第41話 拳銃奪還⑪~爆弾~
「結果的に消去法となったけどさ、なんでかな?」
レインは疑問を口走ろうと無駄だと頭では分かり切っていた。
自分とアレル・エリンの三人で一緒はデスゲームの中で唯一の癒しと感じていた。
並びあって休んだり食事をとったりと、楽しかった。
「まあ出てきたくても出てこれないが正しいか、な?」
自分の拳銃は手元にある。
恐らくだが銃声を聞きつけたアレルが既に動いているはずだ。
拳銃を突きつけられ唱えられたら終わり。
運営側だからこそカードの効果を把握しているはずだ。
ジョーカーは積んでいるように見えるが日は沈みかけている。
積んでいるのはレインたちサバイバーだ。
「くっ!」
風切り音がするなりレインの右肩に強い衝撃が走る。
焼き鏝を当てられたような灼熱の痛みが身をよろけさせた。
右肩に手を当てる。手は鮮血に染まり、金属の矢が突き刺さっていた。
「水中銃かしら、ね?」
激痛が走ろうとレインの声音は呆れるほど冷静だった。
枝葉交わる音に混じって弦を引くような音をかすかに掴む。
小型の弓の類か、直に見なければ分からない。
「ぐっ!」
風切り音が今一度鳴った時、矢はレインの左足首に刺さっていた。
激痛に悶えながら倒れるレインだが、その目はとある方向をとらえて離さない。
「じわじわいたぶるとか趣味悪い!」
虫の脚を折るような子供の無邪気がなせる業か、迷いもなく狙って当てるなどただの子供には思えなかった。
「やるなら一撃でしとめなさいよ!」
煽ろうと相手は乗らないときた。
相手は移動しながら矢を放っている。
位置把握は困難だが、難題ではない。
大まかな位置さえ把握できれば良いと女の勘が囁いてくる。
この瞬間、叫べば彼は必ず応えると勘が叫ぶ。
「円盤時計!」
唐突にレインは叫ぶ!
出血と激痛の中、今出せるだけの声を張り上げる。
「一〇時の方向!」
叫びは別なる飛翔を引き起こす。
木々を飛び越えるようにして無数の瓦礫がレインの指摘した方向に降り注ぐ。
散弾のように広範囲に降り注ぐ瓦礫に驚を突かれたのか、放たれた第三の矢はレインではなく地面に刺さっていた。
「レイン、次!」
木々の隙間を突き抜け届かせんとアレルは叫ぶ。
アレルは二本の木をシャフトに見立てては、持っていたタイヤチューブと破れたジャケットで固定投射機を作っていた。
移動と連射に向かない分、一度に多くの量を投射できる。
全身を使って弦となるタイヤチューブを引っ張れば破れたジャケットに内包された不法投棄のゴミを投射した。
間髪入れずアレルは走り出す。
取り出すはカード。
誰がジョーカーであるか、分かっているが、今誰を失ってはならないか損得と現状を考えろと訴える。
「願いが叶えば裁判でも勝てる! 今は誰を失ってはならないか考えろ!」
アレルの決断は運営との取引を自ら放棄するものだった。
その記憶力を失うのは惜しい。
よって奪わせない。便利な道具を殺させない。
それが例え子供であろうと。
「そこか!」
茂みがうごめく。
アレルの視界は今なおノイズが走り、色を把握できない。
だが既に半径五〇メートル圏内。
拳銃を向けるには姿を把握する必要がある。
だが、今より使う手は拳銃なかろうと範囲内ならば問題ないはずだ。
「ぐっ!」
茂みより飛び出た矢がアレルの右二の腕に突き刺さる。
走る激痛が右手からカードを手放させるが、左手が咄嗟につかみ取る。
「エリン、お前をゲームから除外する!」
カードはアレルの声に呼応し、サバイバーネームを浮き上がらせた。
何故、エリンがジョーカーなのかアレルは知りようがない。
いやデスゲームに参加している以上、人の数だけ参加理由があるはずだ。
アレルが運営から取引を持ちかけられたならば、エリンもまた運営側に席を置く何かを持ちかけられたのだろう。
「あ~もうくっ○たれ(ピー)な(ピー)が!」
