【女子中学生な幽霊としてts転生したボク、祓われたくないので戦います

まるべー

ts転生してまさかの女の子に!!

「私!あなたのことが前から好きだったの!!」


「そっか、ありがとうな」


人の行き交う往来で、ボクたちは言葉を交わす。そういえば、今日はなんでコイツと出かけてたんだったっけ? あ、そっか。幼なじみのコイツに、一緒に買い物に行こうかって、言われたんだっけ?


「ほら!あなた彼女欲しいって言ってたでしょ!?」


「そうだな……」


確かに、彼女欲しいって言ってたな、ボク。でも、もうちょっと可愛い子がいいかもしれない。


こんな大号泣して、顔がすごいことになっている幼なじみよりも。


「だから……。だから、死なないでよ」


「それはちょっと……」


だって、道路に広がっている血は、知らないけど、多分致死量は超えてるだろう。そんな状態なのに、痛みもなくただひたすらに眠いっていうのは、幸いなのか否か。まあ、死ぬ前兆だと考えると、否なんだろうが。


「ねえ、ほら!救急車の音!!聞こえる?ねえ!ねえってば!!」


ああ、聞こえてくる。これはあれだ。絶対助からないやつだ。救急車に乗せられて病院まで運ばれるんだろう。それで、ボクの人生は終わりを告げるのだ。


「ごめんな……本当に」


「ねえ、お願い……開けて……!お……よ!」


あ、本格的にそろそろやばいかもしれない。何も聞こえなくなってきた。目も霞んできたし。


「…………今までありがとな」


そう呟いた直後、ボクの命の灯火は完全に消えた。享年16歳。死因は、車に轢かれたことによる出血性ショック。




そう、ボクは。ボクは完全に命を落としたはずだった。


「それなのに……。ここは一体どこだ?」


目が覚めると、深夜の住宅街の歩道に、ぶっ倒れていたのである。



「なんだこれ……夢なのか?」


頬をつねっても痛くないし、周りを見渡しても誰もいない。走馬灯的なアレだろうか?


「スマホは……ないのか」


ポケットを確認するも、スマホの存在はない。警察に連絡もできないし、ここがどこかも、わからない。


「とりあえず、歩くか」


ここでじっとしていても仕方がないと思い、歩き始める。ひとまずの目的地としては、警察署だろうか?


