第3ゲーム:拳銃奪還

第31話 拳銃奪還①~ジョーカー~

『みなさん大変です! 大変なんです!』

 各部屋に備えられたタブレットにナビゲーター・カレラの全身が映り込む。

 表情筋一つ動かさないカレラが珍しくも全身を使って慌てふためく姿に、大体が冷ややかな目線で流れを見守っていた。

 第一ゲームでの拳銃からの安全装置欠落ミスを思い返せば妥当な反応だったりする。

『知能あるゾンビがガンスミスの工房を襲撃! 皆様よりお預かりした拳銃がすべて持ち去られました!』

 緊迫したBGMがタブレットから流れようと、サバイバーの誰もが冷ややかな目線を崩さない。

 同時、ああ、次はそういうゲームかと運営側の趣向に理解を示した。

『運営スタッフによる執念の追跡により、ゾンビはとある廃村に逃げ込んだのが確認できました! サバイバーの皆様には奪われた拳銃を奪還してもらいます!』

 そして告知される第三ゲーム<拳銃奪還>。

『ルールを説明します』

 揺れる水面が唐突に鎮まるようにカレラは身を正せばいつも通り平坦な口調となる。

『皆様サバイバーには自分の半身である拳銃を奪還してもらいます。制限時間は日没まで。それまでに自分の拳銃を所持していないサバイバーは

 冷ややかに聞いてた誰もが耳を疑った。

 この死防銃戯ルールの一つに記載がある。

<拳銃は己の半身、例え破損していようとゲーム終了時まで所持していなければ失格となる>

 だが、あくまで失格となるだけでゲームオーバー=死亡ではない。

 ここに来てゲームオーバーとするのは明確なふるいを運営がかけてきたのを意味していた。

『ここで注意です! 第二ゲームで身を持って体感したサバイバーなら周知の通り。今回のゾンビは奪った拳銃で応戦してくる場合があります。その所有者の拳銃の弾丸がゾンビによりゼロとなれば、そのサバイバーは失格となります。ご注意ください』

 興奮を声に乗せることなくカレラは淡々と続ける。

『サバイバー全員で共闘して拳銃を奪還、なんてエンターティナー性がありません。確かに攻略は楽となりますが、これはゲームです。運営の見立てでは第三ゲームはサバイバー三〇人の参加が見込まれていました。ですが、デッドエンドミッションの発動にて参加人数はたったの七名です。そのためゲーム進行を盛り上げるカンフル剤を運営側は用意しました』

 展開される字幕にサバイバーの誰もが息をのんだ。

<運営の回し者ジョーカーを見つけ出せ!>

 ジョーカー。

 その意味は三つ。

 ①:道化師、洒落や冗談で周りを楽しませる人。

 ②:トランプカードに加えられる道化師が描かれたカード。一部のカード遊びでは最強のカードとして切り札の意味を持つ。

 ③:カジノにおいてディーラーに有利になるようプレイを行う客に紛れたカジノ側の人間。

『あなたたち七人のサバイバーの中に一人だけ運営の回し者ジョーカーが潜んでいます。第三ゲームが終了するまでジョーカーが生き残っていた場合、問答無用でジョーカーの勝利となり、このデスゲーム死防銃戯は第四ゲームを迎えることなく終了。仮に生き残っていようと問答無用で全員ゲームオーバーです。つまりジョーカーの一人勝ち。願いを叶えられる一人になります』

 カレラは次いでジョーカーについて説明に入る。

『ジョーカーは運営の回し者故にサバイバー排除に動きます。誰がジョーカーであるかは、皆様自力で見つけだしてください。ここまで死を予防し生き残ってきたサバイバーの皆様ならルールの穴にお気づきになられているはずです。その穴をジョーカーは突いてきます。自分の拳銃を奪還できたあるいは他のサバイバーの拳銃を入手したら注意してください』

 誰もが抱く当然の疑問をタブレット越しにカレラは答えた。

『サバイバーの皆様はジョーカーだと思うサバイバーに自分の拳銃を突きつけ<ジョーカー見つけた>と告げるだけでOKです。もう一度言います。自分の拳銃を突きつけ<ジョーカー見つけた>と告げるだけでOKです。発砲は不要ですがしっかりと銃口はジョーカーに密着させてください。ただジョーカーはサバイバー排除に動きますので言い終わらなければ効果はありません。加えてジョーカーではないサバイバーに告げた場合、ペナルティとしてデッドエンドミッションが一回ごとに発動します。如何様なミッションかは発動してからのお楽しみとしてください』

 デッドエンドミッションが一度ではなく一回間違える度に発動する。

 お楽しみと告げるあたり、相応に趣味が悪い展開が発生するのだけは予測できた。

 よって迂闊に間違えることができないとサバイバーには緊張の重圧がかけられる。

『なお当然ですがジョーカーを見事に発見しようとボーナスはありませんのであしからず』

 淡々と表情一つ返ることなくカレラは告げる。

『これにて第三ゲームの説明は以上です。これより三〇分後、第三ゲーム<拳銃奪還>を開始します。サバイバーの皆様、死を予防しファイナルゲームである第四ゲームに進めることをご期待しております』

 そしてタブレットはカレラと入れ替わるようにカウントダウンの数字が表示された。

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