自己紹介
一睡もできなかった。しかし、両親は無慈悲に私を学校に送り出す。せっかく受かったんだから、と。何がせっかくだ、得点開示はしてないけど、たぶん余裕だった。
怒りに身を委ね、動くものすべてを破壊し、常若の国もパンデモニウムも揺るがし、目玉焼きの焼き加減に文句を言いたいところだが、あいにくそんな体力は持ち合わせておらず、不愛想に家を出た。
「おーい、おーい、おーーーーい。……ここに塩ゆでした枝豆とビールがあるぞー。いやダメに決まってるか、そんなんじゃ」
気持ち良く電車の中で眠っていたら、体は揺すられ、なぜか酒で釣られると思われ、そして最後には頬を思いっきり叩かれ、目を開けると例の少女に引っ張られ、電車から降ろされていた。これがヨーロッパ式の、無賃乗車摘発かー……いや、定期券持ってますけど?
「相変わらず死んだ魚のような目してんな。よほど重症な恋をしてるのね……」
「んぁー……、あー先日はどうもー……」
私は見えてはいるが、一応雰囲気を重んじて、目をこすりながらそう言った。目をこすると、網膜剥離のリスクが増すと聞いてしまって以来、必要以上に避けていたんだけど……。
改めて目の前の人間を見てみると、やっぱり少女と言うにはいささか大人びているような気がした。ひらひらした服装とか、ふくらはぎのあたりまで覆うブーツとか、細い皮ベルトの腕時計とか、そういうところは大人の女性だ。でも身長とか、後ろで編み込みを束ねているシックなリボンとか、言動とか年相応な部分もあって、彼女は高校生ぐらいなのかもしれない。
「まったく、二日目から寝過ごして遅刻なんて……、たるみすぎでしょ」
「眠いもんは眠いんだもん」
「ちゃんと夜は11時までに寝て、朝は7時に起きる。体も心も健康になれますよ」
「えー……、小学生?」
「夜更かしするのが、大人への第一歩だと思うのはやめたほうがいいよ。人間は、朝が一番パフォーマンス出るんだから、それに合わせるべきだよ」
「そう言えば、どうして私と一緒に歩いてるの?」
「え?」
「え?」
小ぎれいに舗装された歩道を、早歩きして学校へ向かっていたら、この少女は必死に靴音鳴らして横をガードしてくる。
「だって、この道をまっすぐ行った先でしょ?白高って」
「そうだねぇ、そうだけど、そうだから?」
「もしかして、私のこと、あんたの担任の先生だと思ってる!?」
「担任?何か腰の低いおじいさんだった気がするけど」
「誤解を解いておくと、私も白高の新入生だよ?ぴっかぴかで、自由電子たっぷりの一年生っ!」
「ふーん、そうなんだ」
「おぉーいっ、会話へたくそすぎだろ!もっと私を知ろうとしろよ!」
同じ学校の生徒だとは思わなかったので、ましてや同級生だとは思わなかったので、名前も聞いていなかったが、ここは彼女のお望み通りにしてあげよう。
「はい、じゃあ名前は」
「私は
「
「いや、私を何だと思ってるんだ」
「うーん、命の恩人?」
「セミコロンを浮かべないでよ……。事実っちゃ、事実なんだし」
「素直にクエスチョンマークを浮かべたよっ」
「まあ私はクラスこっちだから。またね~」
さすがにクラスが同じとか、そういう奇跡はなかった。んあっ、そうだったら何があるんだ?
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