だが、違和感を覚えたボクは、すぐに立ち止まることとなった。


「なんか、背縮んだ、ボク?それに、手もちっちゃいし……。うわ!?歩きづらいと思ったらボクスカート履いてる!?いやこれ形状的に女子制服か!?」


声も高いし、身長も低い。極めつけには、自分の着ている服がセーラー服だということに気がつく。


というか、ボクは男だしセーラー服なんて着ることはおろか、持ってすらいないはずなのだが……。


「まさか、ね……」


嫌な予感しかしないが、恐る恐るブツがあるであろう場所に手を伸ばす。するとそこには、やはりというか、あるはずのモノがなかった。


「やっぱり……。女の子になってる……」


つまり、どういうことかというと。ボクは今女になっているらしい。そして、さっきから感じていた違和感の正体は、これだったようだ。


足を動かすたびにヒラヒラする感覚とか、視界に入る髪の毛とか。そういうものが全部、違和感を覚えさせてきたのである。


「あ、ちょうどいいものがある」


カーブミラーを見つけたボクは、小走りでそこへと向かっていく。すると、そこに写るはずだった平凡な男子高校生の姿はなく、変わりに、1人の女子中学生の姿があった。


セーラー服を着た、肩甲骨まで伸びる黒髪ストレートヘアの美少女が、ボクが歩くのに合わせて、こちらに向かって歩いてきていたのである。


「嘘だろ……」


どうやらこの姿は幻覚ではないらしく、鏡越しに映っているその少女は、間違いなく自分自身であった。


「まじかよ……ボク、女の子になっちゃったみたいじゃん……」


あまりの出来事に膝をつく。だってそうだろ?死んだと思ったらなぜか生き返っていて、さらにはその身体が女の子のものときた。


神様は一体、何を考えているというのか。ボクみたいなモブにこんなことをして、一体何になると言うのだろうか。


「はぁ……これからどうしよう」


ため息しか出てこない。家に帰るにしても、場所がわからなければ意味がない。そもそも帰れたとしても、家族に説明できる気がしない。


「とにかく、警察に行くには変わらないかな……」


いつまでもここにいるわけにもいかないし、このままでは飢え死にしてしまう。


「自分がどこの誰かも説明できないが、警察ならなんとかしてくれるだろ」


そう考えて、一歩前に踏み出した瞬間だった。ヒュン、と何か青白い物体が、ついさっきまでボクがいたところを通ったのである。


「えっ……」


間一髪で避けたボクだったが、腰を抜かしてその場に尻餅をついた。今のはなんだったんだ?


そう思って顔を上げると、そこには、180センチくらいはあるだろう長身で、150キロはあるだろう贅肉を持った、顔を肉で膨らませた中年太りの男がいるのが見えた。


「ぐへへへ。は、外しちゃった。まあ、いいや。所詮は生まれたて。僕に食われるのは結局変わんないんだからね、ぐへへへ」


「っは?お前、何言って……。それに、生まれたて?食われる?」


そんなボクの疑問に、男は気持ち悪い笑い方をしながら、また、あの青白い光を放つ球体を作り出す。それが、先程ボクめがけて飛んできたものだと理解するのに、さほど時間はかからなかった。


「逃げないと!!」


慌てて立ち上がると、今度は男本体が追いかけてきた。運動不足なのか、男の走る速度は遅いものの、女子中学生の身体を持つボクにとっては、十分に速い。


「はあ……はあ……待て……よ!クソガキ!」


「待つわけ……ないだろ!」


必死に逃げ続けるも、徐々に距離が詰められていく。そしてついに、ボクの右腕が男に捕まった。


「っ!?」


「あはぁ、捕まえたぁ!」


腕を振り払おうともがくも、ビクともしない。それどころか、より一層強く握られたような気さえ感じた。


「放せ!!このロリコン野郎!!」


「でふふ、いつまでその威勢を保てるかな?君はこれから僕に食べられるというのに」


「は、はあ?」


一体コイツは何を言っているのだろう。食べるって……ボクを……ってことだよな?


「じゃあ、いただきまーす」


まるで普通の食事を取るかのようなその声に、男の方を見てみる。すると、むしゃりむしゃりと、長袖の制服を纏っている腕を食していた。


……待て、制服?


「ボ、ボクの腕!?じゃあ、ボクの腕は、ついてる。え、あれ?ボクの腕じゃない?」


見ると、ボクの腕は両腕しっかりとついていた。パニックになっていたが、よく考えてみれば確かにそうだ。


痛みもないし、人間の腕がそんな簡単に引きちぎれるわけがない。杞憂だったわけだ。


「うん、やっぱり生まれたての幽霊は美味しいね。霊力を纏わない攻撃なら永遠に再生し続けるし、まさに最高の食材だ」


「は? 幽霊? 生まれたて? 霊力? それに、再生? ちょっと待って、一体、何を言っているんだよ」


ホッとしたのも束の間、目の前の男は何やら不吉なことを言い出す。一体なんなんだ?


「あ、そっかぁ。生まれたてだから分かんないんだよねぇ。いいよ、教えてあげる」


そう言って、肉で潰れている顔をニヤリと笑わせる男。


正直、吐き気がするくらい気持ち悪かった。


「僕はねぇ、君たちのような、生まれたての幽霊を餌にする幽霊なんだよぉ。さっきの攻撃は、僕が操ることのできる霊弾れいだん。その名の通り、霊力の玉だねぇ。これを当てれば、相手が幽霊でも、普通の人間のように傷つけることができるんだぁ。でも逆に……」


「うわっ!?」


男が話している最中、突然足を引っ掛けられて地面に倒れる。その際に頭を強く打ち付けたせいか、意識が一瞬飛びかけた。


「こういうふうに、霊力を纏わない攻撃は幽霊なら一瞬で回復するんだよねぇ」


「くっ……」


頭を手で抑えながら、起き上がる。


「つまり、君は僕に永遠に食べられ続けるってことだよぉ!!」


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