第19話 インターバル②

「特に移動もなしに休憩があるんだもの。けど、それなりに大きい洋館みたいだけど、ここ一〇〇人も入りきれるの?」

 レインの疑問にアレルは頭を上げて洋館を見上げていた。

 外見からして洋館は三階建て。

 建物の幅も目測だが体育館ほどある。

 恐らくだが、問題なく入りきれるだろう。

 内部を確かめたいが窓ガラスはすりガラスとなっており、中を伺うことができない。

「ゲームだと屋根裏部屋から地下五階まであるのが相場だけどな」

「うわ、出たわねゲーム脳。なんでもかんでもゲームあるあると連想させてくるなんて、流石は男子ね~」

「現実とゲームの区別がついているだけマシじゃね?」

 アレルはパンをかじってはニヒルな笑みを浮かべて返す。

 デスゲームに参加しておいて今更である。

 これはゲームであるが、同時に不可分な死ある現実でもある。

 確かに一瞬で転送させる。衣服を着替えさせる。実物と遜色ない機械犬の魔改造など既知の科学を越えているが死ねば終わり。

「死を予防することが、このデスゲームの鍵だ。下手な予測は策士、策に溺れる。かといってなにもしないのは自らを殺すのと同じ」

「そうよね。あと、空気が妙にギスギスしているのがね」

「当たり前だろう。誤射黙過の囮置き去りゲームの後だぞ。一〇〇人の中には、囮にされたとか撃たれたとかでも生き残ったのがいるだろうよ。警戒するし牽制はするさ」

 こうして三人並んで食事をするアレルたちはある意味異常であり異質であろう。

 加えて、時折だが、ちらほらとこちらの様子を伺い、聞き耳を立てるサバイバーが多数いる。

 視線から感じる色彩は、脅威、警戒、憐憫、尊敬、敵意と様々だが警戒の色が一番多い。

「もっとも一〇〇人の中で一番警戒されているのは、俺たちか」

「え、私も入ってんの?」

 スープ運ぶスプーンが止まり、レインは合点の行かない顔をしては驚いていた。

 アレルはただため息をついては、呆れた顔を向けるしかない。

 一方で間に座るエリンは食べ終えているが、物足りないのか、アレルの食べかけのパンを物欲しそうに見つめている。

「あのな、ゴール前でジャケット投げつけて俺助けたのが言う口か?」

 アレルは残ったパンを半分千切ってはエリンの口元に差し出した。

 そのままエリンはパクリとパンに噛みついては、もごもごと咀嚼する。次いで袖を引っ張られて顔を向ければ両手合わせてごちそうさまと会釈してきた。

 しっかりお礼を身振り手振りで行うなど本当にできた子ときた。

「あの時は無我夢中だったのよ」

「俺もだっての」

 当人たちからすれば、その一言で片づけられるが、他のサバイバーからすれば、そう簡単に片づけられるものではない。

 片腕欠損とはいえ、チェンソーを頭部に三つ持つ機械犬を倒したサバイバーの存在。

 恐らくだが、このサバイバーをどうすべきか、第一ゲームで生じたグループで割れているはずだ。

 共闘者として内に引き込むか、あるいは脅威となる前に排除するか。

 再三告げるが、これは裏切り共闘ありのデスゲーム。

 撃ち合いという殺し合いがルールで禁止されている異質なデスゲーム。

 表面上は仲良くとりつくおうと腹の内は誰にもわからない。

 もっとも信頼していた者が裏切り、切り捨ててきた、なんてのはよくある展開だ。

「くぅ~」

 思案していた時、ふとアレルの左側面に重みが増す。

 見れば案の定、エリンが健やかな寝顔で身体を預けている。

「あらあらおなかいっぱいになったからね」

「こんな状況でも寝れるとは、子供は強いな」

 ある意味、サバイバーの中で一番脅威なのは以外とエリンなのかもしれない。

 サバイバーの中で幼い故に最弱となるだろう。

 だが、最弱故、直感的に生き残る行動を取れるのかもしれない。

 現にアレルは困ったと顔をしかめる。

 食べ終わったトレーを戻したいが、立ち上がればエリンを起こしてしまう。

 どかすのは簡単だが、幼き子故に庇護欲を刺激されて動くに動けないのだ。

 本当にこれは脅威だ。

 窮地に陥れば、身を挺して迷わず助けてしまいそうだ。

「んじゃ、この子の面倒よろしく♪」

 立ち上がれぬアレルに代わってレインが立ち上がれば、三人分のトレーを回収する。

 そのまま屋台のほうに運んで行った。

「ふぁ~」

 眠気とは伝染するもの。

 アレルは屋台に向かうレインの後ろ姿をしばし眺めていたが、エリンに引き寄られたか、ひとあくびをする。

 ゆっくりと瞼を閉じては静かに寝息をたてていた。


 この時だけ、アレルは内で猛り狂う復讐心を忘れていた。

 忘れてしまっていた……。

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