第2章 乱立する俺のフラグとその回収
第8話 「叶わない恋を抱き続けるのって、苦しいですよ?」
6/12(金)
「ど・・・どうしたっ・・・・・・?」
教室に入ってきた伊藤の開口一番がその言葉だった。机でふて寝している俺へ向けていたというのは、直接目で確かめなくてもわかった。
「朝からずっとこの調子なんだよね。めずらしくぼくよりもはやく教室にいたし、なんかずっとため息ばかりついてるから、気の迷いで声かけちゃったらさ、すごくまっとうな返事が返ってきたの。いつもならキモイ挨拶返してくるのにさ。」
俺の斜め前に座っている静乃は、珍しく寝ずにこちらを向いていた。それが物珍しかったのか、気が付いたら怜と刹那もこちらに集まっていた。
「ここまで元気のない彼は久々に見たかもしれません。」
「いったい何があったのかしら。」
「うーん・・・・・・・」
静乃は長考した後、
「なんかのゲームで舐めプしてたら、逆にぼこぼこにされたと考える。」
「・・・・・・御名答。流石、小学校からの付き合いだけあるな。俺のことをよくわかっていらっしゃる。」
なんてことを俺が答えると、静乃は鼻で笑って、
「やっぱりしょうもない理由だったか。まあでも、それが遼なのかもしれないね。」
呆れてそう返事をした。ただ、その言葉の中には、若干のやさしさが含まれていると思った。
「心配して損しました。はい、解散解散―」
刹那の一声で、周囲の人たちはみな自席に戻っていった。
「まあでもさ、負けたのなら次勝てばいいじゃん。弱点を見つけたら即つぶすスタイルでしょ、遼って。」
「――――確かにそうだった。勉強だってそうやってきたんだ。静乃、ありがとう。ちょっと元気出たぜ。俺はやればできる子なんだ。できないことは、できるまでやりゃいいんだよな。うんうん。」
「そうそう、調子づいたことを言ってる方が遼らしいよ。まあ、ぼくには関係ない話だけどさ。」
なんてセリフを吐くと、静乃はもう俺に絡むのをやめて、突っ伏して寝に入った。よし、やるぞやるぞ俺はやるぞ!
そう気合を入れて俺はノートを広げ、昨日の対戦の問題点を書き出すのであった。
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「兄さん!今日の栞ちゃんの様子がおかしかったんだけど、なんでかわかる?」
帰宅後、部屋でテスト勉強していた。なお、部活は試験一週間前のため活動停止。ゲーセンに行くのも梓先生から禁じられていたため、おとなしくするほかなかった。そんなところに有希が勢いよく入ってきたので、ドタドタとうるさい足音と有希のキャンキャンした甲高い声が、やけに部屋の中で反響していた。
「ああ――・・・ぶっ壊れてた感じ?」
「そうそう!まるで死人のように椅子の背もたれに寄りかかっていて、こっちが話しかけると『栞はダメな子です。栞はダメな子です栞は(ry』って感じで呟いてて、目の焦点は定まってなくて、激しく揺さぶってやっと正気を取り戻したけど、それからもずっと『私はもう駄目ですぅぅぅ~・・・』って縮こまっちゃって・・・。」
「やっぱりか。」
「え?何か知ってるの!?」
「ああ、昨日事件があってな。」
「事件――――――――はっ!まさか兄さん・・・・・・・酷い!栞ちゃんに乱暴するなんてっ―――――しかもあんなになるまで――――――いくら兄さんがヘンタイキモオタだとしても、女性に直接手はかけないとおもっていたのに・・・。」
「はいはい、一回落ち着け。」
「兄さん、ここは無法国家じゃないだよ。やっていいことと悪いことが―――――」
「あのな、まずな、俺は柄谷に乱暴はしていない。柄谷は、ゲームで大負けしたからぶっ壊れていたんだ。柄谷のゲーム好き度合いは、お前もよくわかるだろ?」
「あぁなんだ、ゲームか。てことは、今回は相当ショックだったんだね・・・。私初めて見たもん。栞ちゃんのあんな姿。まあでも原因わかったからよしと疲れたから寝るね。」
ほっとした表情を浮かべて有希は部屋から出て行った。
「まったく・・・人騒がせなやつだ。」
それにしても、今日は一刻も早く寝たい。だけど寝れない。試験勉強しなきゃならないから。悲しいな、学生というものは。ただ・・・有希が言うには、こんな柄谷は初めて見るらしい。ちょっとフォロー入れなきゃまずいかもな・・・。
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6/13(土)
貴重なテスト前の休日に、俺は何をしているのかというと、鉛筆ではなくおぼんを持っていた。そう、バイトしているのだ。店長からどうしてもヘルプではいってくれと頼まれて、仕方なくこうして出勤している。体力と精神の両方が削られていくのがわかってつらいが、弱音は吐けなかった。というのも―――
「国広君、これ三番卓にもっていってください。」
俺よりもスケジュールがきついはずの人間が、愚痴一つこぼさず働いていたのだ。
「会長、了解です。」
彼女は蘇芳結衣、自分が通う北山高校の3年生であり、生徒会長様である。端正な顔立ち、キリっとした目元、腰くらいまである闇色のロングのストレート。冷然とした態度に、170cmくらいはある高身長、出るところはでて、引っ込むところはきちんと引っ込んでおり、モデル体型と言って差し支えない。それらの要素によって、彼女は男女問わず羨望のまなざしを向けられている。そんなすさまじいルックスなのに、告白とかはあんまりされないらしい。会長に直接話を聞いてもはぐらかされたのだが、会長と非常に仲のいい宮永部長に話を聞いたところ、あまりにもしつこく追い回してきた男子生徒が、いろいろあって『会長は裏表のない素敵な人です』としか言わなくなってしまったらしく、その噂話が広まって、誰も下手なことをしないようにしようと協定を結んだとか。ほかにもいろいろ噂があるが、どれもほんとかどうかは疑わしい。ただ、どれも会長への根源的恐怖が含まれていたことには変わりないため、怒らせたらまずいのではないかということだけはよくわかった。
