第4話 「これがバ美肉ってやつかあ」
3Dプリンターのようなものでこんなに素早くフィギュアができたのも驚きなのに、そのフィギュアが動き始めたんだから、驚きすぎて言葉が出なかった。
「えっと、これは――」
「いやいい、私が説明しよう。」
そう言うと、フィギュアは机の上から飛び降りて、正座する俺のところへ、とてとてと歩いてきた。や、可愛いじゃん。武装神姫やFAガールの世界に夢見た俺としては、ちんまい女の子と戯れるのって憧れてたんだよなあ~~。
「実は君とははじめましてではないんだ。昨晩のことを覚えているだろう?あの時君の目の前に立っていたのが、私なんだ。」
「・・・てことは、この可愛らしいフィギュアの中身はおっさんだと?」
「――――――――まあそういうことになるな。」
「これがバ美肉ってやつかあ。」
なんてことをしみじみと思うのであった。
「ありていに言えば私の意識がこのフィギュアに憑依した、と考えてもらってくれていい。」
「はあ。なんかイタコ芸みたいだな。てか、そんなことせずとも、怜みたいにこっちに来ればいいじゃん。なんでわざわざ・・・」
「いわば内外のサポートだ。家の外では怜が直接的に君をサポートする。けれど、それは君が何かしらの行動をしなければ実現できない。動くためには作戦がいるだろう?頭の中でじっくり考えるときに、アドバイザーがいたほうがよくないかな?」
た、確かに・・・。こういうのって、アニメや漫画だと自室でもやもやしながらも思考を巡らせていくものだ。
「・・・夜あなたの部屋に私がいたら、普通に考えておかしいでしょ?じゃあメールや電話でやり取りする?それも大変じゃない?てか私が大変なの。朝から夕方まであなたに張り付いて、その上夜までも関わり続けるなんて・・・ね?」
神の世界も大変なんだな・・・てか、マジで怜を見てるとただの女の子にしか見えないんだよな。俺らと同じような感情を持ち、疲労もする。
「―――――あんたらって人間?」
「ずいぶん唐突ね。逆に聞くけど、私が人外に見える?」
「や、神の使いっていえば、よく狐が出てきたりするじゃん?神の力とやらで成り立ってる不思議生物なのかなーって。」
「・・・・・・・・・それは盲点だったわね。心配しないで、不思議な道具とかはもってるけど――――――――」
「考えてもみろ。見た目が人外だと目立ちすぎるだろ。でもまあ、少なくとも我々は機械じゃない。AIで動いているオチもない。でも、喜怒哀楽はあるし疲れもする。普通の人間に接するように対応してくれると嬉しいな。」
怜の言葉をさえぎってフィギュアがしゃべる。少なくとも、機械じゃないのはちょっと安心。さすがに、機械との接し方なんて、どうしたらいいかわからないからな。
「話を戻そう。とにかく、外は怜。家の中では私が対応する。だから、半年程よろしく頼む。」
「ああはい、わかりました。」
よろしく頼むと言われ、素直に返事をしてしまった。けれど、冷静になって考えてみると、こいつらは俺を殺すルートもあるんだよな?この運命から逃れる手段もあったのかもしれないが、ここまで外堀を埋められてしまったのなら、もうやるしかないんだな、とあきらめることにした。
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「告白券は何枚か置いておくわ。だけど、使うときは竜崎さんと相談してからにしてね。取扱注意の代物だからね。」
気が付けば1時間ほどたっていた。今更ながらスマホを確認すると、叔父さんと有希は一緒に外に飯食いに行くとかで出かけていたらしい。その連絡が1時間ちょい前だったので、時間的にはそろそろ帰ってくる頃だろう。それもあり、話すこともないので、怜にはひとまず帰ってもらうことにした。
「了解したけど、竜崎さんって誰?」
「あれ?名乗ってなかったっけ?その喋るフィギュアの中身よ。」
あのスーツの男、竜崎っていうのか・・・。てか、そんな面倒くさいもの使う気にはなれそうにないのだが―――――――――まあ黙っておこう。
怜が玄関を開けると、雨は勢いを止めることなく降り続いていた。もう外は真っ暗。これは、送ってやるべきだよな。男として。
