第4ゲーム:迷宮崩壊
第43話 迷宮崩壊①~爆発~
オーディエンスの皆様、ついに第四ゲームが始まります。
内容は単純明快、崩壊する迷宮から脱出するもの。
ここで迷宮と迷路の違いにてご説明を。
迷宮とは経路が複雑であろうと一本道であること。
迷路とは道が幾重にも分かれていることを指します。
このゲームは迷宮。
ゴールまで一本道なので普通に進めば迷うことはないでしょう。
ただし迷宮には怪物がつきもの。
運営最高傑作のゾンビを一人、投入します。
弾丸すら弾く屈強で最強のゾンビです。
サバイバーがどのような逃走劇を繰り広げるか、ご期待ください。
死の予防は単純明快、ゴールすること。
そしてゴールの暁には、どんな願いも一つだけ叶う。叶えられる。
一〇〇〇人のサバイバーがいました。
ですが今は二人しか生き残っていません。
一人は、アレル。
父の無罪を信じる一方で、家族を傷つけ、陥れた者たちに死よりも辛い生き地獄を願う者。
口は悪かろうと両親の育てが良いせいで悪になりきれぬ男の子。
もう一人は、レイン。
亡くなった友達三人の命を貰い受ける形で生きながらえた故、友達三人の復活を願う者。
絶対な記憶力を持とうと、前向きすぎる性格で迂闊に進んでは窘められる女の子。
あろうことか二人は無縁かと思えば、親同士が同じ職場でした。
ジョーカーの余計な暴露で生まれた信頼は崩れ落ちています。
真実か、否かはこの際、別として。
ではただいまより第四ゲーム<迷宮崩壊>を開始いたします。
アレルが瞼開けば、眼前には無機質なコンクリートの世界が広がっていた。
風はなく、不気味なまでの静寂が心音を異常なまでに感じ取らせる。
ただ恐ろしいまでに緊張は微電流すら走らず、その手には汗すら流れていない。
自身が驚くほど心は凪のように落ち着いていた。
周囲に目を走らせる。
そびえ立つ高い壁は目測で一〇メートルを超えている。
不規則な歯並びのように壁という壁が隙間を広げ、先をのぞき込もうと絶妙に生じた影が道行きを掴ませない。
まるで墓石に囲まれたような無機質さ、生命の息吹は微塵もなく隅には雑草一つすら生えていない。
「あっ」
光が右端に走ったと思えば驚を突かれた女の声が続けて走る。
聞き覚えのある声であり今は一番聞きたくない声。
ランダム転送のはずだが、同地点からスタートは何の因果かとアレルは興醒めする。
その間、上空にカウントダウンクロックが表示された。
「アレル、あ、あのね」
衣擦れの音がする。声の主が近づいてくる。
何かを言いよどむ声音。何かアレルに伝えるつもりだが、生憎、聞く耳など持たない。
エリンの消え際の発言の真偽はともあれ会社の関係者、それも常務の娘ならば無関係とは言い難い。
「聞かなくてもいいから聞いて。エリンちゃんが最後に好き放題いったようだけどさ。確かに、パパは常務だし、勤める会社で巨額の横領があった。けどこれだけは言っておきたいの」
聞くのも聞かぬのもタダだ。
耳を塞ぐなり、大声で叫ぶなり、殴り飛ばすなり、レインの発言を妨げる手段はいくらでもある。
だが非情になりきれぬ心が、なにもしないを選ばせた。
「私さ、生まれた頃からずっと病気で学校なんて満足に通えなかった。治すには臓器移植が必要だけどドナーなんて早々見つからないし費用だって膨大。いつ死んでもおかしくない中、パパは私を助けるために相続した土地やマンションの不動産を売り払って費用を捻出したの」
エリンの発言とは異なるレインの言葉にアレルは眉根を跳ね上げた。
視聴覚を走るノイズはいつの間にか消え失せている。
嘘をついている色は声から一切ない。
ないことが抑えつけていた憎悪の心を軋ませる。
「ようやく費用を捻出してもね、詐欺にひっかかって全部盗られたのよ。その後よ、一三歳の私の誕生日。友達三人が祝ってくれたの。けどクテスが軽トラの操作を誤って友達三人を殺した」
クテスに向ける憎悪の原因は友達の死だろうと今更でしかない。
ただ何故、レインの言動から異なる色を掴めたのか、謎は解けた。
特に心臓は第二の脳と呼ばれるとどこかで聞いた覚えがある。
移植を受けた患者が術後、菜食から肉食になったり臓器提供者しか知らない秘密を知っていたりと例に暇はない。
「皮肉なことにさ、今私が生きていられるのも、その時亡くなった友達三人から命を分け与えられたからなのよ」
ため息すらアレルは出さなかった。
「……羨ましいな」
ただ出たのは嫉妬でしかなかった。
「仇は討てたんだろう?」
勘で口走ったアレルだが、レインから伝わる反応からして黒のようだ。
「殺してはない、わよ。弾をゼロにして失格にさせただけ」
「やったことは俺がやりたいことじゃねえか」
アレルはただ肩を震わせながら鼻先で笑うしかない。
憶測だがレインの願いは友達三人を生き返らせることだろう。
何の因果か、命奪った相手とデスゲームで邂逅し、結果として殺すことなく失格に追い込んだ。
生きて日常に戻れようと、ペナルティたる反転した願いに苦しみもだえているはずだ。
この結果こそ、アレルが望む死よりも辛い生き地獄そのもの。
「すっきりしたか? 殺された友達の仇を討てて?」
アレルは声音に感情を乗せぬよう平坦に返す。
ああ、羨ましい。結果的に恨みを晴らせたレインが憎らしい。
アレルは一人どころか親戚一同、父の無罪を晴らそうとも晴らせない。
レインからの返答はない。ただ唇噛みしめる悲しい音を耳が掴む。
「……復讐したって亡くなった人は帰ってこないわよ」
分かり切ったレインの発言が最後のトリガーとなった。
気づけばレインの胸ぐらを掴んでは押し倒し銃口を突きつけていた。
「お前に、お前になにが分かる!」
抑えに抑え込んでいた憎悪の感情が、今爆発する。
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