そんな会長ほどの人間がなぜバイトしているのかは聞いても教えてくれなかったのだが、いずれにせよ、こうして俺は知り合うことができた。この接点がなければ、絶対に話しかけることはかなわなかっただろう。この穴場感満載の小洒落たカフェに、たまたま会長バイトしていて、たまたま俺のバイト先と重なったのは、奇跡だ。なお、会長のバイト先については、本人から固く口留めされているため、誰にも広まっていない。ここでバイトしてることを知っているのは、俺と生徒会メンバー、宮永部長だけらしい。
にしても、疲れひとつ見せないで会長は料理を作り続けている。生徒会長なんだから俺よりも時間がないはず。加えてテスト期間だし受験生だ。勉強時間を増やさないといけないはず・・・・・・・なんか時間を有効に活用する方法とかのコツでもあるのか?ちょっと聞いてみようか・・・
「会長、ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
会長は視線はこちらを向けず、目の前のフライパンに集中させている。
「なんで、時間ないはずなのにそんなに――」
「ああ――――――――その手の話は仕事に少し余裕ができたら願いしますね。」
まあ、当然っちゃ当然の対応であった。
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「さっきの話なんですけれど―――――」
俺は客が減るのを待っていたのだが、俺の願望とは反して客はむしろ増え続けた。結局、休憩時間まで待つこととなり、現在、休憩室でで会長と二人きりで机を間に対峙し、先ほどの話に入ろうとしているところである。
「簡単な話、毎日こつこつ勉強しているからですよ。」
「そりゃそうっすよね・・・・・・。でも、バイトとかあるのに、そんな勉強する時間ってあるんですか?趣味の時間とかもありますし。」
それを聞いた会長は『確かにそう・・・ですねぇ―――――――』と適当に相槌をし、それから指を組んで肘を机の上につき、指の上に額を乗せるようにして下を向いて黙り込んだ。口を開いたのは、それから数十秒たってからである。
「バイトや仕事やらで、確かに私は家での時間は全然ないですが―――そうですね、あえて貴方の疑問に回答するならば、合間の時間をぬかりなく使っているってことでしょうか。たとえば、登下校の電車の中、学校の休み時間、自分のシフトまでの時間とかですかね。」
「なるほどなぁ。ストイックなんですね。」
「まあ確かに、君は無駄な時間が多すぎるからなあ。」
「なんと辛辣な――――――――って、ん?」
この場には会長と俺の二人しかいないはずだったのだが、第三者の声が聞こえてきた。非常に嫌な予感がしたので、あたりを見渡すと、テーブルの上にはねんどろいどサイズのフィギュアが仁王立ちしていた。どっと疲れが押し寄せてきた。案の定、会長は竜崎の方を見て固まってしまっている。なんて言ってごまかそうかドギマギしてしまった。そこから口を開いたのは、十数秒経ってからであった。
「会長、これは最新型のアンドロイドなんです。可愛いでしょう?AIも入ってて周りの会話に合わせることができるんですよ?すごいですよねー科学の力ってすげー。」
あははと乾いた笑いが口からこぼれた。てかなんで竜崎ここにいんの?カバンの中に入り込んでたの?なんで???
「・・・百歩譲ってAI搭載で会話も可能というのはいいです。けれど、なんですかこれは。好き勝手動いてるじゃないですか。」
「――――すごいでしょう?AIが各駆動部を動かしているんですよ。」
「――――どこでそれを買ったとか、深く考えるのはやめておきましょう。頭が痛くなりそうです。ええとその・・・何て名前ですか?そのフィギュア。」
「私は竜崎と申します。このクソ野郎の恋のパートナーですね。」
俺は飲みかけのお茶を思わず吹き出しそうになった。何言ってくれちゃってんの?いや間違いじゃないけどさ!もっとごまかそうよそこは!
「国広君・・・うん、趣味嗜好はいろいろありますからね。でも、さすがににちょっとこれは驚きです。いくら国広君が2次元大好きだとしても、恋の対象はきちんと人間だと思っていました。叶わない恋を抱き続けるのって、苦しいですよ?」
「か、会長待ってください誤解です!」
俺をフィギュアに恋する男だと勘違いしてしまったのか、会長は引きつった笑みを浮かべて、優しく言葉をかけてくれた。その会長の誤解を解こうと必死こくはめになり、ただ働く以上に疲れてしまい、その場に突っ伏してしまった。ちなみに、後から聞いたのだが、竜崎がついてきたのは、こっちの世界に来てから蘇芳会長と初接触だから、様子を直接確認したかったからとのことらしい。加えて、自身が動き回りやすくなるよう、正体を明かしたかったというのもあったから、飛び出てきたんだと。
・・・・・・そういえばさっき会長は、『バイトや仕事やらで、確かに私は家での時間は全然ない』って言っていたけれど、これって同じことだよな?単なるいい間違いかなぁ。
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