僕は木鐸になりたい

 翌日の放課後、颯理はわざわざ部活終わりに、誰もいなくなった教室のプロジェクターを使って、こねてきた案を発表した。


「人間、絶景を見て、旨いものを食べ、そして酒を呑めば、幸せになれるんです。そこで!私が提案するのはこちらっ」

「なんだー?この雑コラ」


 桜全開春爛漫な山奥の村の写真の上に、そばとかおやきとか日本酒とかが、適当に散らばっている。


「せめて、画像を切り抜けよ……」

「えーっ、だってやり方知らないですし……。あれどうやってるんですか?」

「別に、そんな難しいことじゃないよ。調べればすぐ出てくるのに」


「とにかくっ、伝わればいいんです、伝われば」

「それって長野?来週の遠足で行くけど」

「そう、それなんです。せっかく遠足に行くわけだし、この機会に全力で楽しませましょうよ」

「なるほど妙案だなぁ」

「ちょうどうちの父が、雑誌記者をやってて、あの辺りも取材したことがあるんですよ。それで、立案を手伝ってもらいました」


 颯理は絶景スポットを10か所くらい、次いで絶品グルメも10個ぐらい……、この時間が一番腹減るというのに、殺意が高い。もっと関係ないこと考えないと、五段階欲求の承認欲求どころじゃない。生理的欲求のところが揺さぶられている。


「どうだった?この中から選ぶ感じがいいと思うんだけど」

「そうだねぇ、重要な情報が左上にあって、すごくいいパワポだったと思うよ」

「え?そういうことじゃなくて……」

「あと、やっぱり全体的に、情報が整然としてるし、ちょうどいい情報量だなーって思った」

「何でパワポの感想を?」

「颯理が旨そうな肉の写真とか出すからだよ!」

「あっ、確かに、改めて見ると……これすごいね。プロのカメラマンが撮った写真らしいけど」


「まっまあ、選べば私たちも食べられるわけでしょ。どこがいいかなー」

「ただ、値段という問題もありまして……」


 颯理は信州牛の箸上げを見て、しみじみとそう言った。


「じゃあ無難にそば?」

「でも、非日常感が足りないと思いませんか?」

「確かにー?普通に遠足で行くような場所じゃ、つまらないか」

「なのでもう、肉しかないです。焼肉、行くぞーっ」

「時雨の懐事情は未知数だし、なるべくリーズナブルな場所でね……」


 これはたぶん、颯理が肉を食べたいだけなのだろうが、まあこんなパワポを作っていたら狂わされても不思議ではない。こんな調子で、遠足のプランを計画した。ふふっ、重言ができちゃった。

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