茂みの中より悪態つく子供が現れた。
サバイバー誰もが着込む衣服でない。
見つけられなかったのにアレルは合点が行く。
森の中を隠れ潜むには迷彩柄の衣服は打ってつけだ。
その腕には固定されたボウガンがあり、矢はつがえられていない。
身体の輪郭は光の粒子に包まれていようと、初めて聞いた声にアレルとレインは互いに驚きを隠せない。
「お前、しゃべれた、のか?」
「はぁ、しゃべれるに決まってんでしょう? どいつもこいつもちょっと喋れない演技したらコロっと騙される奴ばかりだから利用するのは楽だったわ!」
ヤケクソだからか悪ぶれる様子はなくいけしゃしゃと吐露している。
アレルもレインもエリンの変貌に驚きを隠せない。
「あ~もうお前らやっぱり第一ゲームで消しておくべきだったわ。特にアレル! 足撃ち抜いて走れないようにしたのにさ、そこであのチェンソーワン
「なら、パパって」
「はぁ? クソ親が参加しているわけねえーだろう。記憶力よくてもバカかよ!」
年齢にそぐわない口の悪さにレインは目を白黒させるしかない。
「クッソアレルのせいでぜ~んぶ台無しだわ! ゲームに参加すれば虫みたいにプチプチ人殺せるって言われたのに、もう終わりかよ! ざけんな!」
エリンはだだをこねるように地べたに寝そべり四肢を暴れさせる。
だが観念している様子には到底見えなかった。
「だからさ、最後にとんでもねえ爆弾落としてやる!」
「こいつ、消える前に自爆する気か!」
「誰がするか、バーカ!」
エリンは舌を出してアレルをあざ笑う。
そして発言という爆弾を出してきた。
「アレル、おもしろいこと教えてやるわ! そこにいる女はあんたの父親の上司である常務の娘よ!」
「なんだと!」
驚愕から一転、アレルの目は一瞬にして憎悪に染め上げられた。
「しか~も、難病患う娘レインの手術代をさ~会社の社長や専務に頼み込んでたくさんお金を工面したんだけどね~詐欺に遭って全額騙し盗られているのよ! その額いくらか知ってる? あたしは知ってるのよ~?」
エリンの小さな手がアレルの胸ぐらを掴む。
消えかかっていく身体で瞳を動揺で揺らすアレルの耳元で囁いた。
「そ、そんなバカな、なら父さんは、父さんは!」
囁かれた言葉にアレルは絶句し膝をつく。
「え、お金! パパが! ど、どういうことよ、アレル! エリンちゃん!」
「あはははは、こいつになにいっても無駄だっての! なんせこいつの願いは家族を陥れた奴ら全員に死よりも辛い生き地獄に落とすことなんだから! あんたの父親はね、社内の横領を把握しても娘の命を盾にされて告発したくてもできなかったのよ! つまり、レイン、あんたは十分、こいつの復讐対象なの! あ~ウケるったらありゃしない。復讐すべき対象と今まで仲良し子よしだったんだから!」
エリンは笑う。笑い続ける。
爆弾は見事に爆発し、衝撃をもたらした。
そして勝ち誇ったかのように光りとなって消失していた。
<サバイバー・エリン、ゲーム除外につき失格!>
無機質な電子音声が響こうと、虚ろな心に届かない。
ただ時間だけが、日だけが傾き続け、ついにフィールドは暗闇に包まれる。
<第三ゲーム・拳銃奪還エンド!>
アレル:生存・拳銃あり。第四ゲームに進めます。
レイン:生存・拳銃あり。第四ゲームに進めます。
エリン:除外・拳銃あり。ゲーム除外につき失格となります。
クテス:失格・拳銃なし。弾丸ゼロにつき失格となります。
モータル:死亡・拳銃なし。ジョーカーにより殺害されました。
リーリ:生存・拳銃なし。拳銃未所持つきゲームオーバーとなります。
ドース:死亡・拳銃なし。ジョーカーにより殺害されました。
よって第四ゲームはアレル、レインの二名により行われます。
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