第5話 スライムの治療をしました
何故かスライムは傷付いていた。
如何やらモンスターにやられてしまったようだ。
スライムなんて格好の獲物だった。
何故ならみんな知っての通り、最弱モンスターの一種だからだ。
しかし無駄な殺生は極力したく無いミクスはスライムに近付くと、ギュッと掴んだ。
下から持ち上げると、フニャーと溶けて無くなってしまいそうだ。
「魔力が減ってる。魔力欠乏症になってるのかも」
おそらくは体内の魔石に罅でも入っているに違いなかった。
ミクスは可哀想に思い、直してあげることにした。
とは言えモンスターにとって魔石は人間で言う心臓だ。
この部分を完全に破壊されると、モンスターは体を維持することができなくなり、消滅してしまう。
冒険者や騎士団達はこの部分を狙って攻撃をしていた。
しかしそう簡単に魔石に攻撃が当たる訳もなく、結局削り取るのが一番だった。
「と言うわけで、少し荒っぽいけどごめんね」
スライムを一旦地面に下ろした。
今にも溶けてしまいそうなほどで、目が×マークを浮かべていた。
ここまで来るのでやっとだった。
スライムはミクスの魔力に勘付いて、ここまで辿り着いたのだ。
しかしもう体力は残っていなかった。
ミクスは鞄の中から先程手に入れた薬草を使って軽くポーションを作ることにした。
「道具は無いけど、私の固有魔法なら!」
ミクスは薬草を手の中で握り込んだ。
すると緑色の液体が淡い光を放った。
スライムの頭の上に緑色の液体が注がれた。
するとみるみるうちに傷が癒えていた。
ミクスの固有魔法は超が付くほど万能だった。
ポーションをわざわざ作らなくても良いほどだ。
「やっぱり品質の高い薬草で作るポーションは効き目が違うね。おまけに私の魔力も練り合わせているから、効果抜群だ!」
スライムの目がいつのまにか×から-になっていた。
如何やら魔石に入っていた罅が修復されたようで安心した。
「はい、完全に治ったね」
ミクスは魔力を感じ取った。
しっかりスライムの中を順応していた。
ミクス自信の魔力も多少だけど入っていた。
そのうち定着して元通りになるはずだ。
ピョコン!
スライムが目を開いた。
クリクリした豆粒のような目をしていて、キョロキョロと辺りを確認していた。
敵対するモンスターはいなかった。
しかし目の前には人間がいて、怯えるかと思いきや別に逃げるわけでもなかった。
「あれ? 逃げないんだ」
スライムなんて人間のしかも冒険者からしてみれば格好の獲物だった。
だから倒されないように隠れてしまうのが普通なのだが、このスライムはミクスに助けられたことを覚えているみたいだ。
「うおっ、スライムをこんなに撫でるの初めてだけどひんやりするー」
普通に気持ちが良かった。
温かいものを冷やす時に便利なくらいひんやりしていた。
スライムもミクスに撫でられて嬉しそうだった。
ピョコンピョコン! と飛び跳ねると、ミクスに頭を下げた。
「御礼を言ってるのかな? いいよいいよ。別に大したことはしてないから」
ミクスは手を振った。
本当に大したことはしていなかったので、ミクスからしてみればこの反応は当然だった。
しかしスライムからしてみれば命の恩人だ。
感謝するのも無理はないが、そもそもモンスターを助けるなど、普通では考えられなかった。
「でも誰にやられたんだろう? スライムを狙うなんて、よっぽどお腹が空いていたのかな?」
モンスターは食事を取らなくても生きて行けた。
しかし代わりとして魔力を食べる習性があった。
もちろん胃が無いわけではなかった。
魔力さえ栄養源にすれば食事を取らなくても良いだけで、効率自体は非常に悪かった。
「スライムは最弱のモンスターの一種。魔力量も少ないはずなのに……何か起きてる的な?」
この山は魔力が溜まっていた。
この村の御神木の神聖さや土地柄が由来していた。
しかしスライムを襲うなんて聞いたことがなかった。
人間の仕業かと思ったが、明らかにモンスターの仕業な気がした。
気がしたレベルなので、定かではなかった。
「まあ、私が考えても仕方ないんだけど……しばらくこの山には誰も入らないようにしてもらわないと危険かもしれないね」
腕組みをしてミクスは考え込んだ。
まさかスライム一匹からここまでの事態に発展するとは思ってもみなかった。
とはいえ考えすぎな気もしていた。
けれど可能性を考慮して対策を取るのは間違ってもいなかった。
「ありがとう。色々教えてくれて」
ミクスはスライムに感謝を伝えた。
頭を撫でられて大人しくてしていた。
「さてと、そろそも戻ろうかな」
こうなった以上は予定通り切り上げるのも悪くなかった。
今日は戦う気分でもなかったので、早期に退去しても良かった。
「それじゃあね。今度は怪我しないように注意してね」
スライムの頭を軽く撫でた。
プルプルしたゼリー質で気持ちが良かった。
ミクスは残った薬草を鞄の中に詰めた。
それから下山することにしたのだ。
「よっと」
ミクスは立ち上がった。
それから踵を返すと、スライムに背を向けて歩き始めた。
来た時は登りだった道も今は下りになっていた。
そこまで急でもないためハイキングをするように下りていると、ピョコンとスライムが跳ねた。
「駄目だよ。付いてきちゃ」
ミクスは睨み付けた。
モンスターにはモンスターに適した住処があり、契約をしていないので連れ歩くこともできなかった。
スライムはしょんぼりした様子で止まっていた。
軽く手を振りミクスはもう一度「またね」と伝えると、山を下りたのだった。
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