追想曲

宮地 秋愛

追想曲

その曲が流れるとき、私の鼓膜と脳と心臓は瞬時につながり発令する。

ふと立ちどまり。ふと手をとめて。音源を求めて目を彷徨わせる。


どこかノスタルジックで、哀しみに寄り添うように降り積もる、光の粒子のような音の連なり。旋律はやがて静から動へ、聖なる光と慟哭がまじりあい、共鳴して、昇華されていく。


私の半生に、この曲によって蘇る記憶はなかった。

ただ耳を澄まして流れる雰囲気にひたっていた。


記憶が蘇るとしたら、今、この時から。

未来で、きっとこの一瞬を振り返る。


この曲を作られた音楽家の逝去を知り、昏い社会問題を見据えあまねく影響を与えた活動家だったのだと知り、そして時代を振り返るときこの曲は呼び水となって私の心を癒すのだろう。


――この曲を世に送り出してくださりありがとうございます。


殻に罅を入れられ泣いたリスナーより、哀悼の意を込めて。

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追想曲 宮地 秋愛 @tokiemi

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