第3話 「やっぱりちゅっちゅしてパンパンしたり――――――ですかね?」

 日中は普段通りの学校生活を送った。普通に授業を受け、終える。放課後はバイトが入っていたので、地下鉄を途中下車して、バイト先に向かった。洒落たカフェで、俺はウェイターとして、約四時間程度小銭を稼いだ。最も、両親は海外勤務するくらいだから、世帯所得自体は多いのだが、親の方針で俺に回ってくる金は一般的高校生の平均くらい。遊ぶ金が、どうしても小遣いだけじゃ足りないのだ。バイトを終えて店の外に出れば、雨は酷くなっていた。さすがに雨音がうるさすぎて車の走行音が聞こえない、というレベルではないにせよ、傘なしではちょっとの移動も躊躇われる程度には、不愉快に降り続いていた。


 家の近くまできたころには、時刻は9時半になろうとしていた。今日も一生懸命働いた、やっと帰ってこれたんだと、若干満足げに、安心感を覚えながら、ふと目線を足元から正面に向けた時、俺は気づいた。傘をさしている女性が、家の向かいの壁際の電柱の傍に立っている。彼女は俺に気付くと、じっとこちらを見つめてきた。嫌な予感を覚えながら、俺は玄関のドアに手をかけると、

 

 「ちょっと待ちなさい。」


 そうして、そのスーツの女に呼び止められる。ああ、これはもう、ほぼあたりといっていいだろう。彼女が、神のエージェントなんだって。

 


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「・・・やけに落ち着いているわね。普通疑うものじゃない?なんで自分の名前を知っているんだーとか、なんで機能の夢の内容を知っているんだーとか。」


 榊怜と名乗ったフードを被った女性は、訝しげにこちらを見た。


「まあ、いろいろあって思考の整理ができたというか。」


 プログラマーがアヒルの人形に話しかけて思考を整理するように、静乃にいろいろ喋ったおかげで、普通の夢とは明らかに異質である、ということは理解できたからな。


 「話が早くて助かるわ。でね、その問題の解決もかねて重要な話があるんだけど、時間ある?というか、時間作って?ねえ、なんでこんなに帰ってくるの遅いの?高校生の部活帰りって7時とかになるんじゃないの?」


 言葉尻に怒りが滲み出ていたのがよく分かった。じっとよく彼女をみてみると、ソックスは雨でぐしょぐしょ。傘を持つ手も震えているのがわかった。明らかに、十分やそこら立ちんぼしていたとは到底思えない。


 「・・・なんかごめん。」


 謝る理由はない。だって連絡先知らないんだもん。でも、さすがに長時間女性を雨にさらしてしまったことに、若干の罪悪感を覚えたから、謝ってしまった。


 「わかった、じゃああなたの部屋で話すわね。」

 

 そういって彼女は俺の家に入ろうとした。

 

 「ちょっ、ちょっと待て!」

 「何よ、なんか問題でもあるの?」

 「なぜ俺の家でなんだ?ほかにもいい場所あるだろ!」

 「あなたの部屋に用事があるの。大丈夫。あなたの家族と思しき人物は結構前に家を出て行ったから、家には誰もいないわ。」

  

 俺は急いで玄関から離れ、家を遠くから見る。いつもならついているリビングの明かりがついていない。どうやらマジらしい。


 「ほらね?」

 

 俺は覚悟を決めるしかないらしい。俺は今、初めて誰もいない家に女性を上げることとなった。でも、悲しいかな。来るとわかっていれば掃除したのに。いまの俺の部屋は、女性を上げるにはあまりにも・・・



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「まあプロフィールはわかってはいたけど・・・・・・」

 

 ポスターやらタペストリーやらはクローゼットの中に保管しているからいいものの、何段にもなっているガラスケースに飾られている大量のねんどろいどや美少女プラモはどうにもならない。彼女は俺のコレクションに目を向け、近寄ってまじまじとねんどろたちを見始めた。

 

 「可愛いでしょう?僕の娘たちなんです。」

 「本当に可愛いわね。娘がこんなに可愛いんだから、さぞパートナーは可愛いんでしょうね。どこにいらっしゃるのかしら?」

 「あのさ、反論できないことわかってるよね?てか、そのパートナーを見つけるサポートしてくれるのがあなたたちなんじゃないの???」

 「切り返し慣れてるわね。伊達に普段から萩原静乃に責められているだけあるわ。」

 「・・・静乃のことも知ってる。やっぱり普通の人じゃないんだな。」

 「ええ。さっそく話を始めましょう。」

 

