08

砂漠の女神、熱風の守護神『ラーハ』。

古代ラムルの民は崇め奉り、自らの都市の守り神として城壁にシンボルとして立てた。この過酷な地での繁栄が続くようにと。



サンドシップとの撃ち合いは圧倒的な手数で劣勢を強いられていた。それでもリンドは弓を引いた、背後に佇む女神の石柱。信じるものは違えど想いは一つ、今は彼女を信じるしかない。リンドの放つ氷の弓が砂賊達をひきつける。





「行くぞ、押せぇぇぇ」


口々に雄叫び、男達が石柱を押す。ガイオナを通して、ソフィアの伝言が街の人々に伝わり集まった男達。


「おおおおおおおおお」


城壁の上で共にラグも気合を入れる。しかし、ビクともしないラーハの石柱。サンドシップの止まない攻撃がリンドを捕らえだしている。


ラグの背中に小さな感触が当たる。視線だけ後ろを向くと、小さな影が腰のあたりを押している。


「なぜ使わない」


石柱に向き直り小さな影に問いかける。


「なんで主従の輪を使わないんだ」


背後から押す力が少しだけ弱まる。


「なぜ、」

「持てませんよ、そんなの」


掠れる小さな声。


「なに?」

「持てません責任なんて。自分のことも分からないのに……」


泣きそうに震える小さな手が、力なく背中を押す。


「一度使ったら、等価を支払うまで支配されるなんて。そんなの使えません、使えないよ」

「だったらなんで俺を助けたんだ」


石柱が微かに揺れた。いや、砂漠の熱風が見せた泡沫うたかたの幻か。


「いいぜ。あんたに預けるよ」


真っ直ぐなその声にソフィアは顔を上げる。


「あんたのその真っ直ぐな。そいつに賭けるぜ」

「でも、」

「気にするな、ただの気まぐれさ」


小さな手を添えた大きな背中が、熱を帯びて膨れ上がる。遥か彼方を見つめる眼差しに、もう迷いは微塵もない。


「どうせやるなら派手にいこうぜ」

「はい!」


大きな瞳を静かに閉じる。腕輪が光を帯びて金色に輝く。


「我は汝に命ず。輪の契約をもってその力、開放せよ」

「いくぜぇ!!」


両腕の文様が炎となって燃え上がる。


「おおおおおおおおお」


石柱に薄っすらと亀裂が走る。





迫りくるサンドシップ、砲撃が数ミール先で城壁の石を砕き上げる。ドクロにまとわりつく砂毒虫さどくちゅうが大きく書かれた帆がそこまで迫っている。ヒビの入った弓を捨て、リンドが帆を睨みつける。ゆっくりと、ゆっくりと一歩ずつ下がり反転する走り出し、そのまま城壁から飛び降りる。





目の前に獲物が現れるはずだった。男はどこだ、どこに居る。ビナゴアは城壁に佇む女の周りを確認する。どこへ行きやがった、ローブの男は一緒じゃないのか。城壁の女が落ちていく、それを追って視線が下を向く。足元に現れる大きな影。その正体を確認するため無意識に顔を上げると、頭上に巨大な石柱が迫っていた。

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