第3章 ゲーム部活動とその周辺

第16話 「童貞だもんはいらなくね???」

 6/27(土)

 

 

 今日はFLDの札幌地区予選日。前々から決まっていたことなので、先々週にしっかりとバイト先にも断りを入れた。なお、店長は「その日蘇芳さんも休みだし、ちょっと手痛いけど・・・ほかのメンツの出勤は確約しとかないとだね、了解したよ!」だそうだ。確かに、ただでさえメンバー少ないのに、働き盛りの俺と会長が抜けるのは痛いだろうなあ。でも、あくまでも俺はバイトの立場だし、遠慮なく休ませてもらうぜ。

 俺は荷物をまとめて、部屋を出ようと――――したとき、竜崎が「今日ばかりは私もついていく。ビッグイベントだしな。」というもんだから、シャツの胸ポケットに竜崎を入れて、部屋から出た。


 「あれ~?兄さん、どこいくの~?」


 リビングに入ると、ソファに寝っ転がってスマホいじっている有希が話しかけてきた。


 「これから戦場へ向かう。」

 「はいはいおもしろいおもしろい~。いってらっしゃ~い。」


 俺は有希に対して顔をしかめたが、すぐやめた。こいつはこちらを全く見ていなかったからだ。気にせず家を出ると、――なぜか正面には怜が立っていた。ホットパンツにパーカー。ワンサイズ大きいように見えるダボっとしたパーカーと対照的に、下半身はホットパンツからすらりと生足が伸びていた。少々ごてっとしたスニーカーが際立ち、ストリート系で統一された服装がよく似合っていた。生足えっちすぎ。


 「あら、結構早かったわね。」

 「そりゃあ大切な日だからな――て、なんでいんの?」

 「え?いちゃだめなの?」

 「え?それってつまり……・?」

 「いや、別にあなたについていこうとは全く思っていないわ。だって竜崎さんいるじゃない。」

 「・・・・・・・・・ですよねー。」

 「そ、だから私は所謂休暇をこれから満喫するわけ。遼にとっても、私がずっとへばりついてたら集中できないでしょ。童貞だもん。常に一緒にいることがサポートになるわけじゃないわ。」

 「童貞だもんはいらなくね???」

 「あはは!笑われたくなかったら今日いろんな意味で頑張ることね。言いたかったのはこれだけ。――じゃあ立ち話もなんだし、行きましょうか?」

 「え?どこに?」

 「私の今日の予定は街でショッピング。静乃と刹那の3人でね。」


 ああ、そういやそんな計画してたな。そしたら、目的地は大体同じになるか。駅まで一緒に行こうってことね。



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「え?なんで遼がいんの?」


 最寄り駅の澄川駅には、私服姿の静乃がベンチに座りながらスマホをいじっていた。黒の薄手のシャツに、スキニージーンズ。胸ポケットにはサングラスが入っていて、黒のサンダルでしめる。夏らしい格好ではあるが、黒基調というスタイルがいかにも静乃らしい。髪色が白に近い灰色のせいで、コントラストが際立ち、より顔面に視線がむきやすくなっていた。だからこそ、俺と怜を怪訝そうに見ていたのがよくわかった。


「俺は今日はゲームの大会があんだよ。開始は11時からだけど、早めに行っていろいろ準備しようかと。」

「ぶっちゃけマジでたまたま出るタイミングが被っただけよ。私だって、休日くらい好きに過ごしたいわ。」

「辛辣ぅー」

「はは、まあいいや。どうせ街中でしょ?いこっか。でも胸ポケットに人形いれてる男と並んでは、ぼくは歩きたくないなあ。」


 静乃は立ち上がると、そのまま改札へと足を進めていった。―――――いやこいつマジでスタイルいいな。あまり私服姿を見かけることがなかったので意識しなかったけど、足は長いし、乳でかいし、客観的に見れば男がほいほい来そうなもんだが、それでも来ないのは、眼光のデバフが凄すぎるんだろうな・・・。

 俺はとりあえず竜崎をカバンの中に入れた後、地下鉄に乗り、俺だけすすきの駅で途中下車した。彼女らは、ひとまず大通駅で降りるらしい。んで、俺は集合場所である狸小路のマックについて席を探すと、そこには既にメンバーがそろっていたのがわかった。


 「あ、先輩!おはようございます!」

 「時間通りだな。」

 

 服装を見てみると、部長は山ガールみたいなほわっとした格好で、柄谷は黒のワンピースで、袖や裾がフリルで飾られていた。俺としては、どことなくゴスロリっぽいのにそそられる。なお、ハムはポロシャツにチノパンという、とりとめもない格好だ。


 「よしきた!そしたら最後の打ち合わせしよっか!」

 「「「おう!/承知した!/はい!」」」


 部長の掛け声のもと、俺らは最後の打ち合わせを開始するのだった。



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 フルド開催の地区大会はすすきののラウンドワンの3,4階で行われる。いろいろなビデオゲームをいったんどかして、フルドの筐体を並べ、周りにモニターや見学場所とかを用意する気合の入れっぷりだった。部長が受付でエントリー用紙を記入している間、俺は近くの壁に寄りかかって、あることを考えていた。俺と柄谷をオンライン対戦でボコボコにした相手、《nameless》。あれから何度もオンラインに潜り、nameless名義の相手にはぶつかった。けれど、それがデフォルト名であるせいで、この前戦ったやつの特定には至っていない。フルドは、ゲームハードのオンラインアカウントの名前と、フルド用のプレイヤー名が併記される。普通プレイヤー名のほうが重要視される。SNSでも、プレイヤー名を載せる人が圧倒的に多い。だからこそ、俺はアカウント名のほうをスルーしてしまっていた。そこを覚えていれば、もしかしたら探し出せたかもしれないのに・・・。


