第22話 爆破阻止③~返却~
議論を重ねたならば次に行き着くべき点は一つしかない。
「洋館内の探索グループ分けどうする?」
一〇〇名のサバイバーがいる。
隠された爆弾を分散して見つけだし、パスワードの入力にて爆破を阻止する。
数を活かして互いに助け合うことが攻略の、死を予防する鍵となるはずだ。
「内装がわからない以上、下手なグループ分けは今しないほうがいいと思うぜ?」
アレルは一応の釘を刺しておく。
洋館は見た目は三階建てだが、地下があるかもしれない。屋根裏もあるかもしれない。
備えは大事だが、下手な策はせっかく生まれたグループの輪を崩しかねない。
思わぬ形に事が進んでいるのはアレル自身驚きだったりする。
ただやはりというべきか、数名ほど輪に加わろうと、疑念と疑心と不信を抱く色が混じっている。
輪から外されているのではなく、意図的に輪から距離を取っている色が強い。
(そういや、グループとかで楽しんでいると、急に冷めたり飽きたりするのがいるって聞いたことあるな)
人伝で聞いた話であるが、イベントなどで誰もが熱を持って楽しむ中、急に冷めるのは単に飽きっぽいのではなく、危機察知の能力が高いからだとか。
熱にほだされ、間違った道に進めば全滅する。
その集団が生き残るために冷めた人間が生まれるという。
デマに流されず、冷静に物事が判断できる人間。
ただアレルは声をかけるような真似はしない。
冷めた人間は言い換えれば、人が苦手、騒がしい場が嫌いなどの一面があるからだ。
(レイン、チャラそうな男と、強面のハゲ、その顔覚えておいてくれ)
自分の記憶力では不安なので、レインに覚えてもらうよう頼んでおく。
強面のハゲは確か、更衣室前で出くわした記憶があった。
話を聞かない一面が文字通り
(あの二人は危機察知が高い。うまくこちらに引き入れることができれば生存率が上がるはずだ)
(あんた、なんでそんなことわかんの?)
(父さんから培った人選術)
(あんたのパパさん、人事課?)
(まあそういうことで)
実際は経理だったが、沈黙は金である。
アレルは今なお共感覚のことをレインに黙っていた。
ペラペラと自分のことを他者に話すのは三流未満。
協力者に隠し事は胸が痛むも、この程度の呵責で痛み苦しむのならば今後この先のデスゲームは生き残れないだろう。
『時間となりました。ただ今よりお預かりしていた拳銃の返却を開始いたします』
どこからかカレラのアナウンスが聞こえてきた。
続くように頭上から群れる蜂の羽音と錯覚させるほどの音量を持ってドローンの群が飛来する。
サバイバーたちが、その光景に、どよめくのは一瞬のこと。
機体下部にはアームで固定されたコンテナがあり、他のドローンと衝突することなく、まるで磁石のS極とN極のように一人一人へとコンテナを手渡していく。
コンテナの中身は、当然、預けた拳銃。
安全装置が取り付けられたサバイバーの半身であった。
(一人一人確実に届けるとか、ドローンで顔認証しているのかね?)
アレルは受け取った拳銃の残弾を確認する。
六発のうち残る弾は五発。
ただ、改めて拳銃を握った時、鮮烈な違和感が不安を煽る。
(サバイバー同士の撃ち合いは禁止とルールにある。撃ち合いは禁止。一撃でしとめれば撃ち合いにならないが、いや、まさかな……)
違和感をうまく言語化できない。
言語化できるだけの要素が足りない。
違和感を拭い切れぬままアレルは拳銃をホルスターに収納する。
その脇ではアレルを見上げていたエリンが真似するように拳銃を収納していた。
その光景にレインは微笑ましい笑みを浮かべているときた。
「なんだよ?」
「ん~なんか親子みたいだなって」
「意味が分からん。そこは兄妹だろうよ、お母さん」
「なっ、誰がお母さんよ!」
ちょっと言い返すだけでムキになるなど呆れるしかない。
だが、無駄な緊張はほぐれたと、アレルはレインに届かぬ礼を内なる心で告げるのであった。
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