 そういうと彼女はかぶっていたフードを脱いだ。俺は思わず、彼女に見とれてしまった。なんだこの美少女!?てか、こいつ、上はパーカー、下はミニスカートであり、膝が隠れる程度の長さのニーハイは雨で張り付いてるから、よりスケベというか・・・。しかも足なっが!っておい、俺の椅子に座って足を組んで・・・いやつぶれた太ももエチエチすぎひん??今から重要な話が始まるのにっ・・・・・・そんなよこしまな感情を抱いていちゃあまずい!俺のマグナムが反応してはまずいんだ!

  

 「改めて、私は榊怜。苗字はあまり好きじゃないから怜って呼ぶこと。」

 「わかった。俺の自己紹介っている?」

 「いや、ある程度の事は分かってるからいいわ。じゃあまず―――――ごめん、雨でぬれて気持ち悪いから靴下脱いで乾かしていてもいい?」

 「仰せのままに!」

 

 怜はニーハイをゆっくりと脱ぎ始める。『濡れてるから脱ぎづらいわね・・・』とか聞こえてきてしまうので、もうドキドキしすぎてどうにかなりそうだったが、ここで取り乱すのはあまりにダサいので、彼女から目を背けながら、俺はストーブに電源を入れた。


 「じゃあ乾かすからニーハイくれ。」


 俺は跪き、彼女の靴下を受け取ろうと手を差し出した。すると、流されるまま怜は俺にそれを渡してきたので、靴下を丁寧に丁寧に広げてストーブの前においた。

 

 「なんか流れるままに渡しちゃったけどさ・・・やっぱりあなたキモイわね・・・。部屋もきもい、態度もきもい、ほんと、なんでこんなヤツの周りに女の子が集まるのかしらね。」

 「フヒヒ、サーセンwwwww」

 

 俺はキチガイスマイルを華麗に決めると、側頭部に強い衝撃が走った。一瞬何が起こったのかわからなかったが・・・・・・座っていたはずの彼女が立ち上がっていることから・・・・・・どうやら俺は蹴られたらしい。本来ならキレているが、不思議とそんな気持ちはわかなかった。この気持ちは何だろう。目に見えないエネルギーの流れが、彼女の足から伝わってきたのかな。

 

 「ごめん、あまりに生理的に受け付けられなかったから、思わず蹴っちゃった・・・・・・なんかあなた蹴られて喜んでない?やっぱりマゾなのね・・・」

 「そそ、そんなことはないぞ、俺はマゾじゃないからな!それより優先すべき話があるんじゃないかなあ!」

 

 変な流れを作ってしまったから、強引に流れを断ち切った。ぶつ切りではあったが、彼女も早く話を進めたかったのか、またもや華麗に流してくれた。

 

 「じゃあ本題に移るわね。遼は昨日、スーツ姿の男性から『年内中に彼女を作るか、作らず死ぬか、選べ』と言われた。ただ、そのサポートはするとも言った。ここまでは大丈夫?」

 「おk」

 「そして、第一のサポートとして、《告白券》についてなんだけど―――」

 

 怜はそういうと彼女のカバンから一枚の便箋を取り出した。淵にはきれいにイラストが描かれてあり、いたって普通な、どこにでも売ってそうなものである。

 

 「その便箋が告白券か。チケットの方の”けん”なのね。」

 「ええ、内容はいたって単純。これに意中の相手の名前を書けば、『14日間、その相手はずっとあなたのことを好きなままでいる』の。」

 「なんかエロマンガでありがちな設定きたな・・・」

 「あなたのその発言はいったん置いておいて、理屈を説明するわね。」


 すると怜は深呼吸して。きっとこちらを見据えた。


「これは相手を想う気持ちをパラメータとして定量化し、その数値を大きく増加させる効果がある。平たく言えば、好感度の底上げね。」

「好感度が上がるから、ずっと好きなままでいてくれるってわけね。でもそれがなんでサポートになるわけ?」

「ちょっと質問するけど、あなたは仲のいい相手とそうでない相手から、自分の嫌なことをされたとき、不快な気持ちに差は生じるかしら?・・・例えば、私と萩原静乃、両方から同じように罵倒されたとき、どっちのほうがいらいらする?」

