第21話 爆破阻止②~協議~

 サバイバー誰もがどよめくしかない。

 探索の基本は安全を確保すること。

 ゾンビ三人を片づけて、余裕もっての探索は下手すれば愚策となる。

 安全をとって時間を捨てるか、安全を捨てて時間をとるかの選択を選ばなければならない。

 何より洋館の内装が不明なこと、三人のゾンビの戦闘力を踏まえれば時間を捨てられない。

「つまり攻略の鍵、死の予防法はスニキーキング・ハイドってわけか」

 サバイバーの誰かが呟いた。

 敵の目を欺きながら隠れ潜み探索し対象の物を見つけだす。

「爆弾とその解除コードを見つけださないといけないのか」

「なに一〇〇人もいるんだぞ。すぐ見つけられるさ」

 緊張で声を震わせる者、楽観的に事を構える者、一〇〇人いるだけに反応は様々だった。

『ではこれにて説明は終わります。今より三〇分後、お預かりしていた皆様の拳銃をお返しします。全員分の拳銃が返却された三〇分後に扉が再び開いたらゲームスタートです。では皆様、頑張って死を予防してくださいね』

 励ましの言葉を最後にモニター抱えたドローンは何処かへと飛んでいった。

 残されたサバイバーたちは誰もが声をざわつかせる。

 当然、アレルもまたその一人だが、腕を組んで考え込んだのも束の間、意を決して声と手をあげた。

「みんなちょっと良いか?」

 元から着目されていたサバイバーだけあって、視線を集めるのに時間はかからない。

 集う視線の色は、疑惑、困惑が多かった。

 相手を刺激せぬよう慎重に言葉を脳内で組み立てながら言った。

「ここにいる者全員がゴール前の出来事を目撃していると思う」

 視線の圧が強まる。警戒の色が濃くなる。

 臆することなくアレルは胸を張っては続けた。

「あのチェンソーメカ犬はどうやらデッドエンドミッションのエネミーみたいなんだ」

 正式名称はチェンソーワン参だが、あえて省く。

 その脅威と異様を多くのサバイバーが目の当たりにしている以上、説明は不要だ。

「なんだよ、そのデッドエンドミッションってのは?」

「文字通りの行き止まりのゲームオーバーに落とすミッションだよ」

 サバイバー一人から当然の質問が飛ぼうとアレルは毅然と返す。

「皆も知っての通り、第一回ゲームは囮と誤射黙過のゲームだった。サバイバーを減らすのが運営側の目論見だと仮に想定すれば、強制的に数を減らすミッションが、デッドエンドミッションだろう」

「だから、そのミッションがどうしたんだよ!」

 何人かのサバイバーはデッドエンドミッションの意味に勘づいたようだが、全員とは言い難い。当然のこと首をだらだら垂れ流していると思われているようだ。

「不安を煽るようで悪いが、第二ゲームにも仕込まれている可能性が高いと俺は思う」

 特に警戒すべきは、ゾンビたちの防具はお披露目されようと、武装が一切公表されていないこと。

 ゾンビの数が増えるのか、それとも破壊力の高い武装を持ち出してくるのか、予測はできない。

(あんた、シークレットミッションは教えないの?)

 ふとアレルは肩をレインにつつかれては耳元でささやかれた。

 あの時すぐ側にいたのだ。指摘されなかったのは意図か、うっかりか、いや、あの時、レインは樹の樹洞で転けていたから、今の今まで忘れていたと仮定する。

(儲かる話は他人にするな、だよ)

(うわ、汚な)

(言ってろ。っかお前が言えばいいだろうよ)

 共犯として口を紡ぐのが見えているため、アレルはあえて挑発する。

「おい、二人でいちゃこらしてんじゃねえよ!」

 ただの密談だが、困ったことに他者にはいちゃついていると見えたようだ。

「デッドリーミッション回避の鍵はナビゲーターの説明にあるはずだ。第一ゲームが急がば回れとあったように、さっきの説明に死を予防するヒントが隠されていると俺は読む」

 アレルの発言にサバイバーの誰もが先の説明を思いだそうと記憶を巡らせる。

 ふとまたしてもレインがアレルの肩をつついてきた。

(私が説明しようか?)

(しなくていい。お前の記憶力ならピンからキリまで説明できるが)

(あ~はいはい、儲かる話はするなってね)

(パスワードの言語や文字数が不明である以上、お前の記憶力が鍵になるはずだ)

 仮にパスワードを見つけだそうと、スマートフォンのように六文字、八文字だとは限らない。

 一〇桁かもしれない。一〇〇桁なのかもしれない。

 下手すれば文字ですらないかもしれない。

 ひとまとめでなく、バラバラに分割しているかもしれない。

 メモをとれば対処できようと、運営がおとなしく時間を与えてくれるとも到底思えない。

 だがレインは違う。

 例え文字の意味が分からずとも形を覚えていれば対処できる。

 加えて、他のサバイバーにレインの絶対記憶力を知られれば、利用しようとする者が必ず現れる。

 勝ち進むために鬼札は手元においておくもの。

 ゲームで学んだ知識だ。

(ふ~ん、つまり私が切り札ってことね)

(勘のいい女は嫌いじゃないね)

(んじゃ護衛はお願いするわよ)

 はいはいと目線でアレルは頷き返す。

 互いに利用し合っているのは華だが、この胸に走る痛みは何か? と合点いかぬまま胸に手を当てる。

 またいちゃこらするな、という思索を止める声は飛んでこない。

 誰もが己の願いを叶えるために、ナビゲーターの発言を必死に思い出しているからだ。

 同じグループ内で互いの記憶を引き出しては、齟齬がないか帳尻を合わせているときた。

「ん、待てよ」

 降って沸いたような違和感がアレルに疑問を口走らせる。

「ナビゲーターのカレラ、洋館内にトラップあるとか言ってたか?」

 アレルの疑問は伝播する。

 誰もが津波前の海岸のように声が引いたのも一瞬、一挙に押し寄せ鼓膜を激しく揺さぶる。

「そういうやゾンビが三人いるだけで他は言ってないな」

「けどよ、それって聞かれてないから答えていないだけかもしれないだろう」

 トラップの存在はゲームクリアにおいて重大なファクターだ。

 パスワードがもしトラップの先にあると仮定した場合、サバイバーはいかなる行動をとるのか。

 映画やドラマによくあるグループにて下層に位置する者を生け贄にするオチしか見えない。

 死を予防すべきが死を誘発するなど本末転倒である。

「ゾンビが三人しかいない時点でおかしいんだよ」

「そうだ。デッドリーミッションもゾンビが増える系かもしれないぞ」

「武器を見せていない時点で、他にからくりがあるはずだ」

 気づけばグループごとの話し合いも、境界が薄まり、その枠を越えていた。

 アレル個人としてはあくまで注意喚起の意味で伝えたのだが、結果としてサバイバーが一丸となっているときた。

「ならさ、パスワードも下手すると分割で隠されているんじゃなのか?」

「もしそれなら集合場所とか決めておいた方がいいだろうよ」

 さらなる声が上がり、意見と提案の連鎖は止まらない。

 どんな意見だろうと誰もが拒絶することなく聞き入れては、あれこれ協議を重ねていた。

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