第1ゲーム:追いかけっこ
第7話 追いかけっこ①
アレルが目を覚ませば薄暗い空間に閉じこめられていた。
身体を動かそうと狭く、まるで学校にある掃除用ロッカーにいる気分だ。
無理矢理に押し込められ、外からホウキで袋叩きにされたイヤな記憶を思い出してしまう。
幸いなのは周囲がウレタンのような柔らかな素材で覆われている点だ。
「くっそ、開かないし」
押し開こうと硬くロックされ開かない。
走る耳鳴りが感覚的に空の上なのかと疑問を走らせる。
走るのは疑問だけではない。壁越しだろうと複数人の気配が見てとれる。
何者か分からないが、相応の人数が確かにいると判別できる。
『アテンションプリーズ、サバイバーのみなさまお待たせしました』
ふと放送が始まる。
壁越しだろうとカレアの声だとはっきり分かる。
『ただいまより第一回ゲームを開始します』
ついに始まる本戦。
無意識が緊張で乾いた喉に唾を飲み込ませる。
『第一回ゲームは<追いかけっこ>です』
ゾンビと追いかけっこなのは安易に予測できた。
亀の歩みより遅いゾンビから逃げ切るなど児戯の如く。
誰もがそう思っていた。
だがアレルは平坦のないカレアの声音から一癖あると見抜く。
『常闇の森に蔓延る魔犬の群から見事逃げ切り、ゴールである洋館までたどり着いてください』
魔犬、この発言にイヤな連想がアレルの中で組み上げられる。
予選は人間のゾンビだった。
死体を活用しているのならば、別段、人間だけとは限らない。
死体であるなら種族は問わない。
ならば動物の死体も活用できると。
『制限時間はありません。ですが森の中央にある洋館の敷地内にたどり着けた先着一〇〇名のサバイバーが第二回ゲームに進むことができます。そして注意事項です』
ここで四〇〇名以上をふるい落とすときた。
だが次なる説明に目を見開いた。
『本戦用に用意された六発の実包が装填された拳銃ですが、こちらの整備ミスによりサバイバー全員が所持する拳銃の安全装置が欠落しております。サバイバーのみなさま、誤射には十分にお気をつけください』
参加者全員同時の不具合など仕込みがすぎる。
加えてカレアの演技が臭すぎる。
狭い空間でアレルは呆れた目と顔をするしかない。
(だが、これは厄介だぞ)
アレルはルールの一つを思い出す。
<使用できる弾丸は一人六発。補充はない。六回撃った時点でゲーム失格となる>
まだまだこのゲームの底は読めていない。
撃てる弾は一人六発。
一ゲームのうち六発なのか、それとも全ゲームで六発なのか、明確に記載されていなかった。
意図的に曖昧として霧にように本質を掴ませない。
補充はないとあるあたり警戒するのが妥当だ。
『あと、ゴールである洋館は小高い丘の上にあり、真っ直ぐ進めば最短ルートとなりますが、急がば回れです。いいですか、急がば回れです』
念の入った含みときた。
人によってはゲームクリアのヒントと聞こえるだろうが、アレルに巣喰う不信感がきな臭さを訴えてくる。
道理で例えるならば、押すな押すなよ、だ。
サバイバーの誰もが自分が生き残り勝ち残るのを前提としているならば、近道は文字通り避けては通れぬ選択の一つとなる。
本能的にサバイバー同士の流血沙汰が起こる直感が走る。
『ルール説明は以上です。それでは今より一分後、順次投下を開始します』
遠くから金属音がする。耳鳴りが酷くなる。
気圧の変化はハッチ開放の合図だとイヤでも分かる。
箱がゆっくり動く。徐々に速度を増し、慣性が身体を押しつける。
アレルは全身に力を込めては踏ん張り、身体の揺さぶりを抑え込む。
一定の浮遊感を得た後、下から上に突き上げる衝撃が身体を貫き、落下速度が急激に落ちる。
背面から胸を貫く衝撃が終わりとなり、耳鳴りはゼロとなった。
ガチャリと室内に金属音が響いた。
ロックが解除された音だろうと扉を全開するアレルではない。
デスゲームは既に始まっている。
扉の内側に手を添え、ゆっくりと押し上げる。
ほんの少し開いた隙間から外を覗き、周辺を確認しようとした。
「んなっ!」
開いた隙間から外気が入り込んだ瞬間だった。
真上から強い衝撃が走り、隙間を強制的に閉じられる。
衝撃の直撃を受けた両手に痺れが走る。
「うおっ!」
呻いた時には体感重力が反転。
アレルは鼻先から胸部を扉に打ち付ける。
打ち付けた衝撃でついた手の平が扉裏にグリップがあるのに気づかせるも降下した後では意味がない。
箱が外部の力にて反転したと気づいた時には遅かった。
「おい、誰だ!」
叫ぼうと応答などない。
ただ複数の足音らしき色が遠ざかるのが箱越しに感じられる。
「くっ~油断した!」
既にゲームは始まっている。
他のサバイバーからの妨害はあってもおかしくない。
順次降下しているならば、最初期に降下したサバイバーのはずだ。
別に妨害行為はルールに明記されていない。
死防銃戯ルール
<サバイバー同士の撃ち合いは禁止。重大違反となり即脱落となる>
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