第23話 爆破阻止④~離散~

『それではルールの再確認に入ります』

 ドローンが抱えたモニターに映るカレラは字幕付きで告げる。

 第二ゲームは洋館の爆破阻止。

 クリア条件は爆破阻止。

 敗北条件は爆弾爆発。

 洋館に隠された一つの爆弾を見つけだし、パスワードの入力にて爆破を阻止すること。

 制限時間は三時間。

 洋館内にはエネミー役として三人のゾンビが徘徊している。

 そのゾンビを機能停止させれば一人につき一時間、制限時間が減少する。

 爆弾が爆発した時点で、サバイバー全員がゲームオーバー。

 爆弾の爆発が解除された時点で生存しているサバイバー全員が第三ゲームに駒を進めることができる。

『なお質疑応答についてはゲームの進行上、お答えできませんししません。サバイバーの皆様は三時間以内に、洋館のどこかに隠された爆弾を一つ見つけだし、パスワードを入力して爆発を阻止してください。では皆様、死を予防して生き残ってくださいね』

 一方的に伝えるだけ伝えればモニターは暗転し、ドローンはそのまま何処化へと飛んでいった。

 説明後の質問を狙っていたサバイバーから当然の不満が噴出する。

「おい、質問ぐらいさせろ!」

「そうだ! 運営なら説明義務があるだろうが!」

 声高に叫ぼうと、喧噪として周囲の木々に吸い込まれて消える。

 残り時間の確認方法、罠の有無、三人のゾンビの武装の有無など質問があろうと運営側に応答する気がなければ無意味。

 つまりは我が身を持って確かめろという運営側の遠回しな答えなのかもしれない。

 抗議しようと、せずとも時間は過ぎるもの。

 洋館の扉が今一度開かれ、一〇〇人のサバイバーを中へと誘う。

 不満は確かにあろうと、誰もがかなえたい願いがある。

 足を止めていては時間ばかり消費されて意味がない。

 だから、一人、一人と館内へと足を踏み入れる。

「文字通りの洋館だな」

 一人のサバイバーが内装を見上げて呟いた。

 中に足を踏み入れた誰もが同じ感想を抱く。

 洋装だから洋館なのだが、エントランスは三階まで抜けた吹き抜け、天井にはシャンデリアが吊され、ろうそくの明かりを煌めかせている。

 正面には各階層を繋ぐ幅広い階段。左右には伸びる長い廊下。絨毯は敷かれておらず、板張りの床をそのままさらけ出していた。足を一歩ただ踏み出すだけで床は小さく鳴き声を上げる。

 他に何かあるかと攻略のヒントになりそうな物がないか、サバイバー誰もがめざとく周囲を見渡していく。

 その時、どこからかナビゲーターの声が洋館内に響く。

『それでは改めまして、第二ゲーム洋館爆破阻止を開始します。転送』

 最後の発言にサバイバー誰もが耳を疑おうと、時すでに遅し。

 一〇〇名のサバイバーは一人も漏れることなく、事態を把握できず光に包まれ消えていた。

 エントランスに残されたのは無数の靴跡のみ。

 間を置かずして、洋館全部屋にて無数の落下音が響く。

 転送されたサバイバーが各部屋に落ちた音であった。


「痛ってて」

 盛大な尻餅をついたとアレルは痛みで顔を歪めた。

 ここはどこだと周囲を見渡そうと、薄暗く、部屋の隅にろうそくが淡い輝きを放ってぼんやりと周囲を照らし出している。

 周囲がわからずとも、インクと紙の匂いが鼻の奥をくすぐった。

「ここは、書斎か?」

 臀部に残る痛みに顔をしかめながらアレルは立ち上がる。

 暗闇に目が慣れて来たのか、うっすらと並べられた本棚の群れがアレルを出迎える。

 まずは光源をと、ろうそくに手を伸ばすが、まるで幻を掴むようにその手をかする。

「なんだよ、これフォログラムか?」

 ろうそくの灯火に手を触れようと熱はなく、火傷することもない。

 ものは試しにとろうそくの土台を掴むが、やはりその手は通り抜ける。

 これでは持ち運びはできない。

 光源がなければ探索の難易度は上がり、洋館を徘徊している三人のゾンビの発見がしづらくなる。

 いや下手をすると他のサバイバーをゾンビを間違えて発砲するリスクすら生じてしまう。

「さて、どうする」

 壁の端に背中を預け、アレルは黙考する。

 壁に背中を預けたのは万が一襲撃された際の方向を限定させるためだ。

 部屋のど真ん中にたち続ければ、頭上足下、正面左右背後と六カ所からの襲撃を受ける。

 一方で部屋の隅ならば正面、頭上足下、左右と五カ所となる。

 これまたゲームで得た知識であった。

「レインやエリンと合流したいが、どこに飛ばされたかわからない。いやそれなら……」

 ふと曾祖父の言葉を思い出しホルスターから拳銃を抜く。

 力強く拳銃を右手で握りしめれば、銃床を力強く壁にこすりつけた。

 壁紙は削れ、下地の煉瓦が露わとなる。

「よし、これなら」

 伝言を残すことができる。

 拳銃なのは単に手頃な道具が見つからなかったからだ。

 試しにと<アレル1>と壁に刻み込む。

「ひいじいちゃんが言ってたっけな。携帯電話がない時代は、駅とかに伝言板があって、そこに伝言を書いて連絡をやりとりしてたって」

 SNSがない時代ならではの連絡法である。

 確かに老人がでしゃばるのは若人の妨げとなるが、老人の経験は若人を活かす知恵となる。

 実際、アレルは曾祖父の経験を聞いていなければ、こうして伝言を壁に残すなど思いつけなかった。

「探索は、しとくべきだよな」

 アレルは周囲を目尻険しく見渡した。

 見つけるのは二つ。

 爆弾とパスワードだ。

 爆弾を見つけようとパスワードを入力できねば停止できず、パスワードがあろうと爆弾が見つからなければ意味がない。

 ただ、困ったことに、ここは書斎らしき部屋。

 いかなる形で隠されているのか不明だが、本の間に挟まっているのなら時間の浪費は避けられない。

「白紙かよ」

 手頃な本棚から本を一冊とって広げようとページはまっさらな白紙とか。

 どの本も同じであり、洋書ぽい外装が施された紙の束ときた。

「この手の本は答えはなくともヒントそのものがあるもんだけどな」

 いやと思考を切り替える。警戒を密にする。

 本が白紙なのは、運営側の手抜きではなく、探しものを見つけやすくするための処置なのかもしれない。

「さ~てと、ゲームだと本棚に隠された部屋への入り口とかあるんだけどな~」

 もっとも臭く言いながらアレルは本棚から本棚を見渡しては適当に本を取った。

 開いては戻し、取っては元の位置に戻してを繰り返す。

 キィと床板が軋んだ音を発したのと同時、持っていた本を音源へと投擲、床に当たって落ちた時には銃口を向けていた。

「ひぃいいいい、う、撃たないで、撃たないでください! に、人間ですううううううっ! 生きた人間です!」

 耳を劈く女の悲鳴にアレルは顔を不快にしかめるしかない。

 本棚の影から現れたのはメガネをかけた二〇代女性と、年の割には背筋が伸びた老人であった。

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