「そりゃ、あって間もない人間にいきなり馬鹿にされるとさすがに不愉快――――――そうか、言いたいことが分かった。好感度が高い相手にやらかしても、そこまで痛手を負わない。つまり、恋愛経験値が圧倒的に不足している俺は、きっとコミュニケーションで何度もやらかすだろう。そこで、告白券により相手の好感度を上げれば、俺が相手にやらかしても被ダメは少なくなるから、より恋愛経験値を積みやすくなる・・・そういうことだな?」


 俺はそう答えると、怜はちょっと驚いた顔を見せた。


「私が言おうとしたことを先回りして言われてしまった。伊達に勉強とアニメにしか時間を費やしてきただけはあるわね・・・。」


 神の使いに褒められると、さすがに俺もうれしくなる。勉強やっててよかった~~。


「ただ、ずっと好感度が高いままってわけにもいかないじゃない?相手にとっても自分にとっても、いいことなんてないのよ。考えてみて?よさそうと思った女の子に近づいたら、とんでもない地雷だった時を。離れたくなるでしょ?でも告白券の効果が永続なら、それも叶わなくなってしまう。そういうリスクを回避する名目で、効果にはしっかり期限が設けられている。効果は名前を書いてから2週間。さあここでもう一つ質問。もし遼が告白券を使って女の子と仲良くなったとしましょう。期限が近付いてきたとき、遼は何を思う?」

「そうだな・・・気が合うならそのまま付き合いたいけど、そうじゃないなら離れたい・・・てか、うまくやれる気がしない。酷いやらかしとかあれば、それこそもう相手の記憶から俺を消してほしい。」


 そう俺がぼやくと、怜は待ってましたと言わんばかりのしたり顔で答えた。


「うまくいくなら続けたい。そうでなければ忘れてほしい。まさにそこがポイントなのよ。さっきも言ったけど、告白券は好感度を数値化する。だから、当然遼の行動次第で増加減するのよ。でね、この告白券の目的は恋愛のサポート。うまくいくならそれにこしたことはないし、うまくいかないなら次に切り替える。それを後押しするシステムが組み込まれているのね。告白券使用期間中に一定の好感度を上げさえすれば、期間終了後も好感度は底上げされままにできる。交際延長ね。」

「確かにそれはうまい話だな。でも、さすがにそれはうますぎるんじゃない?」

「その通り。逆に、うまくいかなかった場合は、双方にとってこの2週間はなかったことになる。が行われるのよ。」


 これまで楽しく話を聞いていたが、思わず最後の言葉に顔をしかめてしまった。

 

 「記憶操作・・・どういうこと?」

 「そうね、視力の悪い人の視界のようなものかしら。やったことや話した内容はぼんやりと覚えてはいるんだけど、その相手が誰なのかだけはわからない。もちろんこれだけなら、周りの人から教えてもらえばすぐに思い出すでしょう。けれど、告白券のすごいところは、周りの人たちにも記憶操作が及ぶ。遼と告白券の相手が一緒に並んで帰っているところを友達に発見されたとしても、その友達も遼たちのことをその目撃した相手を思い出せなくなるってわけ。ちなみに言い忘れてたけど、好感度を稼いでしまったときは記憶維持と消去は選択できるわ。だって、遊びのつもりで関係を持っただけって場合もあるじゃない?そうなると、記憶が邪魔でしょう?」

 

 告白権を使って仲良くなり、効果が切れた時、相手がすべての記憶を保持しているとなると両方において気まずい。それを何とかするための処置なのか。関係の浅い相手に特攻して、経験値を積むのがよさそうだ・・・・・・・てか、怜も結構ドライだな。遊びと本気の付き合いは完全に別物として考えているようだ。

 

 「・・・・・・で、あくまでも告白券は交際のためのサポートをするだけ。だから、一部の行動には対応していないのよ。なんだと思う?自分が彼女を作ったとき何したいかを考えれば、わかると思うわ。」


