第9話 「―――おなか枕、させてくれないか?」

 6/14(日)

 

 俺はいま、女子の部屋にいる。有希の部屋ってオチではない。れっきとした同級生の家である。俺の人生にこんな場面がやってくるなんて!なんてウキウキしてたのもつかの間だった。


「今日私の家で勉強会することになったけど、わかってるわよね?」

「はい・・・」


 今日は怜の家で勉強会なのだ。どうやら俺が知らない間に静乃や刹那と仲良くなったらしく、刹那が勉強でうだうだ静乃に相談していたのと見かねて、「じゃあ勉強会でもしない?理系科目は問題ないんだけど、文系科目が前の高校と進行度合いが違くて、割とピンチなのよね。それに、私って一人暮らしだから、体力尽きるまで煮詰められるわよ。」と進言したらしい。刹那はすっかりその気になってしまったため、静乃も巻き込んでやることになったんだと。それで、静乃が「勉強会なら遼も呼んだら?さすがにぼく一人で、勉強不安抱えている2人を見るのはきついや。」といったもんだから、俺にも声がかかったわけだ。昨日の晩急に怜から話を聞いたときはビビった。俺にも予定があるんだぞ!なんて強がっていたが、「あなたに予定がないことくらい竜崎さんから確認済みよ。無駄な強がりはやめなさい。」と一蹴されてしまった。なお、明日勉強会するから飯いらんって話を叔父さんたちにしたら、有希が「え?静乃さんたちと勉強?怜さんの家で?私も行きたい!初テストだしちょっと怖いんだよ~・・・そうだ、栞ちゃんも呼んでいい?」なんて言うから、彼女ら二人も混ぜて勉強会開催と相成った。静乃にそのことを相談すると、「ぼくは刹那と有希ちゃんの面倒見るから、遼が怜と栞ちゃんの面倒見てね。」とのことだった。まあ予想はしてたさ。ちなみに、怜と柄谷は初対面である。柄谷は人見知りをするほうなので、有希の誘いとはいえよく来る決意したなと感心したが、裏を返せばそれだけ切羽詰まっていたということだろう。金曜の部活の時も結構やば気な感じだったしな。ただ、有希がいたおかげで、彼女が間に立って話を進めていたので比較的早くに怜と柄谷は仲良くなることができた。いいことだ。

 で、開催時間のちょっと早くに俺だけ呼び出して、怜は念押しをしてきたのだ。言わんとしていることはわかる。ここがフラグの立てどころなんだろ?


「勉強を教えるためには嫌でも接近する。チャンスよ遼。フラグを立てて立てて立てまくりましょう。あなたは勉強ができるみたいだからね。得意なフィールドなら、輝けるでしょ?」

「それはいいけど・・・。」


 なお、竜崎は『怜がいるなら私はいらないだろう?』などと、俺をサポートする身であることを全く感じさせないことをほざいていた。まあでも、正体明かすのはタイミング大切だから・・・。

 そして現在、リビングで皆かれこれ2時間ペンを走らせている。彼女はミニマリストなのか、物が全然なくて女子女子してないから、特にドキドキもせず、勉強できていた。各人の様子だが、長テーブルの短辺にはそれぞれ俺と怜が座り、長辺には静乃と刹那、有希と柄谷のペアがそれぞれ座っていた。有希や柄谷は高校受験してからそこまで時間たってないから、勉強する習慣自体はまだなくなっておらず、持続できるのはまあわかる。ただ、有希はいつもなら30分もしたらすぐ休憩するんだが、環境が違うおかげかよく続いていた。ちなみに、怜は正直やばい。いろんな意味でやばい。文系科目は平均的な感じがした。そりゃ、この世界の人間じゃないから、この時代の人が作った文化をテストされたらキツイわな。細かいところはできてないが、教科書を見ながら自力で進めていた。それで理解しているんだから、地頭はよいのだろう。問題なのは理系科目だ。俺が柄谷に、静乃が刹那に勉強を教えている間、有希が数学で困っていたのを見かねてか、怜が勉強を見てあげたのだが、すべての質問にノータイムで答えていた。あまりに何でもできるから、有希が調子こいて参考書の巻末にあるクソ難しい数Iの東大入試問題を出しても、迷わず回答する―――それも複雑な計算も暗算でこなしており・・・。俺と静乃も流石にビビって、騙しだましで物理と化学の詰まってた問題を相談すると、これもノータイムで答えてくれた。理系科目が抜群にできすぎる。英語もできる。というか、発音もナチュラルで、まるで母国語を話すかの如く・・・。理系科目と英語については、もう彼女だけでいいんじゃないかな・・・。俺、輝けてる?

