第25話
スマートフォンの画面と睨めっこをしながら、どうしたものかと頭を悩ませていた。
あれからさらに1ヶ月が経った。
コンスタントに動画をあげているが、登録者は8万人を超えたところで伸び悩んでしまったのだ。
二人で眉間に皺を寄せながら、どうしたものかと考える。
「どうしましょうか」
「面白くないのかな?」
「話題性はあります。コメント欄も好意的なので内容としては問題ないはず」
「じゃあどうして……」
「インパクトですかね。私たちの動画は良くも悪くも安定しています。再生数もどの動画も変わらない…新規獲得のために話題性のある動画がないのかも」
冷静な分析になるほどと納得する。
「じゃあ何か考えないとね」
残された時間は決して短くない。
10万人を越えないと芸能科にはいられなくなる期限まで、あと3週間しか残されていないのだ。
「ほくろの場所でも暴露します?」
「天才女優のほくろの場所なら需要あるかも」
「元、ですから」
最近は慣れてきたけれど、ふとした時に彼女の美しさに驚かされる。
眞原叶は皆が憧れる元天才女優。
よくもそんな人が、自分とカップルチャンネルをやってくれていると改めて考えていた。
お弁当を袋に詰めて、お客様に両手で渡す。地域密着型の小さなお店だからこそ、ひとりひとりのお客様に丁寧に接客するようにしていた。
人が引いて、落ち着いてきたタイミングてぼんやりと考える。
一体どうすれば登録者が増えるだろうと、最近はその悩みに支配されてしまっている。
「天口さん聞いてます?」
「すみません、なんでしょうか」
「スキャン支払いの控えを貼るノートがいっぱいで……」
「新しく持ってきますね」
戸棚にある備品ケースから、キャンパスノートを取ってくる。
スティックノリで控えを貼り付けながら、アルバイトスタッフである一に声を掛けた。
「青山さんはカップルチャンネルに何を求めてますか?」
「やっぱり仲の良さじゃないですか?自分はデートスポットとかも結構参考にしてますよ」
「なるほど……」
次の休みにデートにでも行って見よう。
以前上げたデート動画も評判が良かったため、きっと需要があるのだ。
お礼を言ってから、早速叶にデートの約束を取り付けるためスマートフォンを取り出していた。
お揃いのワンピースを着て、手を繋ぎながら休日にデートをする。
本当に恋人同士のようだと思いながら、誰に見られているかも分からないため、もちろんユメちゃん、カナちゃん呼びでお互いを呼び合っていた。
「これとかユメちゃん似合いそう」
「え、こんなに可愛いの似合わないよ!」
「そんなことないって!だったらお揃いで買おう?一緒なら恥ずかしくないでしょ」
もちろん、これは動画にするためのデートだ。
スマートホンのカメラで撮影しながら、叶は満面の笑みを浮かべていた。
今日はノースリーブ丈のニットワンピースを身につけていて、普段よりも大人っぽい。
夢実は薄紫色で、叶はピンク色だ。
ショッピングを終えてから、続いてカフェへとやってくる。
「ほら、あーん」
注文したのはショートケーキのドリンクセット。叶は躊躇うことなく、てっぺんに乗っている苺を夢実に食べさせてくれた。
彼女のフォークからパクリといちごを頬張るが、もちろんここも撮られている。
「おいしい?」
コクリと頷いてから、今度は夢実がケーキを切ってから、叶の口元へ運んでやった。
「カナちゃんも」
自然なイチャイチャに、これで付き合ってないのだからすごいなと考える。
さすが元天才女優。
本当に夢実のことが愛おしくて堪らないとでもいうように、優しい目線を向けてくれる。
「ユメちゃん口元ついてるよ」
彼女の手が伸びて、人差し指で唇の端についたクリームをすくわれる。
躊躇なく、叶はクリームの付いた指を舐めていた。
「可愛いね」
「……カナちゃんの方が可愛いもん」
だってこんなにも優しくて、可愛くて、頼りになる女性。
自然と口からこぼれ落ちた。
「カナちゃんは、本当に可愛い」
演技ではなくて、本音だった。
胸が少しだけ苦しくなって、だけどそれも嫌じゃない。
あまりにも彼女と一緒にいすぎて、まるで自分のもののような錯覚を起こしてしまいそうになるのだ。
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