 彼女を作ったら何をしたいか。ギャルゲーを思い出すと・・・一緒に登下校したり、遊んだり、ヒロインの抱える課題を一緒に解決したり、そして最後は・・・

 

「やっぱりちゅっちゅしてパンパンしたり――――――ですかね?」

「あのさ、そのノリまじで女性にはしないでよ。本気で嫌われるわよ。でもまあ、そういうことなのよね。」


 軽蔑した視線を向けたのちに、吹っ切れたようにしゃべり始めた。


「恥ずかしがっても仕方ないので単刀直入に言うわね。告白券は最終的に性行為につながる行動はすべて禁じられている。プラトニックな付き合いしか認められていないの。キスを含めた濃厚接触をしようとした瞬間、告白券の効果は切れる。好感度の底上げが解除されるのね。はたから見れば、見知らぬ男から言い寄られている女性って構図になるから、社会的に死ぬ可能性があるわ。ちなみに、向こうから性交渉を持ち掛けてくることはないわ。そういったことが起こらないように思考にプロテクトがかかるので。まあエッチなことはできないし、しようとしないことね。」

「つまり触れずにセクハラするのはありなんだな?見抜きはいいんですか???」


 そのとき、俺のみぞおちに右フックが直撃した。この威力・・・女の子のパンチじゃねえぞ?

 

 「がっ・・・!」

 「信じらんない信じらんない信じらんない!なんてこと言ってんのよアンタは!!」

 「何をするッ!俺は真実を知りたいだけだッ!」

 「オブラートに包んでものを言いなさいよ!」

 「おやおや、よく俺が下ネタを言ったことに気付きましたねぇ。ふんふむ、君はエッチな娘だなぁ~」

 「んなっ・・・あ、アンタって奴は・・・」

 

 目じりに涙を浮かべ、顔がもうそりゃあ真っ赤になっていた。

 

 「す、すまん、調子に乗りすぎた。許してほしい。」

 「許さない、絶対にね。」

 「そんなあ!」

 「あたりまえでしょ!そこに正座してなさい!」

 

 今は怜を落ち着けることが先決だと思い、言われるがまま床に正座した。床が固くてつらいぜ。

 

 「はぁ。もう話進めるわね。さっき言ったケースだと、仮に告白券の効果が切れずとも、好感度が底を行ってどのみち終わるでしょうね。シコって精液でも飛ばして相手にかかったら、告白券の効果解除のマイナス分も重なるから、相手にとっては下半身丸出しのヘンタイ野郎が目に映り、警察のお世話になるのがオチでしょうね。」

 「シコるとか精液とか言ってて恥ずかしくない?」

 「・・・・・・あなた、一年待たずに殺されたいの?」

 「ごめん。」

 「じゃあ次に移るわね。」


 ふと、とある疑問が俺の中に浮かぶ。その疑問を、何のためらいもなく怜に聞いていた。

 

 「なあ、質問していいか?」

 「何?」

 

 

 「これは処女にしか使えないのか?」

 

 

 瞬間、怜は醜い豚を見るときの目で俺を見下げた。

 

 「オ   ブ   ラ   ー   ト   は   ?」

 

 恐ろしい剣幕で、腕組みをして俺の前に立っていた。これもっと突き進んだことを言っていれば、きっと踏まれていただろう。生足で。それはそれでいいんだが。

 

 「誠に申し訳ございませんでした。」

 「謝るくらいなら最初からそんなこと言わないで。―――――そう、そうよ。あなたの言うとおり、性行為をまだ経験していない人にしか告白券の効果がでない。だって人妻とか彼氏持ち相手に使えてしまったら倫理的にまずいでしょ?」

 「だがそれがいいっ・・・!NTRは大変良くシコれるので、もうやる気ビンビンムスコもギンギンですな。はははっ!」


 そういうと、怜は頭を抱えて「助けて竜崎さん・・・」とぼやき始めた。竜崎が誰かはわからないけど、助けを求めてしまうくらい俺が困らせているのはよくわかった。性分なんだ。やめられないのよね。叔父さんと同レベルだ俺は。

 

 「真面目な話をするとさ。これは恋愛の練習ポジなんだろ?それなら、経験豊富な女性相手のほうが、より経験値は入ってくるんじゃないの?知識のあるものがないものに知識を与えるほうがより効率的じゃないか。違うか?」

