第7話 二人にとっての酒
「ちっ。色々と根掘り葉掘り聞いて来やがって」
「お疲れ様でした」
エステルとオリヴィアが仲良く出てきた場所は、王国軍の詰所だった。
少人数での
その時の状況や、どうやって出現情報を掴んだのか、などなど色々と取り調べを受けていた。
エステルは口調こそ丁寧だったが、内心はオリヴィアと同意見だった。
(あんのボンクラ共、この時間がありゃ、どんだけ店の売上が伸びたか……)
「おいエステル」
オリヴィアの声が明らかに不機嫌そうだった。
エステルは足を止め、オリヴィアを見つめる。
無視しても良かったが、それをしてしまったら、後が面倒くさい。
エステルは愛嬌たっぷりの笑顔で答えた。
「はい、何でしょうか?」
「むしゃくしゃしてきた。飲みに行くぞ」
「飲みに、ですか?」
こんな昼間から酒とはどんな神経をしているのか。彼女は心のなかでオリヴィアを見下した。
エステルは酒が強い。店の酒樽を全て飲み干した時に、嫌でもそれを自覚させられた。
おそらく、幼少時から水代わりに酒を飲んでいたのが原因だろう。
だからとはいえ、節度ある人間はこんな時間から酒を飲まない。
ここは適当にやり過ごし、自分のやるべきことに集中した方が有意義だ。
そう思い、エステルは断りを入れようとした。
――わっかんねぇ。ほんと、わっかんねぇよ。だからお前が気になる。
「良いですよ。お付き合いします」
何故か、エステルは了承していた。
その気持ちの正体を確かめたくて、エステルはもう少しだけオリヴィアに付き合うことを選択した。
「おう! ノリが良いじゃねえか! んじゃ、さっそく行くぞ。いい店知ってんだ」
「はーい」
もう決めたことだ。
多少飲んだところで、この後の接客に支障はない。
さっさとオリヴィアを酔い潰して帰ろう。
やけに上品そうな店の前に来るまで、エステルはそう考えていた。
「……えと、ここは?」
「良いからさっさと入るぞ!」
「お洒落な居酒屋、的な?」
オリヴィアに腕を掴まれ、エステルはズルズルと引きずられながら入店する。
店員に案内され、オリヴィアが適当に注文をし、待つこと数分。
「お待たせしましたー」
「おう、そこに置いておいてくれ。さぁエステル、乾杯だ」
エステルの目の前にあるのは、お洒落なティーカップとお茶に合いそうな菓子が盛り付けられた皿だった。
思わず彼女は心のなかで叫んだ。
(なんで!? 普通酒だろうが! いや、この時間に飲むもんじゃねーのは分かってたがな!?)
「
「か、乾杯」
ティーカップを合わせるところだけは、少しマナーから外れている。
紅茶に口をつけたエステルはその美味しさと風味に感服する。
エステルは思わず聞いてしまった。
「あの、私てっきりお酒でも飲むのかと思っていました」
「はぁ? こんな時間に酒とか終わってんだろ」
(お前にだけは言われたくねーよ!!)
エステルは思わず暴れそうになった。
(お前のその柄の悪さで『飲みに行くぞ』とか言われたら、百人中百人が酒のことだと思うだろうがよ!)
オリヴィアは洗練された所作で紅茶を楽しみつつ、エステルへ心配の視線を送る。
「あのな何も考えてなさそうなお前に教えてやるが、酒は身体と脳を壊す。長生きしたかったら、酒は飲まないことだな」
(何で私が諭されてんだよ!? まじで納得いかねえぞ!?)
エステルは鋼鉄のメンタルで、なんとか笑顔を維持していた。
「その言い方だと、オリヴィアさんはお酒を飲まれないように聞こえますが……」
「あぁ。私は酒なんか興味ねーし、一滴だって飲むことはねーだろうよ。お前は? 飲むのか?」
「あ、はい。割と飲む方かもしれません」
そう言いながら、エステルはなぜか絶望していた。
(嘘だろ。明らかに酒クズの顔だし、酒クズの語り口調なのにか?)
思わぬ事実に、エステルは打ちのめされそうになる。
対するオリヴィアは、エステルのことを知れた喜びに打ち震えていた。
(へー! へー! エステルさんってお酒飲めるんですね! 大人の女性って感じでかっこいいです!)
とはいえ、オリヴィアは少しだけ罪悪感を抱いていた。
(それにしてもエステルさんに嘘をついてしまいました。私お酒弱くて、一滴飲んだらダウンしちゃうから、つい強がって……)
オリヴィアは酒が本当に弱い。
昔、興味本位で飲んでしまったところ、それ以降の記憶があやふやになってしまったことがある。それ以降、彼女は二度と酒を飲まないと誓った。
(あ……それなら、お酒が飲めるところが良かったんでしょうか。あぁもう! 私の馬鹿! エステルさんの好みをちゃんと聞いておけば……!)
二人の間に沈黙が流れる。正確には心のなかで、色々と喋ってはいるが。
そんな二人だが、お茶と菓子を楽しむことだけは忘れていない。
「そういえば聞きました? カーラーループ廃神殿に封印されていると噂されている
別テーブルで、育ちの良さそうなお嬢様たちが世間話に花を咲かせている。
その中で出てきた単語。
――
二人の興味はつい、そちらの方へ向いてしまった。
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