第2ゲーム:洋館爆破阻止
第20話 爆破阻止①~三人と三時間~
『今より一時間後に第二回ゲームを開始します。繰り返します。今より一時間後に第二回ゲームを開始します』
洋館より響く電子音声がアレルの意識を揺り動かした。
「ふぁ~いつの間にか寝ちまったのか」
膝元よりかかる重さが目覚めを誘発させる。
あくびをするアレルの膝元にはエリンが今なお夢心地だ。
「起きた?」
熾きるのを待っていたのか、レインがベンチに座っていた。
「今起きた。ほら、エリン、そろそろ起きろ」
エリンの唇が動く。その見慣れた唇の動きに、アレルとレインは揃ってなにを呟いているのか、直感的に聞き取れた。
「「あと一〇分」」
次いで互いに顔を見合わせて笑うだけだ。
お約束の台詞はどの家庭でもやはり共通らしい。
だが次の発言に笑いは鎮火させられた。
「ママ、か」
「やっぱりあの人がパパなら、この子の願いって」
アレルは沈黙を持ってレインに返す。
誰だって持つ、たった一つの願い。
だからアレルは忠告程度に留めて言う。
「俺もお前も、この子も叶えたい願いがある。このデスゲームに参加している全員がある。最後まで生き残ればどんな願いもたった一つ叶えられるんだ。同情はわかるが、肩入れしすぎると、願いを叶える前に、死ぬぞ――お前が!」
アレルの忠告にレインは視線を逸し顔を俯かせる。
頭ではわかっているとの苦渋の色が唇から出かけているのがわかる。
もっとも半分はアレル自身への忠告であった。
『サバイバーの皆様は、洋館前にお越しください。繰り返します。サバイバーの皆様は、洋館前にお越しください』
二度目の放送が目覚ましとなったのか、エリンはゆっくりと目を開けて眠そうに瞼をこする。
「おはよう」
アレルの呼び声に目が覚めたのか、ぱっちりと目を開けては大きく何度も頷き返してくれた。
「なら行こうか」
レインにエリンは今一度大きく頷いた。
サバイバーのほとんどが洋館前に集っている。
遅れる形でたどり着いたため、アレルたちは後方となった。
全員が揃おうと、両開きの扉は開かれることなく沈黙を保っていた。
『では第二回ゲームのルールを説明します』
アレルの背後から唐突にカレアの声が凛として響き、背筋を飛び上がらせる。
同行していたレインとエリンも同じだ。
両目見開いては驚いた拍子に互いの身体に抱きついていた。
「あれ?」
だが、ナビゲーターの声はしても目の前にあるのは当人ではなく、モニターを抱えて浮かぶマルチヘリコプター――ドローンであった。
モニターにノイズが走れば、カレアの上半身が浮かび上がる。
見れば、サバイバー一〇〇人を囲む形で六台のドローンがカレア映るモニターを抱えて滞空していた。
『第二回ゲームは<洋館爆破阻止>です』
ご丁寧に字幕付きときた。
まさかとの声をサバイバーの誰かが驚嘆を漏らす。
ナビゲーター当人ではなく現れたドローン。告げられた第二のゲーム。
ドローンはあらゆる面で運用されている。
小型で安価な面を生かして、高所の撮影、ビルなどの破損チェックやダイナミックな動画撮影など活かされる一面があろうと、一方で爆弾を装備して突撃させる兵器として運用される面もある。
サバイバーの誰もが伝播させるように怖気を抱く。
洋館を飛び交うドローン爆弾の爆破を阻止せねばならぬと誰がが口走った。
『この洋館のどこかに爆弾が一つ仕掛けられています。制限時間の三時間以内に仕掛けられた爆弾を見つけ出し、爆破解除コードであるパスワードを入力して爆破を阻止してください』
違ったと滑る声がサバイバーからする。
第一回ゲームは誤射囮裏切りありのゾンビ犬との追いかけっこだった。
だが第二回ゲームは洋館に仕掛けられた爆弾爆破の阻止。
つまりは生き残った一〇〇名のサバイバーで洋館を家捜しして爆破を阻止するゲームときた。
『爆弾が爆発した時点で全サバイバーがゲームオーバーとなり、解除された時点で生存していたサバイバー全員が第三回ゲームに進むことができます』
次なるゲームのメインは共闘。
互いに足を引っ張り合うのではなく、妥協しあおうと共闘し合い、爆破を阻止する。
足を引っ張り合えばその分、生存率は下がり、洋館の爆発で全員がお陀仏となる。
もっとも単に爆弾を探すだけで終わらないとサバイバー全員がわかっていた。
『洋館の中には三人のゾンビが徘徊し、サバイバーに攻撃を仕掛けて探索を妨害してきます』
背後から鍵の開く音がする。
誰もが音に寄せられて振り返れば、両開きの扉が独りでに開き、三つのスポットライトに照らされた三人のゾンビを照らし出す。
たかがゾンビと高をくくるサバイバーはいない。
いないが三人のゾンビの服装に誰もが絶句し声を失った。
「ヘルメットに、ボディアーマーだと」
三人のゾンビはゾンビらしくない装備を身にまとっている。
特殊部隊よろしくの装備。ただ銃火器の類は見あたらず、意図的に隠されていた。
三人は、ミイラのように乾ききった肌、くぼんだ眼孔、グローブやブーツの隙間から覗く乾物と疑うほどの手足と正真正銘のゾンビだ。
『そして注意事項です』
カレアの音声に反応するように三人の武装ゾンビは一斉に背後を振り返った。
背後には小型のディスプレイがバックパックとして装着されている。
<六〇:〇〇>と。
『このゾンビにはそれぞれ一時間、計三時間の時間が与えられています』
武装ゾンビの合計時間は三時間、爆破までのリミットも三時間。
無関係であるはずがない。
『予選を突破した皆様ならご存じの通り、ゾンビは背面の端末を破壊すれば機能を停止させることができます。ですが、もしこの三人のゾンビを機能停止させれば、その分、爆弾のタイマーは一人につき一時間減少することになります』
サバイバー誰もがどよめいた。
どよめくしかなかった。
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