 「ええとその・・・・・・・・・それも間違いじゃないけど・・・・・・・・・と、とにかく!非処女だとダメなの!」

 

 顔を真っ赤にして否定する怜は、それはそれはかわいいものだった。強気な女の子、好きになりそうや・・・・・・

 

 「あと、仮に告白券を使ったとして、相手が自分とかみ合わないってなったとき、相手はでれでれだからまとわりついてくるんだよな?しかも、それをやめさせるにはこれまで聞いた限りだと、レイプまがいのことをするしかない。これって結構きつくね?」

 

 怜は大きく、大きくため息をついて、

 

「いやいや、さすがにデレデレでもしつこくまとわりついては来ないから。もしあなたなら、意中の相手の嫌がることをしたいと思う?普通は思わないでしょ?・・・・・・まあ“好きだからこそ苛めたい”って人は例外だけど。」

 

 それから怜は「まあでも・・・」と言葉を漏らした。

 

 「『俺にまとわりつくな』なんて言ったら普通は『どうしてそんなこというの?』と返ってくる。そんなやり取りが面倒臭いと思ってしまったとき、強制的に関係を終わらせる方法もるのよ。」

 「その方法とは?」

 「それは、『この便箋を破る』ことなの。その方法をとった場合、が起こって、相手の記憶からあなたという存在は消される。」

 「お、これはなかなかいいシステムじゃないか!」

 「そう思えるかもしれないけれど、違うわ。『あなたの存在が消える』のよ。跡形もなく。つまり、告白権使用以前のあなたに関する記憶も消されるってこと。パソコンで例えるならば、告白券終了によるは正規のシャットダウン手順を踏む方法。便箋を破ることによるは、強制終了になるわね。いわばあなたとの恋愛関係というファイルを開いた状態で消すわけだから、ファイルは壊れて復元できない。読み込めないのは、思い出せないのと同義なの。まあほかにもまずいことはあるんだけど・・・このケースは絶対にありえないから説明は不要かな。ともかく、告白券を使用するときには絶対に破らず、書き終えた後は机の中にでもしまっておくことね。」

 「ふう・・・ん?まあわかった。」

 

 俺がそう言うと、怜は話疲れて、椅子にもたれかかってぐったりしている。

 

 「話したかった内容はこれで全部?」

 

 怜はぐったりしていた状態のまま声だけ向けてきた。

 

 「全部じゃないからしんどいのよ・・・。遼、ほんとセクハラ発言控えたほうがいいわよ。オタクはアニメやゲームキャラへのセクハラ発言のハードル低いけど、それを実在の人間に向けるのはほんと避けたほうがいいわ・・・。まあいいわ。そこも含めて私が矯正してあげる。」

 「そ、そうですか・・・・。で、ほかに話したいこととは?」 


 怜は手持ちのカバンの中から四角い板とカメラを取り出した。一見、とりとめのないもののように思える。

 

 「何これ?」

 「まあ、見てればわかるわ。ちょっとコレ借りるわね。」

 

 怜はそういうと、ガラスケースをおもむろにあけ、棚に置いてあるねんどろいどにカメラを向けた。ひとしきり撮影し終えた後、金属板を机の上に置き、手元のカメラのボタンをいじって、空間上にディスプレイを表示させた。

 

 「こ、これが神の世界の技術・・・」

 「まあ見てなさいって。」

 

 訝しげに見ていたら、突然、金属板が動き出した。円形の金属リングが内部から現れ、下から上へとジジジと音を立てながら動く。円の中心には、なにやら物体が作られ、さながらそれは、3Dプリンターのようで・・・。そして、リングが上へと上がりきったとき、そこには大きなツインテールが特徴的な可愛らしいねんどろいど出来上がっていた。

 

 「あなたのコレクションのデータから、オリジナルのフィギュアを作り出したわ。それにこの布をかぶせると・・・」


 怜はそういうと、出来立てほやほやのフィギュアに謎材質の布をかぶせる。すると、ひとりでに布が収縮をはじめ、フィギュアを包み込んだ。そして――――


 「やっと起こしてくれたか・・・・・やれやれ、待ちくたびれたよ」

 

 本来喋るはずのないフィギュアが、ひとりでに動き出し、俺に話しかけていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る