 なんてちょっと自信をちょっと喪失しながら勉強を進めていたが、ふと消しゴムがなくなっていたことがわかった。アレ?机の上にはないな。下に転がってったのか・・・。よっこらせとテーブルの下をのぞき込むと、テーブルのど真ん中にそれはあった。テーブル下に入り込んで消しゴムをつかむと、そこはトンデモトライアングルがいくつもある、すんばらし~い世界が広がっていたことに気が付いた。や、スカートは誰も穿いていないから、おぱんつは見えていないが、座ることで太ももがむにゅっと形を変えるのは、たいへんエッチですな・・・。 そう思ったのもつかの間、有希の集中が限界に達したのか、


「あーもう疲れた!休憩しましょ休憩!」


 そういって足を思いきり伸ばしたもんだから、俺の顔面に勢いよくクリーンヒット。頭は勢いよく横に吹き飛んだ

 

「ひでぶっ!」


 んで、胡坐をかいていた静乃のまたぐらに俺の頭がすっぽりはまる。見上げると静乃と目が合――――あれ?あいつの鼻から下が見えん。乳が邪魔で見えん!!!普段猫背だからわからなかったけど、こいつ乳クソでかくね???なんて邪念が混じってしまったせいか、俺は思わず、


「―――おなか枕、させてくれないか?」


 と某変態紳士がごとく要求をしてしまった。静乃のそのレイプ目はよりどす黒さを増し、両手で握りこぶしを作って、クレしんのみさえがごとくぐりぐり攻撃をかましたのであった。あまりの痛さに悶絶し、加えてぐりぐりするたびに揺れる乳に興奮し、苦痛と快楽が入り混じって情緒がめちゃくちゃになったのち、意識を失った。



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 俺が意識を取り戻し、真っ先に目に入ったのは、窓から差し込む夕焼けの赤色。日は沈みかけていた。1時ごろに怜の家に来て2時間勉強し、それから気を失って、日が沈んでいるとなると、3時間近く気を失っていたことになる。あたりを見回そうと―――したのだが、体に妙な違和感があった。立ち上がろうとしたが、できない。体が思うように動かないのだ。寝ぼけた頭で必死に考えようとしたが、やめた。考えるまでもない。見ればわかった。俺は両手両足をガムテープで縛られていたのだ。確かにセクハラ発言はしたものの、行為自体は事故だったのに、ここまでする必要ある?

 体を芋虫のように動かしながらなんとか体を起こしてあたりを見渡したが、みんなはいなかった。テーブルの上は(俺の勉強道具を除いて)片付けられており、テレビの傍にはswitchのコントローラーが転がっていた。なるほど、勉強終わったからきっとお遊びの時間に入ったんだな――――ん?ちょっとまて、これは俺のじゃん。有希が家から持ってきたのか。せめて俺に一声かけてほしかったゾ・・・いや気絶してたから気づかなかっただけなのかな・・・。てか、なんで誰もいないの?さすがに俺を放置して帰ったりはしないよね?不安になって注意深く周りを見ると、彼女らの荷物はその辺に転がっていた。となると・・・・・・・怜の部屋か?なるほどね、ガールズトークの真っ最中というわけですね、わかります。わかったことにしよう。なら、ここはおとなしく――――するわけがないよな!俺にしたこの仕打ち!いくらなんでも過剰防衛だ!謝罪を要求する!が、謝罪をする相手はここにはいない!となると、謝罪してもらうためにわざわざこの俺から出向いてやろう。ふふふ、その際にほかの部屋を間違えて開けても、これは仕方のないことなんだからな!俺はもがきながらもなんとか手首に巻かれていたガムテを剥がし、足首のガムテも剥がした。みんなが買い物にでも出かけた可能性もあったので、一応玄関に向かった。玄関には俺を含め皆の靴が置いてあった。となると、やはり怜の部屋、もしくはそれに準ずる部屋に集まっているに違いない。

