第5話 「あなたの舞台の演者はあなただけ」

 昼休みでは想像通り、怜の周りには男女問わず人が群がっていた。モブっぽい見た目なら、ものの数人が寄ってくる程度なんだろうけど、日本人かどうか怪しい顔立ちなので、それだけでも物珍しいのに、綺麗なブロンドのサイドポニー、美しいボディラインを有することでとんでもない美少女属性をつけてるときた。事実、授業の合間の休憩時間では、クラスの外からこちらをのぞき込む生徒はそこそこ多かったと思う。なお、俺は机に突っ伏して寝ているフリをしながら、その様子を観察していた。怜が変なことを口走らないように聞き耳を立てていたのである。そして静乃は、席が近いこともあって、会話に入ってこそいないけど、足を組んで頬杖を突きながら話を聞いていた。他人への交流をめんどくさがる静乃らしい行動だった。刹那は真面目系委員長らしさを如何なく発揮して、取り巻きの中心位置で話しかけていた。

 

「榊さんがこの土地に越してきたのは親の都合とかですか?」

「怜で言いわよ。――――ええ、そんな感じね。ただ、ちょっとわけあって今は一人で暮らしてるけど。」

「もう一人暮らし・・・すごいです!」

「いったいどこらへんに住んでいるの?」

「南区ね。だからここまではそこそこ距離があるのよね・・・」

「ってことは静乃、遼君と同じですか。私も途中までは通学路が一緒ですね。」

 

おい刹那、余計なことを口走って・・・。

 

「あ、そうなのね。地域のこと全然わからないから、同じ方向の人たちがいてくれると嬉しいわ。ぜひ今度一緒に帰りましょう。」


にこやかにその場をいなしていた。てっきり、『遼の家の隣だしなんなら昨晩は誰もいない遼の家に呼ばれてしまったわ!』くらい言って場をかき乱すと思ったが、そんなことはなかった。なんて安心をしていたら、 


「というわけだからよろしくね。お隣さん♡」


と、彼女は立ち上がって俺の肩をたたいた。彼女はにやりと笑ってこちらを見ていた。これは――――――――わかってやっている!俺を騒動の中心に据えようとたくらんでいる・・・。怜が教室を出た後、取り残された人たちは、一瞬の静寂ののち、再び喧騒に塗れた。そのベクトルは怜から俺に代わってしまったが・・・。


「遼!どういうことだ??お隣さん???」

 

突っ伏してる俺を無理やり揺さぶるクラスメイトの男たち。怜、信じていたのに・・・。いや、これは俺を試しているのか?私に一から十まで説明させるな。自分に都合のいい状況を作り出すのは自分自身でやれ・・・って、コト?――――任せろ、俺はこの学校の中では頭がいいほうなんだ。見せてやるぜ、口達者な俺をよ。

 

「なんか日曜に隣で騒がしくやっていたから様子見にいったんだよ。そのときにはじめて知り合ったんだよね。でさ、彼女一人暮らしって言ってたじゃん?引っ越し準備してはいたんだけど、すごく大変そうだったから、ちょっと手伝いをね。してあげたわけですよ。」


このあたりが妥当だろう。案の定、周りの男たちはその説明に納得して、やがて興味の対象が俺から離れていった。もちろん、僻み妬みも混ざってはいたが・・・。なお、そんな俺の説明を、無表情で聞いていたのが一人だけいた。静乃である。だが、俺に特に追及もせず、何事もなかったかのように飯を食い、食い終えた後は寝入った。不気味ではあったが、こちらから突っ込むのも藪蛇だろうと思い、彼女からの指摘を待つことにした。何もなければいいのだが・・・



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「昼間のあれはなんだ。」


放課後すぐに人の少ない場所に怜を連れ出した。部活があるので、手短に話を終わらせねば・・・。


「今朝の様子を見る限り、質問攻めにあうのは目に見えていたもの。絶対いつかはボロが出るわ。それなら、私よりも経験豊富(笑)な遼が設定練って、それを私が暗記するほうがいいじゃない?」

「おいちょっと待て、経験豊富の言い方になんか含みがあるぞ?絶対馬鹿にしてるよな?オタク馬鹿にしてるだろ?」


けらけら笑う怜を見てると不愉快な気持ちが込み上げてきたが、言うことはもっともなため、言い返す気持ちは薄れていった。

 

「これでも、余計なことは言ってないつもりよ。その気になれば、『昨日の晩は遼の家で二人っきりだったのよ~』くらいは言ってもよかったわけだし。」

「それは俺もちょっと思った。ギャルゲーとかだと、ここで一波乱あるのがセオリーなんだが・・・。」

「そういうのは、周りの女性に恋愛フラグが立ってないと意味がないのよ。今、。好感度も分解すると、恋愛と友愛の2種に分かれるわけ。あなたは女性の知り合いは多いし、好感度も低くはない。けれど、恋愛フラグについては一つもたってない。私が周りの場をかき乱すことを言って、実際に心かき乱される場合―――――『あの遼とこんなに仲いい女子がいるなんて・・・』なんて、思ってくれるのは、恋愛フラグが立ってないとまず起こらない。そんな状況で私が何か場をかき乱すことをすると、あなたの孤独の舞台に私のみが立つことになる。するとね、周囲の女性はどんな反応すると思う?」

「・・・観客は、俺たちの仲を応援もしくは批判する側に回るだろうな。」

「そういうこと。あなたの好きなギャルゲーで例えるならば、知り合いではあるのに攻略不可能なヒロインが陳列している状態ね。そのヒロインたちを、攻略対象に引き上げる―――――あなたの舞台に上げるには、まず彼女らに恋愛フラグを立てるのが必要なの。私が場を引っ掻き回すのは、そのフラグを立て終わってからになるわけね。」


非常によくわかった。わかったのだが――――――――その説明だと、まるで俺の彼女は知り合いから作る前提の話じゃないか。そうなの?彼女づくりって身近で済ませるものなの?俺、そんなことまでは考えてなかったよ?


「てか、私をこんなところに呼び出してる時間はあるの?今日は部活があるんじゃなかったっけ?」 

「お!そういやそうだった。―――――なんでそんなこと知っているんだ?」

 

俺は部活があるなんてことはしゃべっていない。なぜこんなことがわかる?

 

「そりゃあまあ、神の視点で見てたからさぁ。」

 

・・・そうだった。こいつは神の使いだったから、そんなことくらい知ってて当然か。こちらの常識が通じないって、不思議な感覚だな・・・。なんてことを思いつつ、俺はこの場を後にして、部活動にいそしむこととしたのだった。

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