第17話 「やっぱ頭いい人はゲームもうまいんですね・・・。」

「さあて、まずは一回戦、ぼっこぼこにするよー!」


 試合開始10分前となった。初戦のチームは各フロアに向かいつつある。我々も試合会場の3階に降り、筐体前に集合して作戦を確認中というわけだ。

 

「対戦チームを見る限り、私たちは当たりを引いたみたいですね。」


 チーム表を見ながら柄谷はそうつぶやく。確かに、今回はかなりついている。今日の地区予選は、ぜんぶで12チームが出場し、うち4チームは前大会で地区大会準決勝まで残ったチームであり、それぞれシードとして2回戦からスタートだ。この大会初参加の俺たちは、決勝まで勝ち進む――――3回勝ちさえすれば全道大会に進める。だからこそ、シード枠の2組のうち、勝ち目のあるチームとどうしても当たりたかった。


「だな。全道大会どまりの2チームがこちらのブロックだ。地区大会優勝どころか、全国大会にも進んで、しかもいいとこまで勝ち進んだ<ペロペロハウス>は別ブロックになってくれた。」

「にしても、ふざけた名前なのにそこそこイケメンだったよね。栞ちゃんどう思う?」

「まあ確かに・・・」

「だってさ国広、栞ちゃんの好みはあんな感じなんだって。」

「部長さん???別に私の好みだとは一言も・・・」

「てかなんで俺に話振った???」

「――――他愛もない会話ができるくらいには、落ち着いているようだな。」


 ハムの一言で、俺はハッとした。確かに、今の俺はなにも緊張をしていない。まあ、目の前の相手はよく見知っているからというのもあるが・・・


「だってさハム?一回戦の相手っていつも私らがボコボコにしてるマキシムの常連だよ?負ける気がしないよ。」


 一回戦の相手である<Intermetallics>は、いつもマキシムにいる北大工学部の学生である。野良で4 vs 4の試合はなかなか難しく、それはあちらも思っていたようで、双方の利害が一致したことで一緒に戦うこととなり、結果的に仲良くなった。流石大学生というか、金も時間もあるおかげで、ゲーセンに入り浸っているんだと。ただ、センスはなかったようで、俺らが負けることはほとんどなかった。なので、練度を上げるときはゲーセンでオンライン対戦、新しい戦術を試すときと4 vs 4をやる時は彼らとやっていた。それでもボコボコにできていた。だからこそ、最良の方法で当たれば、まず負けることはないだろう。もちろん、実力をずっと隠していた可能性もあるが、ただの高校生相手にそこまでするわけがない。それに、手を抜かれていたらさすがに気づく。あれは本気でやって、本気で負けていたんだ。なお、我々の最後のゲーセンでの練習日にも彼らはいて、『決勝で会おうぜ!』なんて律義に負けフラグも立てていった。負ける気がしない。


「それではっ・・・!Aブロック一回戦、<Intermetallics>対<北山高校ゲーム研究部>の試合を始めますっ・・・!」


 司会者の号令を合図に、俺らは筐体前に座った。



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 結果はもちろん、俺らの快勝。俺と柄谷、部長とハムのペアは両方とも勝ち、4 vs 4の最終戦にもつれ込むこともなかった。そんで、次の試合に勝った時のことを想定して、二試合目の観戦にしゃれ込んでいた。


「ま、なんにせよひとまず目標達成じゃないですか?初戦敗退を防ぐってやつ。」

「ああ、部長さんがそんなこと言ってましたね。」

「なにいってるのさ二人とも。ここまで来たら全道大会行くよ!だからこそ、こうしてこの試合を見ているんじゃいのさ。」

「宮永の言うことももっともだが、先に次に当たるシードのチームを調べたほうがいいんじゃないのか?」

「<DuOuD>でしょ?調べても多分出てこないよ。このチーム、毎回名前変えてるし、去年とメンツも一人変わってるから。」

「あ、そうなんですね――――――え?なんでそんなこと知ってるんですか?」

「まあ相手チームの3人は私の知り合いだからさ。情報はある程度わかってるんだよね。」


 さらりとどんどん新情報がこぼれていく。柄谷はもちろん、さすがのハムも驚いていた。


「このチームの4人のうち3人は、私は同じ中学出身なんだよ。で、その人っていろんなゲームやるんだけど、いっしょにやる相手がいなくてね。それで、たまたま去年知り合い同士で大会出たらいいところまで勝ち上がっちゃって、今年はシード権をもらったってわけ。さしずめ、チーム名は英単語帳のDuOからきているんだろうね。」


 シード権獲得の条件は、昨年の大会で決勝まで進んでいること、そして、そのうち3/4が継続して参加していること。チームメンバーの交換は一人までならしてよいという運営側の配慮だ。しかもDuOって進学校がよく使ってる単語帳だろ?となると・・・


「――――部長、メンツが変わったって、もしかして部長自身じゃないですか?」

「そういうことよね。」


 部長はにやりと笑い、そのまま話をつづけた。


「去年このチームで参加してさ、でもやっぱり、自分の部活で、自分が先頭に立ってのし上がっていきたいなって思ったわけ。学校に部活を認めてもらうためにも、実績が欲しかった。去年は部員が三人しかいなくて同好会どまりだったけど、今年は栞ちゃんが入ってくれたから、部活まで格上げできた。ここで実績を出せば、今後恒常的にゲーム部が成立し続けられる。その夢を実現させるためには、あのチームだとダメなの。高校違う人混ざってるし。」

「なるほ―――――え?同じ高校の人もいるんですか?誰ですか?私の知ってる人ですか?」

「栞ちゃんどうどう―――――まあ、それは秘密。会ってみてからのお楽しみということで。もちろん、会ったところできっとわからないと思うけど。んで、残りの3人のうち、同じ中学の人は二人とも南川高校の生徒。私と入れ替わりで入った人は、私も知らないから、きっと南川高校で知り合った友達なのかなあ。」

「南川高校って、市内トップの高校じゃないですか!やっぱ頭いい人はゲームもうまいんですね・・・。」


 柄谷、俺らの高校は市内二番だから、そのセリフはブーメランだし、人によってはちくちく言葉になりかねないんだぞ・・・と、言いかけたが、頭の中だけにとどめておいた。


「そもそも、宮永、君は過去にこの大会に出て勝ち進んでいたんだな。確かに強いとは思っていたが、経験もあったとは・・・。」

「ハムごめんね。こういうのって後からばらした方がかっこいいじゃん?」


 部長のにやけが加速する。この人、マジでこの光景がみたくてずっと黙っていたんだな・・・


「ま、だから次の対戦相手の話をするのは、この試合を見終わってからでも十分間に合うってわけ!大量の情報を持っているんだから、対策方法ももう思いついている。相手の敗北は決まっているのさ。はっはっは。」


 部長、それは負けフラグですよ・・・。やれやれと大きなため息をついた。そして、俺のその思いはハムと柄谷も同様に抱いていたようで、大きく呆れていたのだった。


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