第6話 《調合》は万能魔法
ミクスは家に戻ってきた。
中はがらんとしていて、寂しい雰囲気だった。
二階建てになっている建物は地下室も完備していた。
ミクスは地下への階段を降りると、たくさん部屋があった。
その中の一室に足を踏み入れたミクスは、早速手に入れた薬草を使って軽めのポーションを作ることにした。
「さて、ベースはコレで良いとして、何を混ぜようかな」
ポーションを作る際に必要な素材は幾つかあった。
まず大事なのはべースとなる素材。それから綺麗な水だ。
この二つがなければ何も始まらないが、これは大抵がそうなので割愛した。
今回のベースは薬草だ。
しかしただの薬草ではなかった。
品質の良い、上薬草と呼ばれる種類だった。
ただし見た目は何にも変わらなかった。
深い緑色をしているだけで、見た目は普通の薬草と何も変わらなかった。
「どっちが良いでしょうって言われても、普通は見分けつかないよね」
とは言えミクスは一発で見分けることができた。
それは知識を持っていたからだ。
品質の良い薬草は葉の裏側の筋が太くなっていた。
これはどんな植物にでも言えることで、陽の光をたくさん浴びたことで光合成をし、魔力のふんだんな土地で自然に発芽したものには特に言えた。
ミクスはそう言ったものをたくさん集めていた。
天然由来の自然の素材には、人工物よりも高い魔力との親和性を感じられたのだ。
「本当は薬研が欲しいんだけど。生憎今は無いから……手で握り潰そうかな」
ミクスは狂気的なことを言った。
先程までは知的な振る舞いをしていたにもかかわらず、突然の野生的な発想だった。
しかしミクスの固有魔法はもの凄く適していた。
薬草を握り潰すと、緑色の液体が溢れていた。
ギュゥー!
薬草から音がした。
搾り取られて緑色の液体が器の中に溢れていた。
純度百%の薬草汁だ。
普通に飲んだら青臭くてとてもじゃないが飲めるものではなかった。
多分口に含んだ瞬間に吐き出してしまうこと間違いなしだ。
現にミクスは学生時代にルームと一緒に試しに飲んだことがあった。
もの凄く不味かった。
吐き出して息を荒げていた。
「うわぁ、アレを思い出すと吐き気が……うえっ」
思い出しただけで吐きそうになった。
しかしすぐに気を取り直すと、今度は用意していた水を取り出した。
「下山途中で見つけた川辺から汲んできた水。まずは沸騰させてと……」
ミクスは指を鳴らした。
するとボワッ! と小さな炎ができ、水の入った器の下に火種として用意した。
「煮沸したら後は混ぜるだけと。うん、簡単簡単!」
ミクスの薬の作り方は非常に個性的だった。
自分の持っている知識と魔法を最大限活かしたものだった。
「ボコボコして来た!」
自然由来の天然水が沸騰し始めた。
殺菌することでようやく飲めるようになるのだが、これだけやれば問題ないはずだ。
ミクスは火を止めた。
魔力を使って生み出していたので、魔力の流れを遮断するとあっという間に火は消えてしまった。
ミクスは器の中に入っている煮沸したばかりの白湯をすり潰した上薬草の側に寄せた。
すると早速魔法を発動した。
ミクスの固有魔法だ。
「薬草の液と白湯を《調合》!」
ミクスが軽く指を鳴らすと、意図も容易く二つの異なる物質が混ざり合った。
先程すり潰して液状化した上薬草と温かい白湯が一つになり、眩い虹色の塊になっていた。
その下に試験管を用意した。
ガラス製だが耐熱効果もあった。
それからほんの数秒で試験管の中に液体が降り注がれた。
少しだけ緑色を薄めたポーションが完成した。
「これで良し。味は……うーん、もう少し薄めても良いかも」
ミクスはできたばかりのポーションを一振りして指先にちょんと付けた。
人舐めしてみると、ほどほどの味わいだった。
「まあ予想通り。とは言えつまらないな」
ミクスが《調合》したものの味はイメージ通りだった。
それもそうだ。使っている材料も工程も全部同じで、過程を吹き飛ばし結果だけを残してしまった。
そんなものの味が変わるわけなかった。
だからとてもつまらなかったが、その点だけを捨てれば凄く良い代物だった。
「効力もバッチリ。痛みが引いていくよ」
とは言えミスクはそんな気がしただけだった。
何故ならミクスは何処も悪くしていないのだから、何が変わったのかも自分には分からなかった。
「後はコレを冷やすだけ……さてとコレから如何しようか」
ミクスは汲んできた水を器の中に引いた。
それからコルクで蓋ををした試験管を水の中に浸した。
指を鳴らした。パチン! と軽快な音が鳴った。
すると器の中に敷き詰められた水が一気に凍ってしまった。
冷気を纏い、試験管を氷の中に閉じ込めて永久保存してくれた。
とは言え暇になってしまった。
とりあえずお店の開店準備をしておこうと思い、店頭の方に出てみた。
がらんとして殺風景だった。
この辺りにはダンジョンが幾つもあるので、何かに役立てば良いと思ったのだが、この状態では何も始まらなかった。
如何したものかと腕組みをして考えていた。
すると誰かが駆けてくる魔力を感じ取った。
「ん?」
ミクスは顔を上げた。
この魔力の流れには覚えたがあったからだ。
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