第39話 拳銃奪還⑨~暗流~

 アレルが運営から持ちかけられた取引。

「そのリーリってのをゲームから排除しろと?」

 ナビゲーター・カレラからタブレット越しの依頼に裏があると睨むのは当然だった。

『本来なら第三ゲームの参加人数は三〇名を予定していました。ですがリーリなるサバイバーが第二ゲームにてサバイバー殺害を繰り返した結果、参加数はご存じの通りです』

「ルール違反と告げて失格にすればいいだろうよ」

『そういう声もありましたが、運営も一枚岩ではありません。おもしろくないと突っぱねられました』

 アレルは複雑そうに口を尖らせるだけだ。

 ゲームである以上、オーディエンスの存在は予測できる。

 殺人者をゲームに参加継続させることで愉悦への起爆剤を期待しているのだろう。

「追う者と追われる者のシーンで魅せろってか」

 皮肉を言おうとカレラからは無言、無反応の鉄面皮ときた。

『あなたが第一ゲームで入手したそのカードは、半径五〇メートル以内にいるサバイバー一人の名を告げることで強制的にゲームから除外できる効果があります』

 カードを持つ故に、取引を持ちかけたのが理由なのは読めた。

 加えて何故、使用方法が明記されていなかった理由もまた。

「除外? 死亡や失格とどう違うんだ?」

「除外されたサバイバーは今後開催されるデスゲームの参加資格が永久に失われます」

 デスゲームをクリアした者には次なるデスゲームの参加資格が与えられる、と読める文言である。

『受けるか受けぬかはあなたの自由です。ペナルティはありません』

 だが裁判勝訴の導く断固たる証拠ならば求めぬ理由はない。

「受けるさ。代わりにそのリーリって奴の情報は教えてくれよ。顔すら知らないんだし」


 爆発音が遠くから響き、衝撃が木々と水面を激しく揺らす。

 立ち上る煙からしてアレルのスタート地点の廃屋が爆破されたのだろう。

「というわけだよ」

 爆撃が終わったのを頃合いに、小舟で舵を取るアレルはレインに説明した。

 水の流れが落ち着いてきたというのもあったりする。

「あ~そう、運営からね~あんたに今度は船で運ばれるなんね。どこで見つけたのよ~」

 小舟の縁に身を預けているレインはぐったりしていた。

 手持ちぶさたに水面を叩いては波紋を刻む。

 有無をいわさず船に放り込んでは川下りときたのでご立腹なのは理解していた。

「スタート地点近くの蔵の中にあったから持ってきた。まあ一部船底に穴開いてたから、廃材詰め込んで応急処置をしたんだ。穴は充分塞がってるから、そこは安心してくれ」

「泥船でないだけマシだけど、あんた器用すぎでしょ」

「父さんの実家が工務店なんだよ。小さい頃から従兄弟たちとあれこれ廃材から工作しては遊んでたんだ」

「あ~そ~さすが男の子よね~」

 つまらなそうに空気を吐き出すレイン。

 女の不機嫌を宥めるのは誰であろうと苦労は変わらない。

 レインは利用価値がある分、宥めて置かねば今後不利益を被るのはアレルだ。

「魚、食べ損ねたし」

「あれは俺の昼飯兼罠だったんだがな」

「あ~そのリーリってのひっかけるためのね」

「実際ひっかかったのはジジイとお前だけどな」

 ジジイ=クテスを話に出すなりレインは目尻を釣り上げてきた。

 因縁あるようだが、アレルに興味などない。

 ただ不機嫌さがアレルにデメリットとなりかねないため、ご機嫌取りのアイテムをレインに提示するのであった。

「足下にある袋、開けてみてくれ」

 アレルは足下に置いてあるズタ袋をレインに示す。

「なにこれ、ずいぶんと重いけどってあんたこれ!」

 袋は投棄の再利用だが、レインが絶句するのは中身だった。

「拳銃じゃないの! しかも全部アタリだし、私のもあるし!」

 驚くのは当然だろう。

 袋の中身はゾンビから奪還した拳銃。

 どう言うわけか、アレルの道行く先で遭遇したゾンビのほとんどが所持していた。

 廃屋や蔵で手に入れた廃材でクラフトした道具がなければ今頃ゲームオーバーだっただろう。

 アレル当人を筆頭に、レイン・ドース・リーリ・クテス・モータルとエリン以外の六丁が袋の中に詰められている。

 ただドースに至れば、河原に流れ着いたのを死体共々回収しただけだ。

 鋭利な何かが頭部に刺さっていた痕跡があった。

 恐らくだが、ジョーカーに運悪く殺されたのだろう。

「あんたがジョーカーって問いつめたいけど、デッドエンドミッションが発動したのならハズレよね。それに」

 レインはアレルに疑念を抱かず信頼してくれている。

 その根拠は何か、アレルは知る気などなかった。

「仮にジョーカーなら、私を助けるはずがない」

 自ら口に出す辺り、レインもまたジョーカーではないとアレルは踏んでいたりする。

 男女二人船の上。

 舵を握るアレルに対してレインは拳銃を握れる。

 殺害のチャンスがあろうと行動に移さないのを証拠として信頼してくれる軽い女で助かった。

「レイン、取引だ!」

 ここでアレルは手駒として引き込むカードを切った。

「見返りは?」

 疑いもなくレインが率直に返すのは単にアレルに対する信頼だった。

「お前の拳銃をくれてやる。ただし、リーリというサバイバー排除に手を貸せ」

 説明はすでに終えている。

 加えて運営がゲームからの除外を依頼してくる自体、リーリもまたジョーカーではないのと暗に答えていた。

「別に、いい――きゃっ!」

 レインが迷いも間もおかず答えかけるも小舟が唐突に揺れ動いたことで発言を妨げられた。

「誰が、俺を排除するって!」

 水に濡れた手が小舟の縁を掴んでいる。

 揺れの原因は波紋描く水面から現れた男。

 小舟にあがろうとする反動で小舟が大きく傾いでは揺れ動く。

「あ、こいつ、洋館でしょんべん漏らしてた男!」

 振り落とされぬよう縁にしがみつくレインが指摘する。

 アレルは探していたターゲット・リーリが自ら現れたのを好機として、揺れで倒れながらもカードをポケットから取り出そうとした。

 最初はヒューンとした風切り音だった。そしてコッンと乾いた音がした。

 積んだ覚えのない無機質な物体が船内に転がっている。

 見た目は無機質で小さなパイナップル。

 怖気がアレルに言葉を走らせた。

「レイン、拳銃それ持って飛び込め!」

 誰もが水面に飛び込まんとした瞬間、小さなパイナップルは爆発する。

 細かな破片をまき散らしながら小舟を破壊しては水面にいくつもの波紋を広げていた。

 そして波紋静まろうと、誰一人水面から顔を出す者は現れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る