第34話 拳銃奪還④~苛立ち~
「もうここどこよ!」
レインは竹林の真ん中で癇癪を起こす。
全身で感情の爆発を体現するように両腕を跳ね上げては白い歯をむき出しに叫ぶ。
「右も左も竹ばっかりとかなによ、竹取り物語の竹取りじいさんでもやれっての?」
歩けども歩けども竹林から抜け出せない。
右に左にと周囲が同じ光景ばかりの前後不覚状態。
転送という訳の分からぬSF技術で単身飛ばされた。
そのため起点たる己の立ち位置を把握できず迷っていた。
「明るいから太陽は出ているみたいだけど、生い茂る竹のせいで正確な方向を把握できず。空は見えるも明るいから星は出ておらず」
ぼやきながら高々と伸びる竹林を見上げる。
コンパスたるアイテムもないため方向もわからないどん詰まり状態。
このまま日没まで抜け出せず、一人寂しくゲームオーバーを迎えると思えばゾッとする。
「ゾンビが拳銃奪ったから取り返せ! 加えてサバイバーの中にいるジョーカーが排除に来るから見つけ出せ! しかもノーヒント!」
レインからすれば苦楽を共にしてきたサバイバーを疑わせる運営に腹が立ってもいた。
意図的に排除など、排除法は今は考えないことにした。
「ジョーカーって誰なのよ、もう」
疑いたくなくとも疑い暴けねばレインがゲームオーバー。
ミスればミスの回数だけデッドエンドミッションが発動する外道仕様。
ぼやこうと立ち止まるレインではない。命をくれた三人の友達のためにもゲームを生き残る。
大小ある起伏を何度か登り下りを繰り返し先へ進む。
出会いを求めようと出迎えるのは竹林ばかり。
タケノコ潜む土の盛り上がりに躓きかける。
人影に警戒と期待を衝突させれば、マネキン人形ときた。
マネキン人形だけと思えば一面には冷蔵庫やテレビの家電製品を筆頭に自転車、スクーターときて、どうやって運び込んだのやら自動車まで不法投棄されているときた。
もしここに立つのがアレルであったならば使えるものはないか漁るだろうと、現に立つのはレイン。
文字通りゴミを見る目で横を通り過ぎていた。
「むっ、あれは!」
ゴミの不法投棄から少し進んだ先、窪地にて寝ころんだゾンビ一人を発見する。
動く死体が動かぬ死体となって無警戒に寝ころんでいる。
目測でおおかた五〇メートルほどの距離。
目を凝らせば、ズボンの左前ポケットが拳銃の形に盛り上がっていた。
「ん~あからさますぎてこれ罠よね?」
身を潜めながらレインは警戒を目に宿す。
ゾンビ一人しかおらず、無警戒に寝転がるなど、こっちに来てくださいと誘っているようなもの。
加えて個人的に窪地には嫌な思い出しかない。
「第一ゲーム思い出すんだけど」
めかわんわんことチェンソーワンコに追いかけ回された記憶。
一度見たら絶対に忘れない記憶力が否応にも想起させてくる。
「アレルがいたら、妙なアイディアで突破してくれるんだけどね」
残念がりながらレインは天を仰ぐ。
口は悪いが機転と胆力体力に長けたアレルに何度助けられたことか。
これはアレルを助けたレインの目と勘に間違いがなかったと胸を張れる。
「さ~てあいつだったらこの状況、どうする?」
考えろ。考えろと思考を巡らせる。
絶対記憶力を知る者から記憶力一辺倒だと揶揄されるが、記憶があろうと上手く使わなければ本棚で埃かぶる辞書だ。
「待てよ」
ほんの少し前の光景を巻き戻す。
ゴミとして通り過ぎた違法投棄の数々。
使えるものはないかとUターン。
舞い戻るのはリスクだろうと、マネキン人形が竹林の隙間より覗き見えるため、目印となる。
「なんか使えるのないかしらね?」
ゴミを漁りながら使えそうなものを探す。
アレルと違うのは、組み合わせるのではなく、すぐに使えるものを探している点であった。
例えば、使えないと放り捨てた破れた傘、穴の開いた自転車のチューブ。傘を軸に自転車のチューブを傘の先端に固定すれば即席のスリングショット、いわゆるパチンコが完成する。
釘でもいい。小石でもいい。ゴムの反発力を活かして投射すれば心強い武器となった。
「あ、これ使えそう!」
そんな知恵、レインにあるはずもなくゴミの中から使えそうな錆だらけの自転車を引っ張り出しては喜んでいた。
ものは試しとペダルを回せばチェーンはガリガリ音を立てながら後輪を回転させる。タイヤはハンドルあり、タイやありの空気抜き、サドルなしのペダルありと立って漕げば動くに動くものであった。
「やるか」
一か八かの賭がレインの中に降臨する。
ターゲットは窪地にいる。ならば自転車でなすのは一つ。
錆びた自転車を窪地手前まで押して運べば、今なお寝そべるゾンビと直線軸を合わせる。後は自転車に立って乗れば、窪地の傾斜を活かして一気に降下した。
ゾンビが風切るレインの接近に気づき起きあがろうがもう遅い。
真っ正面からの突撃を回避できず自転車の前輪が下腹部にめり込んだ。
「もらいっと!」
激突寸前で自転車から飛び降りていたレインは下腹部に前輪をめりこませて悶絶するゾンビに駆け寄った。
そのままズボンのポケットに手を突っ込めば、中の拳銃を掴みとる。
「やっぱり罠だった!」
レインが拳銃をゾンビのポケットから抜き取ったのがスイッチとなり、窪地の各所が盛り上がる。
突き破るように現れたのは雨後のタケノコではない。無数の干からびた手だ。だが、干からびた手の主たちが地面から這い出た時、レインは窪地を登り切り、竹林の中に消えていた。
「あっはははっ! この私を騙そうなんて一〇〇年早いのよ!」
兵は拙速を尊ぶとある。
素早く一気に攻めることこそ勝利に繋がる。
ある程度、窪地から距離が開いたのを確認したレインは手に入れた拳銃に打刻されたネームを確認した。
<ハズレ>
「ざけんなっ!」
苦労に似合わぬ成果にレインは拳銃を地面に叩きつけ叫ぶ。
レインが手に入れたのは重さそっくり外装そっくりのモデルガンであった。
当然、撃てない仕様である。
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