 俺は忍び足でリビングから出た。俺がまだ動けていないと思わせたい。まだばれたくないんだ。耳を澄ますと、2階から笑い声が聞こえてきた。なるほど、1階は問題なさそうだ。だからまずは1階にある部屋を片っ端から調べた。一人暮らしにはあまりに不適なほどこの家は広く、部屋の数もかなりある。これは探索し甲斐がある。きっと面白アイテムが転がってるぞ!そんな好奇心をもとに、過剰防衛への対抗を言い訳として、突き進んだ。  

 しかし、二部屋ほど調べても、荷物が積まれているだけであったり、空き部屋であった。積まれた荷物を一つ開けてみたら、衣服が詰まっていた。パーカーばっかりで・・・いやマジでこいつパーカー好きだな。制服の下にも来てるし、今日の私服もそうだ。そして別の箱を開けると、そこには下着がいっぱい詰まっていた。さすがにこの光景を見られたらまずい。客観的に見たら、女物の下着を一人握りしめて楽しんでる変態にしか見えん!俺は何事もなかったかのように箱を閉じ、速やかに部屋を出た。そしてさらに奥の廊下へと進むと、隅の方に部屋がポツンとあった。静かにその部屋を開けると、机とパソコンが、それもトリプルモニターで置いてあった。さらに隣にはプリンター、床にはシュレッダーが置いてあった。

 俺は踵を返して部屋から出ようと、扉を閉めようとした――が、その瞬間、いや、そう言うと語弊があるな。扉を閉めようとした瞬間、後ろから機械音が聞こえてきた。ばっと振り返ると、プリンターがひとりでに動いていたのだった。一枚の紙を印刷した。俺はその印刷物の内容が気になったもんだから、その紙をとり上げて書かれている内容を見た。


 0608_unchanged_Please continue to carry out the project.

 0609_unchanged_Please continue to carry out the project.

 0610_unchanged_Please continue to carry out the project.

 0611_unchanged_Please continue to carry out the project.

 0612_unchanged_Please continue to carry out the project.

 0613_unchanged_Please continue to carry out the project.  

 

 ”変わらなかった。引き続きプロジェクトを実行してください”とだけ記載されていた。多分、彼女ができていないからサポート継続しろっていう竜崎からのメッセージなんだろう。直接言えばいいのに。なんてことを思って、俺は今度こそ部屋から出た。



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 1階は物色したので、建前上の目的である謝罪を求めて、2階に上がった。手前の部屋から、女性の声が聞こえてくる。さあ、文句を言ってやるぞ――とその時、俺にある考えが浮かんだ。

 

 ―――まてよ?

 ―――いくらセクハラをしたとしても、普通ガムテまで使って縛りあげるか?明らかに行き過ぎた行為だ。

 ―――だが、そうしないとならなかった理由があるのではないのか?

 ―――たとえば、

 ―――女子同士で話したいとき・・・・・・

 

 ・・っ!まさかっ!!コイバナか?え?みんな俺のこと・・・いや待て、竜崎も怜も、恋愛フラグが立ってない的なことを言ってなかったか?となると・・・他に好きな奴がいる?少し想像してみる。柄谷や静乃、刹那がほかの男と一緒にいて、いちゃらぶちゅっちゅするって・・・・・・おかしいな、もやもやするぞ。別に付き合ってるわけじゃないし、相手が誰といようが俺に口出しする権利はない・・・。ハッとして俺は自分のムスコをみる。よかった。元気なってなかった。もしここでテント張ってたら、俺がBSSやNTRでシコってたのは竿役に共感してたからっことが証明されちまう。だが―――でも―――気になる。ここでドアノブを回したい。が、回すべきか否か・・・ギャルゲーに例えると、いま画面上には選択肢が出てるはず。 

 

 A 当初の予定通り、「ガムテで縛るのはさすがにやりすぎだろ!」といってドアノブを回す。

 B ここは慎重に、部屋から聞こえる声を観察してからだ。そのあと、ノックして入ろう。

 C ドアノブを回さないでこの場から立ち去る。

 

 無難なのはAだ。大義名分もあるから、そりゃ驚かれはするだろうが、それまでで終わるはず。Bの場合は・・・会話の内容は聞けるだろうが、もし聞き耳立てているときにふいにドアが開いたら・・・・・・・これも恐ろしい・・・。てことはCか?いや、これはこれで安全策ではあるものの、竜崎の言うフラグ立ては何も起こらない気がする。この中のメンツにフラグを立てないのなら、C一択だ。なら俺がとるべき行動は・・・

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