立てて割れたその霊昌は周囲に破片と霊力を散りばめた。そして、その後霊力の方はボクの体に吸い込まれるようにして吸収された。


これは、ゲーム中のプレイヤーにしかできない、手っ取り早いキャラクター強化に使われていた技だ。


霊昌に対して、霊力を纏った状態で破壊すると、破壊者の最大霊力が上がる。これを利用したパワーレベリングである。


「しかし、本当に原作知識さまさまだよな。知らなかったら、こんなレベリングはおろか、半年前に倒されていただろうし」


自分の体に霊力がコツコツと溜まっていくのを実感しながら、そう考えていた時だった。


「キャーーーーーー!!」


「!?」


突如として深夜の住宅街に響き渡る女の子の悲鳴。今の時分、不良ですら出歩くのを躊躇うのに、なぜ女の子が外を出歩いているのか。


まあ、そんなことは関係ない。この時間帯の悲鳴ということは、おそらくだが幽霊関係だろう。


「そうと決まれば!」


ボクはすぐに悲鳴が聞こえた方向に飛ぶように走っていく。目指すは、女の子の救出幽霊の退治だ。






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