「夜だし雨だし、家まで送るよ。」
俺がそういうと怜は、手を顎に当てて考える仕草をした後、不自然にすら見える笑顔を――――――そう、静乃が俺をはめようとしてきているときのような表情を向けてきた。
「じゃあ・・・・・・お願いしちゃおうかな。」
俺はいま、初めて自分から女の子を送ろうとしている!なんて思っていたが、
「・・・・・・。」
怜の家が俺の家の真横だったのだ。それなんてshuffle?てか隣の空き家、いつの間に埋まっていたんだ・・・。
「あははっごめんごめん。でも行動としては合格よ。この調子でいきましょうね。」
「はぁ・・・・・・」
怜がひらひらとこちらに手を振った後、明かりのついてない一軒家に入っていった。とぼとぼと家に戻ると、竜崎が俺の顔を見るやいなや『行動としては合格だ。この調子で頑張ろう』と、まったく同じ返答をされて、よりげんなりした。これからこいつと共同生活か。俺はいったい、いつシコったらいいのだろうか・・・なんて、自分の待ち受ける運命よりも自分の性事情を心配するほど、能天気だった。だって怜も竜崎も無害に見えるんだもん。しょうがないね。
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6/9(水)
翌日もまた、アラームが鳴る前に目が覚めた。竜崎はといえば、俺の部屋のカラーボックスの一部分をドールハウスのごとく使っており、ベッドの上でぐうぐうと眠っていた。本当にこいつ神か?
びくつきながら玄関を出ると、そこには誰もいなかった。サポートっていうから、朝から怜がいると思ったけど、そんなことはなかった。左右を見渡してもジョギングしてるじじばばと、登校中のキッズたちしかいなかった。
登校中は肩すかしを受けた俺であったが、教室の様子を見ると朝に抱いていた不安がぶり返してきた。伊藤の席の隣に一つ机が追加されていたのだ。
「遼、ちょっと昨日の朝の話覚えてる?」
静乃がちょっと挙動不審気味な俺に話しかけてきた。俺は俺で、昨日の今日話したことを忘れることもなく。静乃の言いたいことがわかっているがゆえに――――
「え?なんだって?」
難聴系主人公がごとく、すっとぼけることとした。
「いやーまさか本当の話っぽいね。どうせエージェントが遼のサポートのために転校してくるんでしょ?」
すっとぼける俺を無視して話をどんどん続ける静乃。それに対して俺は―――――
「ふっ・・・まあ見ていればわかるさ・・・。」
意味深ぶることにした。不気味にふふふと笑い続けると、静乃は想定通り俺から離れて行ってくれた。そうだよな、こんなきもい奴の隣にいたくないよな。
チャイムが鳴り、担任の千歳先生が教室に入ってくる。その後ろには女の子が連れられていた。ブロンドのサイドポニー。制服の下にはパーカを着込み、身長は160ちょい上くらいで、きれいなボディラインをしているため、非常に見栄えが良い。そして何より顔もいい。俺はこの女を知っている。
「はい静かにな。今日はまず転校生を紹介するな。」
「「うおおおおおおおお!」」
男子たちの歓声がすげえ。でもわかる。わかるぞ。だから俺も、モブ男子に混ざって擬態することにした。ここで驚いていない姿を見せると、静乃にまた勘繰られてしまう。いや、隠してるわけじゃないんだけど、でももうちょっとタイミングがな・・・。
「榊怜です。東京から引っ越してきました。これからよろしくお願いします。」
はきはきとしゃべる彼女は、昨晩俺に語気強めで喋ったときと同じであった。猫被るとかは考えてないのね。
「じゃあ、伊藤の隣の席に座ってくれ。窓側の一番後ろの隣の席だ。」
怜が席に移動しようとした際、偶然俺と目があった。俺は全力でスマイルをお届けした。そしたら案の定、ゴミを見る目を返してきた。その俺のスマイルを目撃してしまった静乃は、必死で笑いをこらえてうずくまっていた。みんなに笑いを提供できて、俺は幸せだ。なお、怜の侮蔑する表情をみて、伊藤はhshsしていたのは、俺の心の中だけにとどめておこう。
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