第6話 「君の愛は歪んでる」

 高校生がゲーセンに日常的にいるのは治安的にどうなの?と思うだろう。実際、部活設立当初はいくらe-sportsのためという名目があっても、ゲーセンに行くのは許されてなかったらしい。けれど、顧問(にさせられた)梓先生がいろいろ頑張ってくれたのと、部長がしっかり結果を出したことで、何とか認可されているとのこと。そんな歴史があったから、こうして俺はいま、堂々とゲーセンに向かえている。最も、制服を着ているせいで、練習できるのは補導されない時間まで、という制約があるが・・・(まあ、柄谷が童顔なこともあり、私服を着ていても必ず注意されるのだが)。

 行きつけのゲーセン『マキシム』は学校から10分弱という、かなりの好立地に位置してある。駅から近いのと、格闘ゲームと音ゲーが豊富なので、コアなゲーマーにはたまらない場所である。特に格ゲーについては恒常的に何かしらの大会が開かれており、それもあるのか猛者がかなり集まっているので、切磋琢磨するには最適な場所だ。なお、電車の高架下にあるため、走行音がうるさいのがネックである。

 俺が怜と話し込んで遅れたこともあり、マキシムについたときには、すでに柄谷がいて、レトロな格ゲーで暇をつぶしていた。こいつ、そこまで上手じゃないな。――――――乱入してボコボコにしてやろう。さっそく対面に座り。百円を入れて乱入した。このゲームは昔やりこんだ。しっかりとハメ殺してやるぜ。そうして柄谷をひとしきりボコボコにし、ゲーム内で煽りに煽ってやった。そうして立ち上がって柄谷の様子を見ると、涙目になりながらこぶしを握り締めていた。俺の姿に気づくと、ぷりぷりしながらこちらに向かってきた。


「先輩酷いです!そうやって初心者をいじめるから格ゲー人口がどんどん減っていくんですよ!」

「俺の内なるサディズムが目覚めてしまったんだ。許してくれ。」

「先輩ってほんと下にはドSになりますよね。有希ちゃんもかわいそうですよ。こんな従兄をもつなんて・・・。」

「まるで俺が上にはドMだとでも言いたい口ぶりじゃないか。」


 なんてことを俺が言うと、本気でびっくりしている顔をしていた。え?マジで俺って周りからドMって思われてるの?


 「国広はもっと女の子に優しくしたほうがいいよ。別に顔面は悪い方じゃないんだしさ。性格さえまともならなあ。」


 なんて耳が痛いことを後ろから投げかけてくるのは、我らゲーム部の部長、宮永龍華さんだ。そしてその裏にはハムが腕組んで仁王立ちをしていた。てか、俺の顔面はそこまで悪くはないのか。それは素直にうれしいぞ。


「部長、これは愛のムチですよ。柄谷にはそれはわからんのです。」

「あんなにひどい嵌め殺しが愛のムチなら、君の愛は歪んでる。」


 やれやれと手のひらを上にあげた。


「国広も来たことだし、さっさと始めよう。」


 ハムの一声で柄谷も多少冷静になったのか、多くため息をついたのちに、FLDの筐体へと足を向けた。さあ、今日も部活動頑張るぞい!――――――――と思っていた時、ふと、スマホが震えていることに気が付いた。見慣れない番号のため、無視してもよかったのだが・・・


「ごめん、ちょっと一瞬電話出てくるわ。」


 なにかサブスクの請求についてのことならば、無視するわけにもいかないので、出ることにした。ゲーセンの外に出て電話に出ると――――


「私だ。」

「誰だよ―――っていいたいところだけど、詐欺でももっと丁寧に話しかけてくるぞ。竜崎でしょ?」

「そうだ。怜から、今日は部活で外に出ると聞いていたからな。ここはフラグの立てどころなんだが、あいにく怜はこの場にいない。となると、私から君にアドバイスをするほかないだろうからな。」

「・・・まあわかる。自称アドバイザーだしな。で?要件は?俺も長時間は開けられないぞ。」


 あのちんまい体でどうやって電話をかけることができなのか、という点はあとでつっこもう。今聞くと長引きそうだ。


「これは一種の“ルート分岐”なんだってことを知らせたくてね。」

「ああ――」

「大会当日はペアで挑むんだろ?てことはだ、ここで選んだ相手とは大会当日まで多くの時間を過ごすことになる。つまり、より親密になれるチャンス。そして、大会を勝ち上がりでもすれば、喜びを分かち合い、より親密になれることは間違いない。そのとき、双方において高まっていた好感度が恋愛感情に変化してもおかしくはない。」