「先輩?どうしたんですか?浮かない顔して。」


 気が付けば、柄谷は俺の隣に立ち、こちらを見上げていた。こんなに近くにいたのに存在に気付かなかったこともあり、驚いて、本能的に反対側にのけぞった。少々咳払いした後、何もなかったかのように思っていたことを話した。


「ちょっとな、奴ら―――namelessについて考えていてさ。」


 柄谷はその言葉を聞いて、表情が曇ったように見えた。だけれどそれも一瞬。


「大丈夫です!こちらのやりたいことを間違えずに押し付ければだれにも負けませんよ!それに・・・あのレベルの人が現れても、ハム先輩と部長もいますし、負ける気がしませんね!」

「―――柄谷、俺を励ますとはなかなかやるな。だが俺の心配事はそこじゃないんだ。」

「え?」

「いやね?案だけ強い人なんだし、アカウント名をメモっときゃよかったなって。」

「ああそれですか?私知ってますよ。」

「はわわ??」

「私、戦闘は基本録画してて、後からプレイを見返せるようにしてたんですよ。だからその時に。」

「言ってくれれば――――いや、言ったところで、か。」

「はい。どうせこんな場で出会うとは思えないからです。」

「だな。気にしてもしゃーないか。」


 ここで名前を知って、変にプレイングに乱れが出てもまずいので、考えないことにした。


「まあでも、心配してくれてありがとうな。今日は頑張ろう。」


 俺はポンポンと柄谷の頭をたたいたのち、部長のもとへ向かった。

 


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 ほどなく開始時刻となり、いよいよ開会式が始まった。参加者たちはみな、スクリーンの前に集まった。この場にいるのは、マキシムでの常連客のオタク、コスプレして気合入れているオタク、陽キャにしか見えないグループ、そしてゲームやるには場違いなバンドマンの風貌の人まで・・・。それだけ広く受け入れられていていいな。でもやっぱ、いかにもなオタク多いな・・・。


「ではこれより!第3回、フォースレイドライブの地区予選を開始しますっ・・・!」


 司会者の開催宣言に、参加者たちのテンションが一気に上り詰める。いよいよ始まるんだなって思うと、緊張で手が汗で滲む。そんで、司会者の話を話半分で聞いていたのだが、


「――――では、ここで、本日の実況・解説者を紹介しましょう・・・!それではMAFUYUさん、お願いします!」


 すると、ステージ右側から、一人の女性が現れ、オタクたちのテンションが最高潮になる。


「え?MAFUYUさん?来るの???」

「国広知らなかったの?大会HPに載ってたよ。札幌の地区予選の解説者はMAFUYUさんなんだって。まあ札幌在住のプロフルドプレイヤーだし、呼ぶならまあこの人だろうね。」


 部長がかなり驚いてこちらを見ていた。確かに、俺はHPを調べなかった。そのへんは全部部長に任せきりだったからだ。


「まあでも、MAFUYUさん来るってわかってたら、人によっては大会でなくても集まってくるわな・・・」


 彼らが発狂に近いほどの騒ぎを起こすのも、正直頷ける。かなり強いe-sportsプレイヤーかつゲーム評論家で、youtubeの再生数もコンスタントに30万再生を超える。基本的にゆっくり解説動画を出しているのだが、突出して伸びるときは、本人のプレイ中の様子がワイプで抜きだされているゲーム実況。某ピアノ系youtuberしかり、その容姿によるところが大きい。ただ、あちらと違って、スタイルがいいとかそういうのではなく、単純に可愛いのだ。それもオタク受けする方向に可愛い。今日は、童貞が好きそうなガーリィでキュートなファッション、クリーム色の長髪、守ってあげたくなるような、か弱い感じが滲み出ている。柄谷が拗らせて成長したら、きっとこんな感じになるんだろうなあって思っているのだが、まだ本人には伝えていない。なお、俺もチャンネル登録はしているのだが、周りのオタクたちほど熱狂的なファンというわけではない。リアルアイドルに興味があんまりないからだ。ただ、彼女が札幌出身ということで、地元愛から純粋に彼女を応援している。


「うおおおおMAFUYUたあああああん!」


 ふと、聞きなれた声に振り向いてみると、そこにはオタクたちに混ざって――――いや、オタクたちの一人として伊藤がいた。今日ばかりは関わりたくないなと思い、見なかったことにした。


「本日実況及び開設を務めさせていただきます、MAFUYUです。札幌はMAFUYUの地元、その地元のレベルが低かったらやだなあと思ったりもしましたが、前評判では激戦区と聞きましたので期待で胸がいっぱいです。皆さん、全国出場目指して頑張ってください!MAFUYUも、全国大会の解説ポジとれるよう頑張りますので!」


 ああ、こんな娘はフリルのついた白ニーソで、黒を基調としたチェックの制服コスを着させれば・・・。うむ、シコれ――――――――――――――――って、痛え!なんか足先が痛え!めっちゃぐりぐり踏みつぶされてるっ!俺は足元に目を向けると、部長と柄谷の靴が目に入った。左右を交互に観ると、顔は笑っていたのに目は笑っていなかった。俺はひとまず、何度も謝罪のポーズをとるのであった。

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