第3話 ある意味、乗馬デート?
「いやぁっほう!」
ボードリア大街道。それは旅の商人や要人たちが迷わぬよう、大規模整備された道路である。そこを歩けば、絶対に王都へたどり着く。
そんな道路に
威勢よく馬を走らせるオリヴィア。彼女の腰に手を回しているのはエステル。
二人は馬に乗り、
エステルは疑問を投げかけた。
「あのオリヴィアさん! どうして
「あん!? 言っても正確じゃない! あくまで予報だ!」
「どういうことですか!?」
「これから向かう場所で最近、
(確証ないのかよ!)
エステルは心の中で叫んだ。
そんな彼女の心の声は聞こえるわけもなく、オリヴィアは話を続ける。
「段々とその周期が短くなってきていてよ。その規則性を踏まえるなら今日! あと一時間で奴が現れるはずなんだ!」
「な、なるほど……」
エステルの叫びは更に強くなる。
(ふざけんじゃねえぞ銀髪クソチンピラ! んな曖昧な情報で私を連れてきたのかよ!?)
儲けの予感を感じ、エステルはすぐに店を臨時休業にし、ここまでやってきたのだ。
彼女は今にも暴れだしそうだったが、もし万が一、本当に現れたことを考えれば、
「そういえば
「すぐには来ねえ。その前に、軍は冒険者ギルドを通して、一級冒険者に討伐依頼を出すんだ。それで駄目なら、いよいよ軍のお出ましって訳」
(なるほど。軍も余計な被害を出したくないよな。金で解決しそうなら、それで終わり。駄目なら、英雄的に出ていって、弱った所を討ち取るって寸法か)
合理的だと、エステルは感じた。
(国民の人気取りも大変だよな。ってか、この銀髪クソチンピラはどの立場でここに来てんだ?)
そんな彼女の疑問を背に受けるオリヴィア。彼女は内心で満面の笑みを浮かべていた。
(ふわぁ……! え、エステルさんとお出かけ出来てる!? やったやった! すごく嬉しいです!)
オリヴィアはこの言葉遣いのせいで、中々友達が出来ずにいた。
元々舐められないような言動を選んだせいもあって、今更変えようにも変えられない。
だからこそ彼女は、このような自分でも相手をしてくれるエステルを好ましく思っているのだ。
(いつか遊びに誘いたいなって思ってたけど、中々言い出せなかったんですよね……。
気分が上がったオリヴィアは更に馬の速度を速めた。
「ちょ、オリヴィアさん!? 少し速いのではないでしょうか!?」
エステルは目が回りそうになった。彼女は馬に乗った経験がほぼほぼ無い。
それは殺し屋時代まで遡ってもだ。
万が一、任務を終えて馬を使おうとした時、体調を崩していたら? そのような不確定要素のケアを考えるより、自分の足で目的地まで走っていった方が速い。
エステルはずっとそういう考えの下、行動をしていた。
「これくらいの速度でギブアップかよエステル! 腰抜けがよ!」
(お前の腰を砕いてやらないだけありがたいと思え!)
精一杯毒づくエステル。だが、オリヴィアの腰はがっちりと掴む。振り落とされてしまったことを考えたら、こうしているのが一番なのだ。
オリヴィアはエステルが乗馬に不慣れなことを知るわけがない。
(エステルさん、私のことすごく掴んでくれていますね。どうしてでしょうか。密着していると安心します)
互いが真逆の感想を浮かべた辺りで、目的地が見えてきた。
「着いたぞエステル! 『セントルフリーの森』だ!」
「ここって、冒険者ランクが一級の者以外立ち入れない禁止エリアじゃないですか」
「おう。よく知ってんじゃねえか。お勉強はしてるようだな」
知識としては当然持っていた。
しかし、ここは冒険者ギルドが認めた『一級』ランクの者以外は立入禁止とされているエリアだった。
冒険者ランクは一級から三級まであり、一級が最上位。戦闘力、任務達成能力など様々な素質が高水準の者にしか、その称号は与えられない。いわば、精鋭中の精鋭。
そこでエステルは嫌な予感がした。
「ま、まさか無断で侵入するつもりですか?」
「はぁ? 何言ってんだ。何で私がそんなダルいことしなくちゃならねえんだよ」
そう言いながら、オリヴィアは胸元から金色の羽根があしらわれたネックレスを取り出した。
それを見たエステルは思わず、驚きの声をあげてしまった。
「そ、その金の羽根ってもしかして冒険者ランク『一級』の証明票ですか!?」
「そういうこと。だから私は堂々とこの中へ行けるのさ。分かったか?」
「はい、失礼……しました」
さりげなくエステルは手で頭を押さえた。こう思わずにはいられなかった。
(は、嘘だろ!? この銀髪クソチンピラが一級!? 何の間違いだよ!? イキり冒険者ランク一級の間違いじゃねえのか!?)
一瞬偽造を疑ったが、すぐにエステルはその線を消した。
何せ、一級証明票の偽造はそこそこ重い罪に問われる。それだけ一級ランクの冒険者は世間的に信用されているのだ。
「おら、さっさと行くぞ! もしかしてもうバテたのか? 情けねー奴」
「大丈夫です。今、行きますね」
二人は森の中を歩く。
木漏れ日と、吸い込む空気が気持ち良い。ただの散歩ならば、これほどまでに素晴らしい場所はない。
しばらく歩いていると、オリヴィアがエステルを手で制した。
「いた」
「あ、ほんとですね」
広場に、白い翼を生やした馬型の魔物が佇んでいた。
エステルとオリヴィアはほぼ同時に、その魔物が
たった一頭だけだというのに、まるで万の軍勢と対峙しているかのような感覚に陥る。
二人は見つめ合う。
「エステルあんた、ビビってないのか?」
「うふふ。こう見えて、ワクワクしていますよ。叫んだ方が良いでしょうか?」
「良いね。だけど、叫ぶのはあいつの首取ったときにしようぜ」
オリヴィアは静かに剣を抜いた。
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