第36話


 間取りは全く同じだけれど、部屋の雰囲気は彼の個性が出ていた。

 室内は限りなく黒色に近いダークブラウンで統一されていて、間接照明や観葉植物が落ち着いた雰囲気を演出している。


 出してくれたカプチーノは、あの子の家で飲んだものと全く同じものだった。

 美味しいけれど、叶が入れてくれた方が美味しく感じるのだから不思議だ。


 「驚きました?」

 「あの、目白さんと叶ちゃんって……」

 「兄弟ですよ」


 隠すつもりはなかったのか、あっさりと打ち明けてくれる。

 同い年なため二卵性の双子だったのだろうかと考えていれば、目白圭は彼ら家族しか知らないであろう事実を教えてくれる。


 「血の繋がってない、ですけど……だから同い年。幼稚園の時に家族になって、けどこういう業界だから秘密にしてる。事務所は双方知ってるけど」

 

 面白おかしく、記事にされることを恐れているのかもしれない。

 攻撃的な人がたくさんいることを知っているからこそ、慎重になっているのだ。


 「……だから黙ってたんですね、目白さんのこと」

 「それだけだったら、叶は夢実さんに話してたと思いますよ」

 「え……」

 「全部見たんでしょう?叶の秘密」


 机の上にあった箱の存在を思い出す。

 中に入っていたキーホルダーは、アイドルの練習生時代に作ってもらった夢実のグッズ。


 「あれって、どういうことなんですか?」

 「詳しくは本人の口から聞いた方がいいと思うけど……叶はずっと夢実さんの情報をオレから聞き出してた」

 「どうして、そんなこと……」

 「同じ事務所だからって、オーディションの開催からデビューメンバーに選ばれたどうか……夢実さんが夢を叶えられたかどうか、ずっと気にしてた」


 天才女優だった頃から、叶は夢実のことを知っていた。それどころか、熱心に応援してくれていたのだ。


 「何で私なんかのこと……」

 「ファンだったから」

 「ファンって私まだデビューすらしてない無名なのに……」

 「誰かを応援する気持ちに無名か有名かなんて関係ないでしょ」


 シトラスの香りが充満する部屋。

 叶が目白圭の存在を隠したのは、自分が夢実の情報を聞き出していることを知られたくなかったから。


 「……誰よりも天口さんを見守って、応援してたのはたぶん叶ですよ」


 つまり、2人は付き合っていない。

 それどころか法律上は兄弟で、おまけに叶は夢実のファン。

 ずっと前から、陰ながら応援してくれていたのだ。


 「……叶ちゃんが私のファンだったなんて信じられない」

 「オレがこんなこと言うのは変かもしれないけど……ちゃんと真面目に頑張っていた姿を見てくれる人はどこかにいるものですよ」

 

 天才なあの子のことを思い浮かべているのか、圭がおかしそうに笑っている。


 「バカだよね、アイツ。推しのために女優辞めちゃうんだもん」


 少しずつ、ピースがハマり出す。

 

 ずっと、偶然だと思っていた。

 あの天才女優が自分と動画配信者をやっていることは全て運だと。


 自分は付いていると思い込んでいたけれど、だけど本当は、全て仕組まれていたことなのかもしれない。

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