「つまり、ここで俺がハムを選べば、部活内でのフラグを一個立てないことになるのか。でもなあ――――」

「身近にフラグを作るのは気が乗らないか?」

「まあそうっちゃそうだけど・・・」

「まあ別に、その辺の女性をナンパしてもいいんだぞ?もちろん、告白券を何度も使えば、一度くらいはうまくいくときもあるだろう。だが、年末までに何回試行回数を重ねられるか・・・。」


 ・・・そういや、叔父さん言ってたな。相手欲しさにマッチングアプリを始めたけど、相手を探すのに課金して毎日メッセージを複数人に送って、なんとか会うまでにこぎつけても後が続かず終わり、また一から―――ってやるのが死ぬほど時間かかるって。ただでさえ学校生活、勉強、オタ活で飽和してるんだ。ここに告白券の使用も入ってくるとなると・・・


「1回2週間、合否は途中で分からない。同時進行できるほど俺は要領よくないし・・・。それを考えると効率よくやっても月2回。なら年末まで14回・・・。うん、無理だな。」

「そういうことだ。告白券はサポートアイテムでしかない。これをあてに彼女を作ることはあまりお勧めはしない。あくまでも経験値稼ぎと割り切ってほしい。となれば、君が彼女を作るならば、すでにある程度の関係性が築けている知り合いしかいない。OK?」

「了解した。」


 叔父さんがいなかったら、踏ん切りがつかなかっただろう。告白券で彼女を作れないなら、身近から探すしかない。命が懸かっているんだ。やるしかないか・・・。


「まあもちろん、気が乗らなければフラグを回収しなければいいだけさ。まあ、やるだけやってみようか。」

「了解した。」

 

 とはいったものの、じゃあ彼女を作るならだれ?と聞かれると、難しいところがある。同級生なら静乃と刹那、後輩なら柄谷。有希は・・・まあ家族カウントだからなしか。先輩なら、部長ともう一人くらい・・・。クソ駄目だ。一人に絞れねえ。みんな可愛いからなあ。けど、そこで止まる。その人と一緒に何かしたいか、という欲求がない。ショーケースに飾られたフィギュアを愛でるのと同じだ。飾られたフィギュアには手を付けるのは、非常に気が引ける。でも、そのアクリル板一枚を取り払う必要があるんだろう。やるか・・・。



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「ある程度やったけど、国広をどう組み込むかがカギになるだろうね。」

 

 部長はそんなことを俺に言ってきた。柄谷とハムは今タッグ戦を行っている。俺と部長は今、休憩中なわけだ。ベンチに腰掛け、缶コーヒーに口を付けた。

 

「そんなに僕は重要なポジなんですかね。」

「まあぶっちゃけ部内で一番うまいからね。戦力を固めるか分散させるかだよ。だからまあ、私が決めるというよりは国広が自分で選んだ組み合わせの方が一番力を出せるんじゃない?誰と組んでもそれなりの戦績出せてるしさ。それなら、国広の意見を尊重したい。どうする?」

「そうですねぇ・・・」

 

 ここがフラグの立てどころか。ハムはないとして、柄谷か部長か・・・。このTPSはプレイヤーごとに役割を選べる。近距離、中距離、長距離の3種どれをメインに添えるかによって、プレイングが変わる。柄谷は長距離射撃で大きな一発を狙うタイプ。部長は中距離で回避タンクがごとく相手の攻撃をかわしつつ着実にダメージを重ねていくスタイル。俺は中距離で機雷設置やリロードの早い小型銃でちまちまと削るタイプだから・・・。

 

「柄谷とタッグを組もうと思います。」

 

 俺が中距離が機雷や地雷で相手の動きを縛れば、柄谷の狙撃もやりやすくなるだろう。それが一番勝てそうだ。まあ、部長のスタイルと、ハムの被弾を気にせず距離を詰めて殴り掛かるスタイルは、柄谷と相性悪いだろうからさ・・・。ともあれ、これで俺は部長ではなく柄谷にフラグを立てることとなった。俺と柄谷の未来―――――――うん、恋人らしいことをしたいと、まったく思えないや。

 一緒にゲームはしたいが、彼女に抱く気持ちはそれしかない、ということに気づいた。こんな俺の気持ちは、彼女と過ごす時間が増えると変わるのだろうか。もしくは・・・

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