第5話「大根の葉・お風呂」
鉄拐仙人、台所で何かを茹でている。
「何です? 漢方薬?」
ヤカンを弱火で茹でているので、冬子は漢方薬だと思った。
「スーパーに買い物にいったら、これが売っていたんだ」
鉄拐仙人はお味噌汁の具に使う大根の葉を乾燥させた袋を見せた。
「大根の葉の味噌汁を作るんですか?」
「いや、いや、これは風呂に入れる入浴剤だ。体が温まるし、肌が綺麗になるんだ」
鉄拐さん、肌を気にしてるんだ! あんなにボロボロで汚い身なりだったのに……
「なんだ、意外と言う顔をしてるぞ。これは、仙術の秘伝だ。肌の病気や免疫の病気にはよく効くんだぞ。もっとも、こんな小さな袋ではなく、もっといっぱい欲しいがな」
「祖父も昔は使っていました。最近は大根の葉も手に入りにくいので、わたしはやらないですけど」
「三日月流でも大根風呂は使われていたか、病気の始まりなら、これでも治るんだろうがな。こじらせて高い薬を使ったり、手術をしないで済むのに……」
「今は、大根の葉も漢方薬屋さんに行かないと手に入らないし、沸かし直しの出来ないお風呂が多いから薬草風呂は難しいですよ」
「そうだな、山にいる頃は薬草を風呂に入れて真っ黒な湯に浸かっていたが、町中では難しな」
「食用の大根の葉なら食べた方がいいんじゃないですか?」
「食べてもいいだろうが、効果が違う。まあ、こんな小さな袋の物だから、湯舟に3分の1くらいしか湯を張らないで大根の葉の汁を入れるがな」
「3分の1ですか?」
「そう。行水みたいなもんだな。それでも体を沈めると首まで浸かれるんだ」
「へ〜っ、そんなことしてるんですか」
「この家の風呂は、すぐに湯舟に湯が溜まるが、沸かし直しができない。大量の大根の葉の汁を作るのはもったいないから、こんな入り方だ」
「3分の1の湯舟で終わりなんですか?」
「いや、お湯が少ないから、すぐにぬるくなる。大根の葉の汁で体をこすったらお湯を足す。心臓の下くらいまでだな。そうしたら、温かいお湯にタオルを浸して目を押さえるんだ」
「それは、あれですか? マイボーム腺!?」
「詳しくは知らんが目の調子が良くなるんだ」
「それは、目の表面を流れる脂の流れが良くなるんですよ!」
冬子が鼻息を荒くして興奮気味に言う。
「そうなのか?」
「そうです!」
「それから湯桶に体温より少し低い温度の水を作り、目と鼻を洗うんだ」
「それは、湯桶の中でまばたきをして、手で水をすくって鼻の中に入れるやつですか?」
「そうだ。三日月流でもやってるのか?」
「やってます。だいたい洗面台で洗面器をつかいますけど……」
「わしは、風呂に入っているとやることないから、目と鼻を洗って導引もするぞ」
「どんな導引をするんです?」
「キン○マを軽く揉んだり、チン○コの先端を軽く押したりする」
「……、それ、あたし無いのでいいです」
「女の子は、胸を優しく揉むんだ」
「乳がんの予防や検査ですね!?」
「いや、おっぱいがでっかくなるんだ」
「…………」
「あとは、お尻を揉むのもいいぞ」
「お尻が大きくなるんですか?」
「いや、痔の予防だ。お尻の穴も揉むといい」
「…………」
「風呂の湯舟は冷めやすいから、最後にお湯を足して肩まで浸かってから出るといい」
「心臓までのお湯を出る前に肩まで入れるんですか? なんかもったいないな」
「そうだな、肩まで浸かって、すぐにお湯をすてるからもったいないが、これをケチって病気になると、かえって金がかかるぞ。体を温めるのはケチらんほうがいい」
「薬草のお風呂を入った後はシャワーを浴びるんですか?」
「大根の葉は、独特の匂いがあるからシャワーを浴びたほうがいいな。風呂から上がったら湯冷めしないようにするのが大切だ」
「それは、汗が引いたら布団の中に入るとか?」
「布団の中もいいが、ストーブを付けて温めて、温かい物を食べたい、
「お風呂上がりのアイスクリームや冷えた缶ビールなんかはどうです?」
「たまにならいいだろうが、習慣的に冷たい物を食べると胃腸が弱り後悔することになるぞ」
「わたしのお爺さんは、河原でヨモギを採って来て、乾燥させて入浴剤にしてたんですが、ヨモギはどうなんです?」
「ヨモギもいい、体を温める入浴剤になる。ヨモギを鍋で茹でて蒸し風呂にするのも昔からやってるな……」
❃
後日、鉄拐仙人は、冬子に教えられたヨモギの生えている河原に行き、草刈り鎌でヨモギを刈っていたら警察官に職務質問をされ、怪しいということで交番に連れて行かれた。
冬子が交番に駆けつけ、認知症ということで帰れたが、鉄拐仙人というのは本名ではないようだ。
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